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レディネス・プリンセス

作者: 田山歴史

えーと、まずこの小説をうっかり見つけた読者の方にごめんなさい。特に僕の家族のコッコさん つヴぁい! という小説の更新を待っている人にはなおのことごめんなさい。


時折、こういう小説を書きたくなる作者です(謝)

深夜でやってる外国の胡散臭い番組並みに胡散臭い小説ですが、読んでやってもらえると嬉しいです。

「死にたいなら、まぁ死んでもいいんじゃねーの? 絶対に誰にも迷惑かけないって断言できるんだったら、どんな所で死んでもそれはお前の自由だ。ただし、確実に言えるのは誰にも迷惑かけない死に方なんてのは絶対に不可能だ。自殺すりゃ主に警察の方々に迷惑がかかるし、病死だって家族に迷惑がかかる」

「……それってつまり、死ぬなってコトじゃないの?」

「違うね」

 少年の問いかけに、眼帯の男は肩をすくめて、にやりと笑った。

「とりあえず人のことを考えておけば……死ぬ暇なんてないことに気づくだけさ」



 この世界には勇者がいる。

 彼女の名前は神城明かみしろあきら

 世界最新の勇者である。

 もっとも――――

 彼女には、守りたい物は一つしかなかったけれど。



 そして、勇者がいるのなら魔王がいるのも道理。

 彼の名前はシュヴァルツ=ルイン=シェラハルド。

 世界最新の魔王である。

 もっとも――――

 彼には、欲しい物なんて一つしかなかったけれど。



 運命や宿命というものがあるのなら、それはまさに言葉通りだった。

 不幸な人間を見て笑う。

 破壊され奪われる様を見て笑う。

 沈み壊れ死に行く誰かを見て笑っている。

 この世界に残る善を否定するかのように、全ての悪を肯定するかのように笑う。

 それこそが自然で周囲が不自然。いや、周囲から見れば自分はあまりにも異質だと知ったのが三歳の頃で、その頃には既に自分がどういう存在なのか分かっていた。

 不幸を笑う。崩壊に愉悦を感じる。死を楽しむ。

 ほんの少しだけ聡かったばかりに、自分がそういう人間(バケモノ)だと悟った。

 悟ってはいけないことを悟って、知ってはいけないことを知った。


 自分は生きてちゃいけないんだと、知った。



 この物語の主人公の名前を、神城夜宵(かみしろやよい)という。

 低身長のくせにハイパワーで、顔だけはやたら可愛いいという、男に嫌われる男の典型で、ついでに言えば『ちっちゃくって可愛い』とクラスの女子(一部男子)にはやたら評判が良かったりするのがまたかなりのヒンシュクを買っているという、そういう珍しいタイプの少年だった。

 そんなちょっとだけ他人よりもコンプレックスの強い少年の密やかな悩みは、最近ものすごい勢いで虐待されているということである。

 クラスの男子や女子にではない。年下の女の子にである。

「こんにちは夜宵くん。今日もずいぶんと楽しそうね」

 放課後、授業も終わり夜宵がそそくさと逃げるように教室から出ると、その年下の女の子は異性ならば誰もが見惚れるであろう素晴らしい笑顔で笑っていた。

 夜宵少年はビクッと肩を震わせて、涙ぐみながら振り向いた。

「……ち、千秋ちゃん」

「もう、そんなに怯えなくてもいいじゃない」

「いや、だって……」

 千秋ちゃんの存在が超怖いもん、とは夜宵は言えなかった。

 そんな彼女、仙道千秋はほんの少し頬を赤らめる。

「まぁ、夜宵くんのことは比較的どうでもいいんだけど、それより明お姉さまはどこにいるの? 今日は美味しい洋菓子店を見つけたから一緒に行こうっていうか、ぶっちゃけデートに誘おうなんて思ったりしたんだけど」

「………………」

 夜宵少年は、いつも通りに泣きそうになった。

 仙道千秋。腰まで伸ばした黒髪が印象的な、つり目の可愛らしい少女。

 しかし、可愛いのは外見だけであり、性格と性根と根性と趣味がこれでもかこれでもかこれでもかというほど曲がっている。


 はっきり言ってしまえば、彼女は百合である。


 まぁ、つまり夜宵の双子の姉である神城明のことを、友達とかそういう垣根を越えて愛してしまっており、これに夜宵は思い切り引いていた。

 それだけならばまだいいが、明を毎日のようにデートに誘おうとする千秋に『おまけ』として色々と引っ張られた挙句にストレスで心労と食欲不振を引き起こし、夜宵はここ数ヶ月で三キロほど痩せている。

 こういう気の細さというか肝心な時以外の度胸がからっきしなこの人物は、自分の姉を『お姉さま』と呼んでいる千秋のことが、かなり苦手だった。

「で? お姉さまをどこに隠したの?」

「いや、隠してはいないよ。先生とちょっと話してたから、そろそろ来ると思う」

「……ふん、嘘は吐いてないみたいね」

「や、今までにも嘘を吐いたことはなかったと思うけど」

「どーだか。アンタってお姉さまの寵愛を一身に浴びてるせいか超羨ましいっていうか、とにかくむかつくのよね。今度三発ほど殴ってあげるから覚悟しときなさいよ」

「………………」

 殴って『あげる』という言葉を聞いて、夜宵は心底日本の未来が心配になった。

 あと、どうでもいいけど寵愛はやめろと思う。いくら自分の外見が少々アレで、双子の姉のくせに可愛いものが大好きな明が普段から自分のことを可愛がっているとはいえ、自分だって高校二年生の男子なのだ。

 家族や姉のことを鬱陶しいと思う時もある。


「誰だ?」


 だというのに、弥生の目を塞いだ女はいつも通りに問いかけてくる。

 そこはどう考えても『だ〜れだ♪』と甘い声で言うところであって、決して淡白な声で言うセリフではない。

 夜宵はこっそりと溜息を吐いて、いつも通りの答えを出す。

「明」

「ん、当たりだよ、夜宵。今日も可愛いな」

 本人としては褒め言葉のつもりだろうが、夜宵にとっては激痛なことを言いながら彼女は手を離す。

 身長187センチという長身、ショートカットに猫のような大きな瞳。いつもはぼんやりとしているのだが体を動かす時になると、枷が外れたかのごとく力量を発揮する、バレー部所属のスポーツ万能。二卵性の双子のせいかあまり夜宵と似ていない。

 実はこっそりと剣術もやっており、護身で頭にヤのつくガラの悪い人をぶちのめしたこともあるという経歴を持つ、ある意味では人間凶器。

 名前を神城明。夜宵が知る中で、二番目に強い女性だった。

「しかし珍しいな、夜宵はいつもならさっさと帰っちゃうじゃないか」

「……千秋さんに呼び止められたもんで」

「お姉さまっ!」

 さっきまでの傲慢な態度を地平線の向こうまで吹っ飛ばして、瞳をキラキラと輝かせながら、千秋は夜宵を思い切り蹴り飛ばして明に駆け寄った。

「この仙道千秋、お姉さまが来るのを一日千秋の思いで待ち望んでいましたっ!」

「あはは、千秋はいつも大げさだなァ。えいえい」

 明は千秋の頭をぐりぐりしながら髪の毛をぐしゃぐしゃにする。

 これは別に千秋のことが嫌いなのではなくて、少々豪快な愛情表現だった。

 言うまでもなく、せっかくおしゃれに飾った髪の毛をぐちゃぐちゃにされるのはかなり嫌なことだろうが、千秋は気にも留めない。

 それくらいに、千秋は明のことが好きなのだった。

「お姉さま、実は今日は美味しい洋菓子店を発見したので、こうしてお誘いに来たわけなんですけど……その、今日は大丈夫ですか?」

「うん、オレの方は大丈夫。今日は部活がないからな」

「じゃあ一緒に行きましょうっ! ……あ、夜宵くんは今日予定があるそうなんで、一緒には来れませんから。ね、夜宵くん?」

「……ま、そうだけどね」

 本当は特に用事もないのだが、なんかもう面倒なので適当に頷いておく。

 女ってのは好きな人のためならここまで嫌な人間になれるんだなぁと思って、夜宵はこっそりと溜息を吐いた。

「どうした、夜宵。なんだか妙な顔をしているけど」

「や、なんでもない。じゃあ僕はそろそろ帰る」

「今日の夕飯は?」

「週に一度のカレー」

「ん、分かった。じゃあ今日は早く帰る」

 無類のカレー好きな明は、にっこりと笑ってから夜宵に手を振った。

 それと同時に夜宵も背を向けた。千秋が目の笑っていない笑顔を浮かべているのがとんでもなく怖かったというのもあるが、なにより付き合い切れなかった。

 夕日の差し込む廊下を歩きながら、夜宵は思う。

(……ったく、なんであんなに『恋愛』ごときに夢中になれるのかな……)

 内心で歯がゆさを感じ、その歯がゆさがなんなのか分からないまま夜宵は歩き出す。

 とりあえず、カレーの材料を買うために商店街に向かおうと思った。



 駅前にある喫茶店。元々コーヒーが美味いと評判だったその店は、今年の春には洋菓子店に生まれ変わった。

 大抵そういう大胆なことをした店は潰れてしまうのが常なのだが、なかなかの味と評判の洋菓子店は高校生や主婦を中心に少しずつだが流行っているらしい。

 千秋も友人の紹介でその店を知り、せっかくだから好きな人を誘ってケーキでも食べようと思ったわけである。

「ところで、千秋ちゃん。夜宵のことはどう思ってる?」

「ふえ?」

 幸せな気分でチョコケーキをパクついていた千秋は、予想外の言葉に顔をしかめた。

「どうって……お姉さまの弟さんくらいには思ってますけど」

「まぁ、そんなもんか」

 いい返事はあまり期待していなかったのか、明はコーヒーを一口飲んでから、少しばかり考えて口を開く。

「……実は、ちょっとした相談に乗って欲しいんだ」

「相談?」

「うん。……まぁ、夜宵に関係することではあるんだけど」

「私でよければ喜んで」

 そうは言ったものの、千秋の想像では、夜宵は八つ裂きになっていたりする。

 中学校の頃に色々とやりすぎたせいで陰湿なストーカーに付きまとわれていた千秋を助けたのが明で、その格好良さに一目惚れした千秋は、それ以来明に付きまとうようになった。

 そんな彼女が目下ライバル視しているのが明の双子の弟の夜宵で、どんくさい低身長童顔という妙な属性を持つ男を、千秋はそれなりに嫌っていた。

 ありていに言えば、嫉妬である。

「それで、あのショタ男がお姉さまにどんな迷惑を?」

「そんなに、大したことじゃないんだけど……いや、オレにとっては大したことなんだけど」

 奇妙に言いよどみながら、明はゆっくりと口を開いた。

「将来についてなんだ」

「将来?」

「うん」

 こくりと頷いて、明はコーヒーを口に含む。

「高校一年の時点でこんなことを考えてるとアホみたいだって思われるかもしれないけど、オレ、体育大学に進学したいんだ。あんまり頭も良くないし、スポーツだけが取り柄みたいなもんだからさ」

「お姉さまなら十分可能だと思いますけど……」

「ありがとう、世辞でも嬉しい。……でも、問題なのはこの近くに体育大学がないということなんだ」

「自宅通学がいいってことですか?」

「いや、単純に夜宵がいないとオレは死ぬってことだ」

 それは、まぁなんというか千秋の時を止めてしまうような一言だった。

 カチャン、とテーブルにフォークが落ちる。

「あの、つまりそれって……」

「うん。つまりオレは駄目人間ということなんだ。恥ずかしいことに」

 沈痛な面持ちのまま、目を逸らして恥ずかしそうに顔を背ける明に対し、千秋はなんかもう世界とか滅べばいいのにと心の底から思っていた。

 明はゆっくりと溜息を吐いて、頭を掻いた。

「ホント、こんなことならちゃんと家事を手伝っておけば良かったよ」

「…………え?」

「や、だから、オレは一切合財家事ができないんだ。炊事洗濯掃除は全部夜宵に任せっきりでな。中学の頃はわりとやんちゃしてたし、遊び歩いてたし、家庭科の時間とかは食べる専門で包丁も握ったことないし」

「…………そ、そぉですよねぇっ! 家事のことに決まってますよねっ!!」

 誤魔化すように笑いながら、千秋は己の発想の下劣さに冷や汗をかいた。

「うん、この歳になってオムレツも作れないとは恥ずかしい限りだ」

「いえ、でもオムレツって結構難しいんですよ。半熟加減とか、包むタイミングとか」

「千秋ちゃんは料理ってできるの?」

「はい、そりゃ家じゃ結構作ってますから」

 この時、千秋はささやかな嘘を吐いた。

 それは好きな人にいい所を見せたいというささやかな嘘ではあったが、この後の展開を予想できなかった千秋はその嘘を実現させるために様々な苦労をすることになる。


「じゃあ、オレに料理を教えてくれないか?」


 明が言った思わぬ一言に、千秋は硬直した。

 千秋はあまり料理が得意ではない。それどころか掃除も洗濯もロクにやったことがない。地味で文句が多い世話焼きの兄の趣味というかほとんどライフワークのようなものが家事ということもあって、千秋は洗濯機のボタンに触れたことすらなかった。

 しかし、ツケは回ってくる。さぼったぶんの代償はどこかで払わなくてはならない。

「りょ……料理、ですか?」

「ああ。洗濯とか掃除はコツを掴めばなんとかなるし、これまでもちょっとくらいはやってきた。でも、料理に関しては本当にノータッチだったからな」

「…………料理」

 千秋は心の中で思い描く。

 ここで断るのは簡単だ。私は料理があまり得意じゃないと言えばいい。

 だが……これはチャンスだ。

 そんな思いが、乙女に修羅の道を歩ませることを0.1秒で即決させた。

「分かりました。この仙道千秋にどーんとお任せくださいお姉さまっ!」

「ありがとう。うん、やっぱり千秋ちゃんはいい子だ」

「違いますよぅ。この仙道千秋、お姉さまのためならたとえ火の中水の中、悪魔だろうが天使だろうが魔王だろうが挑んでみせますわっ!」

 その言葉はまぎれもない事実で、今まさに千秋はそれを実践したのだが、明はそのことには気づかずに微笑むだけだった。

 が、明は不意に表情を引き締めて、窓の外を睨みつけた。

「どうしたんですか? お姉さま」

「…………今、なんか嫌な感じがした」

「え?」

「ごめん、千秋ちゃん。この続きと謝罪は後日」

「あ、え? あの、お姉さまっ!?」

 明は険しい表情のまま立ち上がり、財布から二人分の会計を取り出しテーブルに置くと、ものすごい速さで店から出て行った。

 千秋は腰を上げようとして、ほんの少しだけ溜息を吐いて腰を落ち着けた。後を追うまでもなく、ああなった明に追いつくことは不可能だろう。

 神城明は正義の味方、もしくは勇者である。

 彼女が嫌な予感がしたと言えば、それはどこかで嫌なことが起こっているということであり、神城明はその脅威に向かって躊躇なく飛び込んで行ける女だった。

 あの時も……千秋が助けられた時も、明は唐突に現れて、躊躇なく千秋を助けた。

 背中に傷を負いながらも、千秋を助けた。

 だから止めるのは無駄だと分かっていた。

「……行ってらっしゃい、お姉さま」

 それでも、慣れたとはいっても、ほんの少しだけ寂しさを感じながら、

 家に帰ったら兄貴に料理を教わらなきゃなぁと思っていた。



 厳かな佇まいの日本家屋。そんな神城家の庭には一組の布団が干してある。

 それを鼻歌交じりで取り込んでいる少年がいた。

 神城夜宵は基本的に怠け者である。

 夜まで家事やらなにやらをしなくてもいいと分かると、家に帰った途端に怠けだすのが夜宵という少年である。制服を適当に脱ぎ散らかし、ハーフパンツにTシャツのみというラフな服装で、彼は久しぶりの休養を満喫していた。

 干しておいた布団を縁側に取り込み、夜宵は太陽の匂いのするそれに寝転がる。

「はうー……」

 姉の明が見たら思わず頭を撫でたくなってしまうような蕩けた表情を浮かべる夜宵は、ゆっくりと手を伸ばして放り出しておいた鞄を手に取り、中から本を取り出す。

 それは、『実録・世界の掃討戦』という、小説や漫画の資料でなければ一部のマニアックな方々しか読まない分厚い本で、それを夜宵は寝惚け眼で開いた。

「…………くー」

 そして、読み始めてから三分で寝た。

 夜宵は非常に寝つきのいい少年だった。

「………もし」

「……………にゃ?」

 しかし、この日はなんだか妙に眠りにくい。

 頬を引っ張られたような感触に夜宵は顔をしかめて寝返りをうつ。

「………もしもし?」

「………………うー」

 声が聞こえたが聞こえないふりをして、夜宵は枕に顔を埋めて耳を塞いだ。

 なんだか、どこか遠くの遥か彼方で、ぶちんという生々しい音が聞こえた気がした。

「いい加減に起きなさい、神城夜宵ッ!!」

「ふぁいっ!?」

 耳元で怒鳴られて、夜宵は飛び起きる。

 目をこすって寝起きでぐらぐらする頭をなんとか再調整し、自分を叩き起こした人物を凝視する。

 そこにいたのは、金髪碧眼で色白の美少女だった。

 整った顔立ちに真っ直ぐな瞳、どちらかといえばほっそりしているが、身長160センチ(四捨五入済み)の夜宵より若干背は高いようだった。

 ただ、黒いセーターとGパンというラフな服装は、彼女には少々不釣合いだったが。

「失礼ですが、神城明様はご在宅でしょうか?」

「いいえ、明は最近友人と旅行に行ってましてね、来週まで帰ってきません」

「……そうですか」

「失礼ですが、どちら様ですか?」

 新聞勧誘を追い出す要領で、夜宵は軽く嘘を吐いて、さらに追求する。

 こちらの情報は拒絶する、もしくは虚偽で固め、相手の情報だけを入手するという、それは長年の家事担当としての巧妙なやり口だった。

 ついでに言えば、彼は美少女と金髪と人をいきなり怒鳴りつけるような人間を信用しないという、顔に似合わず生来のひねくれ者だった。

「いや、ちょっと用があったのですが……不在ならば、後日出直します」

「質問に答えてませんね。……失礼ですが、どちら様ですか? 免許証、もしくはそれと同等の身分証明書は持ってませんか? 国家資格でも構いません」

「あの……いえ、それは」

「名刺か社員証でも構いませんけど、その場合は本人確認を取るために本社の方に電話させてもらいます。あ、もしかして学生さんですか? それなら学生証くらいは持ってますよね? バスか電車通学なら定期券でも構いません。もしも外国の方ならパスポートでも一向に構いませんけど、まさか身分証明になるようなものを一切所有していないってことはありませんよね?」

「………………」

 沈黙。少女の気配が剣呑なものに変わる。

 夜宵は一歩引いて体勢を立て直す。少女は身長が自分と同じ程度。それならば相手の技量にもよるがとりあえず力負けはしないだろうと目算し、重心を変える。

「で……明にどういうご用件なんですか?」

「……そうですね」

 少女はにっこりと笑う。夜宵には分かったが、その目はまるで笑っていない。

 物腰からして格闘技の類はやっていると判断し、逃げるか戦うか夜宵は少しだけ迷った。


 その迷った一瞬で、少女は夜宵の視界から消えた。


 背筋が総毛立つ。

 肩に手が置かれている。小さくてほんの少し冷たい、女の子の手が。

「では、よい夢を」

 トン、と軽く音が響く。

 なにが起こったのか知ることもできず、夜宵の意識は暗転した。



 目を覚ますと、そこは豪華なホテルの一室だった。

 最初にやったのは体に異常がないか確認することで、一番心配だったのは打たれた首筋だったが、ほとんど痛みがないことに少しだけ安心する。

(的確にショックを与えたか……それとも痛みがないだけで後で尾を引くのか)

 五分五分かな、と夜宵は判断する。尾を引く場合は医者に行った方がいいだろう。

 夜宵が眠っていたのは高級なベッドで、趣味が悪いほど広い室内と、庶民である自分にはおおよそ縁がなさそうな品々の数々に顔をしかめて、夜宵は立ち上がる。

 高級なベッドで眠ったせいで寝起きが妙に悪いことに不機嫌になりながら、夜宵は勝手に冷蔵庫を開けて、ぶどうジュースを一気飲みした。

 そして、顔を思い切りしかめた。

「……まずい」

「そりゃすまない。キミの舌には合わなかったかな?」

「いや、そうでもないさ。中身が酒だって分かってればね」

 夜宵は目を細め、振り向いた。


「それで、貴方はどこのどちら様なんですか?」

「名前はシュヴァルツ。分かり易く言えば異世界の魔王だ」


 信じられないことを言いながら、麗しき美貌を誇る彼は豪奢な椅子に座る。

 漆のような艶やかな黒髪。鮮血のような真っ赤な瞳。モデルのような美形ではあるが背は低く、それでも身長157センチ(実寸)の夜宵よりは少し高いようだった。

「……また負けた」

「なんの話だい?」

「いや、ちょっとしたことさ。今の状況にはあんまり関係はないよ」

 開き直って、夜宵はシュヴァルツと名乗った少年に向き直る。

「……それで、アンタの目的は?」

「驚いたり嘲ったり罵ったりしないのかな? ボクはキミたちの世界で言うと、かなり電波っぽい発言をしたと思うんだケド」

「あいにく、僕は現実主義者でね。常識から外れたことでもそれが現実なら受け入れるようにしている。……それに、人を拉致監禁するような人にはなにを言っても無駄だろ」

「なるほどね」

 くつくつ、と少年は愉快そうに笑った。

「どうやら、キミはボクが知る中でも相当の変種らしい」

「僕のことなんざどうでもいいだろ」

「いや、どうでも良くはない。これは一応キミにも関係する話だからね」

 シュヴァルツは同性すらも魅了してしまいそうな笑顔でにっこりと笑う。

「単刀直入に言おう。仙道千秋という女の子に関わるのはやめて欲しい」

 夜宵は目を細め、ゆっくりと溜息を吐く。

 それは、明らかな警告だった。

「……理由を聞かせてもらっていい?」

「仙道千秋という女の子は、人間を越える人間だからさ」

「意味が分からない」

「この世界には限界値というものが存在する」

 魔王と名乗った少年は、まるで当たり前のように語り出す。

 認識してはいけないことを、口にした。

「才能限界、成長限界、まるでゲームのような呼称ではあるけれど、それは確実に世界に存在している。各個人には伸ばせるスキルや能力に必ず限界が存在し、それ以上は絶対に伸ばせないという、そういう制約だ」

「それがなんだ? 才能や努力に限界があるなんて……夢はいつか叶うなんて言葉が幻想だってことは、誰だって知っていることじゃないか」

「彼女にはそれがない」

 何気ない一言に、ドクンと心臓が鳴った。

「仙道千秋という少女には、『限界』というものが存在しない」

「ちょ……そんな」

「馬鹿なと言いたいところだろうけど、これは事実だ。仙道千秋には限界というモノが一切存在していない。……言うなれば、『無尽成長』ってところかな」

 この時ばかりは、シュヴァルツは笑っていなかった。ほんの少しだけ顔をしかめて、憂鬱そうに溜息を吐く。

「ホント、羨ましい限りだ。成長に限界がないなんて、『身の程』ってものを知ってしまった、ほんの少し優秀な連中に対しての嫌がらせとしか思えない」

「……その話を信じろって言うのか?」

「いいや、信じる信じないは君の自由だ。ボクが魔王であることを含めて、この世界の人間には信じ難いことはこちらも重々承知しているし、信じてもらおうとも思っていないからね」

「そうだね。で、アンタは千秋さんをどうしようってんだよ?」

「……やれやれ、ずいぶんと単刀直入だね」

 やれやれとは言いながらも、シュヴァルツの頬は緩んでいる。

 そして、あっさりと言い放った。


「実は、彼女をボクの花嫁にしようと思っている」


 もう迷わなかった。

 夜宵は手に握っていたワインボトルを、思い切り少年に投げつけた。

 そのワインボトルはシュヴァルツが指を振っただけで空気中で破裂したが、夜宵はそんなことには構わずに走る。

 意外なことに、夜宵はなんの障害もなくシュヴァルツの襟首を掴み、地面に引き倒すことに成功した。

 しかし、倒されてもシュヴァルツは表情を変えていなかった。

「……ふぅん。キミは、仙道千秋が好きなのかな?」

「いや、どちらかと言えば嫌いだよ。わがままで手に負えなさそうだし。……まぁ、それでも理由の半分くらいにはなるかな」

「じゃあ、残りの半分は?」

「千秋さんがいなくなったら、明が悲しむからに決まってるだろう」

 きっぱりと、何の迷いもなく、夜宵は断言した。

 覚悟と決意を秘めた瞳で、魔王を見つめながら、夜宵は言った。

「千秋さんはわがままで手に負えない人だけど……いい子なんだよ。明もそれを知っている。だから、彼女に危害を加えようとする野郎は、ここでぶちのめす」

「別に危害を加えようってわけじゃないんだけどなぁ」

「言ったろ、僕は現実主義者なんだ。……拉致監禁なんて真似をやらかす野郎の言葉なんか最初から信じちゃいないし、聞く価値もない」

「なるほど、そりゃそうだ」

 ケラケラと、魔王は愉快そうに笑い、夜宵を見つめた。

「じゃあ、ぶちのめしてごらん?」

「な――――」

「やってみなよ? ボクはどうせ死んでも死なない。魔王ってのは伊達でも酔狂でもなく、頭が潰されようが心臓が潰されようが、それこそバラバラにされても粉微塵にされてもボクは死なない。死ねないってことはないけれど、今のところ死ぬ予定はない。……でもまぁ、それとは別に、本当のキミを見たいって思うんだよ」

「なにを……言って」

「そうだね、今日はお試し体験版ってことで、少しだけ自覚させてあげよう」

 にっこりと笑って……邪悪そうに笑って、シュヴァルツは夜宵の胸に手を置いた。


「それじゃあ改めて、自己紹介といきましょう」


 たった一言。

 それだけで、夜宵の全てが崩れ去った。



 三歳の頃に悟った。

 五歳の頃に知った。

 確かに自分はバケモノかもしれないが、それでも死ぬことはできなかった。

 他人を壊すのは楽しいが、自分が壊れるのは一人の生き物として、怖かった。

 だから、七歳の頃に識ることにした。

 自分の限界点、自分の最終地点、自分の境界線。

 そういったものを知るために、僕は悪人になった。

 進んで誰かをいじめた。進んで誰かを虐待した。進んで誰かを痛めつけた。

 それはまぁ……予想通りに楽しいことだった。ここまでゲスな精神構造であることには正直吐き気がしたけれど、とりあえず自覚はできた。やっぱり僕は異常者で、他人が困ったり不幸になったり傷ついたりするのを見て楽しむ腐れ外道だった。

 しかも、それは虫とか動物では駄目らしい。虫を痛めつけるのはなんとなくかわいそうだし、動物を痛めつけるのなんかもう絶対に嫌だ。

 痛めつけて楽しいのは人間だけだった。

 痛めつけて苦しいのも人間だけだった。

 誰かを傷つけて、楽しいと思ったのも事実なら、苦しいと思ったのも事実だった。


 僕は識る。


 身の程ってものを容赦なく思い知る。

 結局のところ『他人の不幸』を何よりの愉悦とする僕は、どこまで行っても幸せになどなれはしない。僕が幸せになることそのものが誰かの不幸なんだから、幸福になどならない方が百倍くらいはましなんだと、識った。


 だから、僕を制御した。

 だから、僕を組み替えた。

 決意は、いつだってここにあった。

 覚悟は、いつだってここにあった。

 そう、僕はもう知っている。


 この下らない体と、どうしようもなく歪んだ心には。

 たった一つの使い道しかないことを――――。



 血に濡れて乾いた砂がそれを拭う荒涼とした世界。

 殺して奪って傷つけて食らい尽くす自我。

 結局のところ、彼にとって崩壊とは再生でしかなく、再生とは崩壊にしか過ぎない。

「僕の名前は神城夜宵。考え得る限り最低の精神構造を持つ最悪の人間」

 三秒で自分を再生させて、彼は正面から魔王を睨みつける。

 そして、恐らくは生まれて初めて、誰かに自己紹介をした。


「僕の名前は神城夜宵。悪を道連れにしてくたばる自殺回路(アポトーシス)


 夜宵はゆっくりと息を吸い、激痛に目を見開いた。

 体の侵食が心を蝕むように、心の侵食は体を蝕む。そのことを知ったのは六歳の頃で、彼はそれを当たり前のように受け入れて、当たり前のように制御した。

 自分の体のことだ。暴走さえしなければ、自分の意のままに操れるのは自明のこと。

 もっとも、それを実践できる人間が何人いるか彼は想像したことすらない。

「千秋さんにも、明にも手を出すな。……じゃないと、僕はお前を食べる」

 ガチガチ、と音が響く。

 掌を切り裂いて口が開く。ガチガチとギチギチと牙を鳴らして、それは口だけで笑う

 醜悪の具現。あらゆるものを噛み砕く口と牙。それこそが夜宵の力だった。

 死なないように咀嚼して、殺さないように噛み砕き、悲鳴と絶叫を『楽しむ』ための、どこまでも果てしなく醜い力。

 しかし、シュヴァルツはそれを見ても笑っていた。

「うん、やっぱり思った通りだった」

 そして、意外にもそんなコトを、言い放った。

「………………は?」

 あまりといえばあまりの言葉に、夜宵は一瞬理解が追いつかない。

 その間にシュヴァルツは夜宵の手首を握り、体の間に膝をねじ込んで反転する。

 今までシュヴァルツを組み敷いていた夜宵が今度は押し倒される形になった。


「そういうわけで、神城夜宵ちゃんはボクの花嫁に決定しました〜。拍手〜♪」


 意識が漂白される。

 その言葉を理解するまでに三秒ほどかかったが、夜宵は我に返って思い切り叫んだ。

「ちょ、ちょっと待てっ! なんだその致死級のおぞましい決定はっ!? 意味が分からないぞっ!?」

「ああ、それは至極単純なことでね、キミも花嫁候補だっただけ」

「はあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 とんでもない言葉に、夜宵は思わず叫んだ。

「ま、待てコラっ! 僕はそういう趣味はねぇぞっ!!」

「大丈夫。性別くらいなら楽勝で変えられるし。……大体、考えてもみなよ。キミのその見事な歪みっぷり。魔王として惚れない方がどうかしてるってもんだ」

「色々と突っ込みたいところはあるけど、これだけは言わせてもらうっ! お前絶対に趣味悪すぎだぞっ!!」

「んもう、そんなこと言われると傷ついちゃうなー。……セクシャルハラスメントでもしなきゃ気が収まらないよ」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 本気で叫んで暴れ出す夜宵に対し、シュヴァルツは怪しく笑う。

「いやー……なんかこう、嗜虐心がこうもりもり湧いてくるね」

「もりもりってそういう風に使われる言葉じゃないっ!」

「結婚しよう」

「ズボンをずり下ろそうとしながら言うセリフじゃねええええええぇぇぇぇぇっ!」

 涙目というより、あまりのショックに八割方泣きが入る夜宵。

 このままでは、十八歳未満お断りな大人の女性向小説のいやーんなBL的展開になってしまうのだが、あくまでこれは健全な物語である。


 ここでようやく、勇者が本領を発揮する。


 凄まじい音が響いてスイートルームのドアが粉砕される。

 そこに立っていたのは、男のような長身にショートカットの髪が似合う、一見スポーツ少女に見える女の子。

 しかし、現在の彼女は目を極限まで細めて、不機嫌をあらわにしていた。

「離せ」

 躊躇なく部屋に踏み込んで、世界最新の勇者こと神城明は言い放った。

「それはオレの弟だ。オレの断りなく手を出すことは絶対に許さない」

「ああ、キミが神城明さんか。ちょうどいい、今からぐべぇがっ!?」

 シュヴァルツの頭がぐらりと揺れる。

 それは、夜宵とは比較にならない速度で放たれた、携帯電話だった。

 シュヴァルツがひるんだ隙に、明は5歩で間合いを詰め、シュヴァルツの髪を掴んで目にも留まらぬ速度で五発殴りつけ、ついでに顔面に膝を叩き込んで沈黙させた。

 この間、0.3秒。人間とは思えないほどの早業だった。

「帰るぞ、夜宵」

 そして、唖然としている夜宵を、ひょいと持ち上げて歩き出す。

 持ち上げるとは言うまでもなく、『お姫様抱っこ』だった。

「……あの、明。色々言いたいことはあるけど、とりあえず一人で歩けるから……」

「うるさい」

「………………」

 なぜか助けに来たはずの姉はやたら不機嫌で、

 夜宵は訳の分からない展開に途方に暮れながら、ちょっと泣きそうになっていた。



 肝心な時に確実かつ適切に助けてくれる姉の名前を、神城明といった。

 夜宵とは正反対の名前を持つ少女で、運動万能で勉強そこそこで家事が苦手という枠にはまったようなスポーツ少女。

 朗らかで、明らかで、弱い者を最速で助けて、悪しき者を最短で殴りつけるという正義の味方みたいな特徴を持つ双子の姉こそが、夜宵の憧れで誇りだった。

 家事技能さえなんとかすれば、どこに嫁に出してもいいくらいだと思っている。

 しかし、今現在この正義の味方っぽい姉は心底不機嫌なようだった。

「……あのさ、明。もう大丈夫だから、そろそろ降ろしてもらえると嬉しいんだけど」

「黙れ」

「………………」

 さっきからこんな調子である。会話にさえなっていない。

 茜色に染まりつつある河川敷を歩く姉の横顔を見ながら、夜宵はどうか知り合いにだけは会いませんようにと祈っていた。

 幸いなことに祈りは届いたが、散歩中のご老人やら帰宅途中の幼稚園児やらに奇異の目で見られるのは、かなり恥ずかしかった。

「……………だ」

「え?」

「オレは、愚かな女だ」

 不意に、姉はそんなコトを言った。

 夜宵にとっては分かりきったことを言った。

「や、それは知ってるよ。明は昔っから一人で突っ走って、それを止めようとして結局引きずられる形になっちゃうのが僕の役目だったからね」

「そういう意味じゃない」

 明はようやく夜宵を地面に降ろして、ゆっくりと溜息を吐く。

「なぁ、夜宵。一応だけど、今のうちに言っておく」

「なにさ?」

「お前が幸せになれないまま死ぬようなことがあったら、オレは思い切り暴れてこの世界を壊す」


 その言葉は、どんなものよりも容易く、夜宵の心に楔を穿った。


 明は目を細めて、夜宵を見つめる。

 どこまでも真っ直ぐで明け透けで分かりやすい瞳は、真っ直ぐに夜宵を見据える。

「オレはお前の姉だ。妹かもしれないがその辺はどうでもいい。他人なら恋人にでもなんでもなってお前の力添えくらいはできたのかもしれないが、姉か妹じゃそれは無理だ」

「………………」

「それでも、今オレが守りたいのはお前だけだ」

 恥ずかしいかもしれないことを、明はきっぱりと恥ずかしげもなく言い放つ。

「だから、お前が幸せになれるなら脅迫でもなんでもやってやる。お前が自分の力で幸せになれる方法を見つけられるなら……オレは、なんだってやる」

「…………無茶苦茶だよ、明」

「だからこそ、オレは愚かなのさ。お前こそ世界なんてでっかいものを自分の身勝手で壊したくなかったら、さっさと子供をじゃんじゃん産んでくれそうな嫁を探して婿に行け。お前が楽しそうに笑っているところを見られれば、それでオレは満足するんだからな」

 明はそう言って、夕日の中で微笑んだ。

 ぶっきらぼう態度の姉ではあったが、笑顔だけはいつも通りに魅力的だった。


 ――ああ、そんな貴女が僕の姉だったから。

 覚悟はいつだって、決まっていた――。


 死ぬまでずっと、独りのままで。

 幸せになんてなれないことはもう知っている。

 誰かのように嘘は吐けない。そこまで器用じゃないことも知っていた。

「明」

「ん?」

「…………ありがとう」

 それでも、今できる精一杯の笑顔で。

 神城夜宵はにっこりと笑った。



 滅茶苦茶になったホテルのスイートルームの一室。

 脳震盪を起こして動けなくなった主を見下ろしながら、部下である彼女は語る。

「無様ですね、我が主。魔王が聞いて呆れます」

「はは、そりゃ否定できないな。……しかし、あんなモノを見せられちゃ、魔王も形無しってところだろうさ」

 心の異質が体すら変質させる、異形の彼女。

 完全に生まれる時代を間違えた、完璧な勇者。

 他にも色々。異形と勇者に惹かれて様々なものが集まっている。

「こんなに面白いものが揃っているというのに、ボクがそこにいないなんて、おかしいとしか思えないね」

「相変わらず趣味が悪すぎます。そもそも最初に魔王と名乗ったのが良くなかったのではないですか? この世界では『魔王』なんてものは使い古され、安易に使ったら胡散臭いと気味悪がられる存在です。もっと登場前に伏線を張るなりした方が、相手もそれ相応の心の準備ができたのではないでしょうか?」

「そーだね。でも……どうせ押し倒すんだから、早い方がいいかなって」

「黙りなさい女の敵。……で、花嫁の方は結局どうするんですか? まだ候補は腐るほどいるんで、ここを離れるというのも手ではありますが」

「……ん、なかなか痛い所を突いてくるけど、それはちゃんと考えてあるよ」

 悪魔のように邪悪な笑顔を浮かべて、魔王は愉しそうに言った。

「既に伏線は張ってある。問題はどこにもない」

「……だといいのですが」

「まぁ、なるようになれって感じかな。お気楽に行こうよ、お気楽に」

「………………」

 ケラケラと気軽に笑う主から視線を逸らして、

 忠臣はこっそりと溜息を吐いた。



 この物語のヒロインの名前を、神城夜宵という。

 低身長のくせにハイパワーで、顔だけはやたら可愛いいという、男に嫌われる男の典型で、ついでに言えば『ちっちゃくって可愛い』とクラスの女子(一部男子)にはやたら評判が良かったりするのがまたかなりのヒンシュクを買っているという、そういう珍しいタイプの少年だった。

 ついでに言えば、世界で一番醜い精神と、世界で一番尊い覚悟を持つ男の子だった。

 そんな彼が彼ではなくなったことをきっかけに、物語は回り始める。

 魔王は彼に心底惚れこんで、『高貴なる甘き騎士団(インペリアルクリームナイツ)』を名乗る勇者たちは魔王から彼を守るために戦いを始めた。

 この物語は、恋だとか意地だとか絆だとか、そういう理屈よりも理論よりも大切なものを守るために戦おうとする騎士たちと魔王を押し止めながら、自分の幸せをなんとか模索しようとする、

 世界で一番醜いお姫様の物語である。



 レディネス・プリンセス……END





 登場人物紹介。


 神城夜宵:後の覚悟の少女。心がちょっと異形で不可思議なお姫様。

 神城明 :勇者。力の使う方向が基本的に一方向な彼女。好きなものはカレー。

 仙道千秋:百合な彼女。男はもうこりごり。世話焼きな兄が一人いる。

 魔王な彼:職業魔王。本名がやたら長い。趣味が最悪。ラスボスっぽい人。

 忠臣さん:苦労症。雷帝。不器用。自分が花嫁候補なことを分かってない彼女。

 眼帯の男:性格は悪い彼。この物語とは導入以外は一切関係ない。

ありがちに引きましたが、続きません(笑)

これを続かせると、自分が他で連載している小説がますます停滞するので、ありがちなところで一旦終了。

続きは機会がありましたらということで、いつかどこかでこっそりやる予定です。

草原に咲くたんぽぽくらいにこっそりと小規模にやろうと思っています(笑)


ジャンルは学園コメディとかそんな感じで♪

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― 新着の感想 ―
[一言] 下の方は大分否定的な意見でしたが、俺は闇鍋大賛成です。 そもそも、最近物体がエネルギーによって構成されている事が解っているし、素粒子が次元間を移動できることが判明したりしているので、異世界や…
[一言]  一言で表せば、「闇鍋」という感じがします。  決して、肯定的な意味ではなく、ですが。  引きがどうこう、ではなく、記号的なキャラクターを配置し、魅力的だと感じた要素を詰め、どこからか持っ…
[一言] ...おどろかされました。 眼帯の男っていうのはもちろん『彼』ですよね?
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