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10話

シグルはマリアナの腕を掴んだままで、玄関ホールを突っ切り、外に出た。扉の近くに馬車が停めてあり、シグルはマリアナを先に中へ無理に乗せる。

「…あ、あの。シグル様?!」

「…ごめん。マリアナ、事は急を要するんだ。父上と母上が無理にでも君を連れて行くようにと仰せでね。だから、王宮に来てもらうよ」

訳が分からないまま、マリアナは馬車の中の席に座った。シグルは自分で扉を閉めると向かい側に同じように座る。

マリアナは動き始めた馬車の中でどうしたものかと悩んだ。景色を眺める余裕もない。

シグルの目的は何なのかがわからない。ただ、太公と公妃がお呼びだとしか聞いていないのもある。

がらがらと車輪の音が響く中、シグルが切り出してきた。

「…マリアナ。その、君と婚約をすると申し上げたら。父上が明日にでも連れてこいと仰せで。正式に婚約式を済ませたら、君は王宮で暮らすことになるだろう。皇太子妃の宮を今、準備させているんだ」

「…え。皇太子妃の宮を準備させているって。あの、婚約式はいつ頃に催されるのでしょうか?」

呆気にとられて尋ねるとシグルは苦笑いしながら、答える。

「ああ、その。父上に会ってもらったら、翌日に婚約式の予定になっている。今、母上がわたしの衣装や君の衣装などの事で大わらわのはずだよ。何せ、父上が若かりし頃は側妃がたくさんいて正妃を選ぶのに一苦労したらしくて。その事から、わたしの場合は正妃を決めたら、即婚約をと小さい頃から言われていたんだ。君は外見も良いけど。中身もなかなかだ。穏やかだし控えめだし」

褒めだしたシグルにマリアナは気の抜けた返事しかできない。

「……はあ。そうですか」

「…マリアナ。君をわたしの正妃にしたいのは本当だよ。一目見た時から、この人だと思ったんだ」

熱心に言われてもピンとこないマリアナにシグルは痺れを切らした。彼女の手を取ると優しく握った。

「わたしと早めに結婚してほしい。父上には早くても半年後には結婚式を挙げたいと伝えるから。君もそのつもりでいてほしいんだが」

「…半年後ですか。また、急ですね」

「わたしが待ちきれないからね。父上も母上を正式に正妃にするのに二年はかかったらしいから」

二年という言葉を聞いてマリアナは仰天する。

確か、現太公のサミュエル陛下はお若い頃はかなりの浮気性だったらしい。シグルの言う通り、側妃が十人はいたと聞く。その内、一番最後に入った現公妃のメアリアン殿下をいたく気に入り、他の側妃たちは実家に帰したり、国内の有力貴族に下賜したりした。その上でただ一人の妃として彼女を迎え入れたという。

その逸話の持ち主の息子であるシグルだが浮いた話は一つもない。走り続ける馬車の中でため息をついたマリアナであった。

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