16話
マリアナは自室にて仮眠をとることにした。そのため、父も母もやってくる事はなかった。ぐっすりと眠り、気がつけば夕方になっている。
侍女の一人が起こしにきたのでそれにより、やっと自分が思いのほかに熟睡していた事を知った。
よほど、王城に行ったせいで疲れていたらしい。だが、王城に居を移すのであれば早めに支度をする必要がある。マリアナは侍女に声をかけて王城にて居候する事については謹んでお受けしますと父に伝えるように言った。
「…父様に王城に移る件はお受けしますと伝えて。父様だったらすぐに手紙を出してくれるだろうから」
「わかりました」
侍女は頷いてすぐに父のいる書斎に急いで行った。マリアナはベッドからおりるとそのまま、クローゼットの扉に近づいた。扉を両方とも開けると中にはドレスやワンピース、靴などが所狭しと置かれている。
下の方に革製の鞄が二つほど入っていてそれを取り出した。マリアナはハンガーに掛けてあるワンピースを外すと丁寧に畳んで五着ほど鞄のチャックを開けて入れた。眼鏡をこの時はかけていたので迷いなく支度ができた。
衣類を一通り入れると靴もヒールではなく編み上げのブーツと踵の低いパンプスを加えた。それから、自分で必要だと思える物を片っぱしから布袋に収めるともう一つの鞄に入れてしまう。
ドレスや宝飾品は侍女達に任せる事にしてマリアナは大体の荷物の整理を終えた。さて、夕食に行こうと部屋を出たのだった。
食堂にたどり着くと姉のマルグレーテと弟が珍しくも揃っていた。父と母もいる。マリアナはそれに驚きながらも執事が引いた椅子に腰かけた。
「あら、マリアナ。またみっともない格好をしているのね」
目ざとくマリアナを見つけたマルグレーテは嫌味を言ってくる。うんざりしながらも答えた。
「…姉様はまた、派手な格好をしていますね」
「あなた。言うようになったわね。けど、眼鏡に地味な格好よりかはましだと思うわ」
「姉様には言われたくありません。私もいずれはこの家を出ます。姉様。弟の将来の奥方に対してもそのような態度でいるつもりですか?」
毅然と言ったマリアナにマルグレーテは一気に顔を赤らめた。物凄い目つきで妹を睨みつける。
「…あんたに何がわかるというの!家を出るのがなんですって。いい気になるんじゃなるんじゃないわよ!」
「姉様。私は事実を告げたまで。家を出たら私は皇太子妃になります。それでも、まだわがままに振る舞っていたら家の恥になるし。何より、大公陛下に目をつけられますよ」
そう言うとマルグレーテは顔を一気に今度は青ざめさせた。弟と両親は事の成り行きを静かに見守っていたのだった。