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五翼の祈り  作者: メイローム
約束の花
5/5

4:鬼の正体?

この状況をあの状態から予想できただろうか。



「ワハハハハハ…今、今の顔」


突然、腹を抱えて笑い出す鬼。

ついていけず、ポカンとするしかできない悠真達。


「怯えるにしても、その顔は、いや、いやいや、面白過ぎるだろ…」


大爆笑。

ついには、地面を叩いて転がり回る。

ちょっと涙目に見えるのは、見間違いだと思いたい。

悠真達は混乱した。


さっきまでのアレはなんだったのか。





という感じで、悠真達に終わりの時はやってこなかった。


他人から見れば笑い話。

だが、悠真達にとっては、自業自得とはいえ、ただのイジメ。



それが、おいかけっこの結末でした――





「ガフッ…ごほ、いやあ、悪かったのぅ…あんまり、反応が面白くて、つい、ついな」


悪ふざけが過ぎてしもうたと、すでに成り行きに身を任せるしかない悠真達を前に、鬼、もとい、老騎士は豪快に笑いながら謝ってきた。

全く悪く思ってるように聞こえないのは、ご愛嬌だろうか。


だがこれだけは言いたい



つい、で命の危険を感じるまで追い詰められ、追い掛けられるこっちの身にもなってほしい。



もちろん聞こえてない老騎士は、そんな悠真を尻目に経緯を話してくれた――




ことの始まりは、白風の花を散らせたこと。

王家の花である白風の花へ危害を加えたため、防衛結界が発動した。

それを受け、この場所の管理と守護を受け持っていた老騎士はやってきた。

最初は、王家の花であり、姫さまの愛する花|(こっちのが重要らしい)を無理矢理散らせた非道の者どもに、ちょっとお仕置きをするだけのつもりだった。

・・・のだが、悠真達の逃げっぷりが見事で、だんだん面白くなってきて

イタズラするやつも最近はいないから体力も有り余って、ついつい(・・・・)悪乗りして、ちょっとやり過ぎてしまった…結果が、アレだったとのことでした。



「いやあ、だが、本当に見事、あっぱれであったぞ。お前たちの逃げっぷりは」

「……どうも」


経緯を話し終えた老騎士は、そう言って褒めてくれました。

…どうにか応えられた今の自分こそ褒めたいと、悠真は心底思った。


「あんまりにも頑張って逃げるから、年甲斐もなく張り切って追いかけてしもうたわ」

「いやいや、全然お若いじゃないですか…ハハハ」


老騎士がさらに愉快そうに笑うのに、一緒に笑ってみながら、悠真は声にならない声で呟いた。



羊の皮|(老騎士)を纏った狼|(鬼)って、あなたのことを言うんですね。



さらさらと白風の花が舞う中に、笑い声が軽やかに響く。

三人の内心とは裏腹の、和やかな空気がその場に流れていた。



背を冷や汗がつたう。

願いが叶うなら、このまま時間が止まって欲しいと悠真は思う。

気づいてしまったのだ。

できれば、気づかないままでいたかったソレに。



出来るだけ、少しでも引き延ばせば・・

落ち着け、落ち着いて行動するんだ。



笑顔を貼付けたまま、必死に悠真は自分に言い聞かせる。

老騎士は愉しそうに、ワラっている。


悠真も老騎士も、壊れた時の中にいるように笑い続ける。



そんな、何かちょっとしたことが起これば崩れ去る、危うい均衡の中、その時は訪れた。



最初に気づいたのはどちらだったのか。

悠真は隣でじりじり後ずさる気配に蒼白になり、目の前の老騎士は目を細めてにこりとした。


今まで老騎士の豹変ぶりに半分意識を飛ばした状態になっていたあやが、ようやく戻ってきたらしい。


ワライ合ってる状況に、今なら説教から逃げれると思ったのか、それとも老騎士への本能の警告か、この場所から離れようとしたのだろう。



だが、ここから離れられるわけがない(・・・・・・・・・・)のだ。

認識が甘かったというか、思考が動いてなかったのか、あやの行動は自分から猛獣の注意を引き付けるような行為でしかなかった。



タイミングを測りながら後退っていたあやは、老騎士がわざと目を花に逸らした瞬間、全力で走り出した。

老騎士が褒めてくれたように、見事な逃げっぷりである。

相手がもっと違う普通の人であれば、そのまま逃げられたかもしれない。

正し、今回の相手は老騎士で・・



シュン

ミ゛ャー


シュン

ニ゛ギャー


シュン

プギャー・・



全力疾走するあやの前に、高速で移動する老騎士。

目の前に出現した人に慌てて方向転換しても、次の瞬間には、再び目の前に現れる。


どこまで行っても、あやの目の前に居続ける老騎士。


シュールな光景だった。



あやに置いていかれた|(着いていく気はなかったが)悠真は、その光景を見ながらポツリと呟いた。


「危なかった…」


あのままの膠着状態が続いていたら、老騎士が引っ込めていたのを表に出すのも時間の問題だった。

それが、あやが逃げ出したことで、またおいかけっこという名のイジメをもう少し続ける気になったのだろう。

ただただ愉しそうな老騎士の姿を見て、緊張に強張っていた身体を少しほぐす。


あやには悪いが、あのままできるだけ頑張って逃げてもらいたい。

せめて、老騎士の怒りが少し緩むくらいには・・


先程も恐らく今も、ずっと笑ってはいても、老騎士の目は全くワラっていなかったのだから―




しかし、現実(あや)は悠真の願いを聞き届けはしなかった。


「待て待て、なんでこっちに…!!」

「ゆう、まくん――」


何度目かの方向転換とダッシュの際に、あやは悠真に向かって走ってきたのだ。

追い詰められ、助けを求めたのかもしれないが、巻き込まれる悠真は堪ったものではない。


「ゆうまくんだけ、追いかけられないのは、ふこうへい、だもん」


あやの言い分はもっともにきこえる、が、悠真に言えることは一つ。


「不公平もなにも、原因から何から、全部巻き込まれたのだけれど」



まあ、そんなことは、あやには通用しない。

ため息一つで、共に逃げる体勢になった悠真は、そこで再び見てはいけないものを見てしまう。

老騎士が慈悲深い笑みを、全く笑ってない目をして浮かべるという、恐ろしい光景を・・!


泣きたい時というのは、こういう時なのかもしれない。



終わりが見えている逃亡劇に、悠真はそっと涙を零して必死に走る。



スピードを落とさない為に、ひたすら真っ直ぐ。

後ろを確認する余裕などなく、ただただ前へ。



そんな中、唐突に悠真の視界の先に白風の木花以外の色が映ってきた。




長い藍色の髪が、白風の花とともに揺れる。

翠色の瞳が瞬いて、優しく細められた。

薄紅色の唇が、緩くカーブを描いて・・


ふと、悠真は既視感を感じて、瞬く。

いつかの誰かに、その姿が重なりそうになって――




彼女が驚いた表情になるのと、逃げることに夢中になっていたあやが石に躓くのは同時だった。


ここまで読んで下さって、ありがとうございましたm(__)m

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