17話
シグルはさてと次にする事を考えた。マリアナと会ってから早くも一週間が過ぎていた。その間に彼女の部屋を侍女や女官達に整えさせていた。
王宮にマリアナを住まわせるのは父や母の提案ではあったが。マリアナが馴染めるか心配ではある。
執務室にてシグルは書類をまとめながら、侍従や補佐官に指示をしたのだった。
「…兄上。お久しぶりですね」
昼のお茶の時間にシグルに声をかけてきたのは弟のシェイドだ。今年で彼は16歳になる。シグルよりも五歳は下になるが。年齢に関わらず、父の太公や兄である自分の補佐をよくしてくれていた。
最近は執務の引き継ぎを父から少しずつしてもらっていると聞いた。成長するのだなと感心はしている。
「ああ。シェイドの方こそ久しぶりだな。二週間ぶりくらいか?」
「それくらいにはなりますね。兄上は婚約者殿の事でお忙しかったようですから。おかげで僕の分の書類が増えるばかりで困りましたよ」
苦笑しながらシェイドはちくりと嫌味を言ってきた。シグルは肩をすくめながらすまないなと謝った。
机にある紅茶が入ったティーカップを手に取って口に運んだ。ふんわりと林檎の香りが鼻腔を通る。
「…これはアップルティーか。良い香りがするな」
「ああ。そのようですね。兄上はお嫌いでしたか?」
「いや。嫌いではない。シェイドはどうなんだ?」
聞き返してみるとシェイドはティーカップを鼻の近くまで持っていき、香りを嗅いだ。
「これは。兄上。林檎に似ていますが。どうも、毒のようですよ」
意外な事を言ってみせた弟にシグルは目を見開いた。ティーカップを鼻に持っていくと確かに林檎の中に少しだけ、酸っぱい感じの匂いがした。
シグルはティーカップをソーサーに戻すと飲み込んでしまった紅茶を吐き出すために立ち上がった。シェイドは少し離れた位置にいた侍従にすぐに水を持ってくる事や医師を呼ぶように命じた。
「…兄上が毒を飲まれた。吐き出させるために水を持ってこい。後、医師を呼べ。すぐに侍女たちにも知らせに行け」
「はい。ただちに用意します!」
侍従は返事をすると駆け出していった。シグルは目眩を感じてうずくまってしまう。
「兄上。大丈夫ですか?」
慌ててシェイドが駆け寄る。シグルは冷や汗をかいて強い吐き気を感じた。これをうっかり飲んでしまった自分は何と迂闊だったのだろうか。
後悔しても遅いと思いながら毒による症状と戦うのであった。
それをシェイドは見つめながら犯人は誰なのかと考えた。