13話
庭園で何かを考え込んでいるらしいシグルにマリアナは首を傾げた。彼は口数が少ないというわけではない。むしろ、普通といってもいいくらいだ。
(何を考えているのかしら?)
そう思いながらもチューリップを眺めてみた。黄色や赤、ピンク色のものが競うように咲いている。
今日はよく晴れていて空もどこまでも澄み渡っていた。けど、父の大公と視線を交わしあっていたシグルを思い出した。あれは何だったのだろう。
しきりと首を傾げながらもマリアナはシグルから離れて歩き始めた。だが、そんな彼女を立ち止まらせる人物がいた。
今、マリアナは眼鏡を外していたのでその人物の顔形や着ている物の細部まではよく見えなかった。
「…あら、御機嫌よう。ラインフェルデン公爵家のマリアナ様ではないですか。滅多に夜会やお茶会に出てこない貴方が王宮に来ているなんてね。珍しいわ」
口調はやんわりとしているが、言葉に棘が感じられる。マリアナは声でまだ若い女性だと気付いた。香水やお化粧の香り、ドレスの色からすると高位の貴族の令嬢だと思う。
「…あの。わたしの名前をご存知だという事はグレーテの姉様と知り合いの方でしょうか?」
姉のマルグレーテの名前を出すと相手はあらと声をあげた。
「わたくしの事をご存知ないのね。確かにマルグレーテ様とは友人だけど。まあ、いいわ。名前を言うわね」
令嬢は息を吸うとゆっくりと名乗った。
「わたくしの名はフィンケ侯爵家の次女でエレオノールというの。普段はエレンと呼ばれているわ。マリアナ様、姉君と仲が悪いのは知っていたけど。わたくし、貴方がお小さい頃に会った事があるの。その時は仲がよろしかったのに。いつの間に険悪な仲になってしまったのかと皆、不思議がっているわ」
「…そんなに仲が悪いように見えますか?」
気がつくとマリアナはエレオノールに問いかけていた。エレオノールはため息をつくと頷いたらしかった。
「ええ。わたくしから見たらグレーテ様が一方的に貴方を嫌っているようだけど。マリアナ様はグレーテ様、嫌いではないでしょう?」
「そんなに嫌いではないです。怒られると少し、怖いと思うくらいで。エレオノール様はよく見てらっしゃいますね」
「…そんなにわたくし、洞察力があるわけではないのだけどね。あ、ごめんなさい。初対面に近いのに失礼な事を言ってしまったわね。では、わたくし、もう行きますわ。また、会いましょうね」
エレオノールは手を振りながら庭園を去って行った。それを見送るマリアナは複雑な心境だった。