深淵
次の日、ついに授業が始まりました。春雷魔法学園は座学と実験、実技の三つから構成されているらしく、今は初めての座学の授業です。
「えー、初めまして。俺は江口翔真、座学の講師だ。そして後ろにいるのが副講師…というか上級生のところではメイン講師扱いの柳雪先生だ」
まさかの初日から雪さんの授業!雪さんの実力を知っているが故、興味が収まりません。
「じゃあ、初日ということで、軽く魔法とはなんなのかからな。魔法は魔力を使い想いを具現化した結果生まれた事象のことを指す。例えば火を出したいと思いながら魔力を使って術式を行えば火が生成される。この生成された火が魔法だ。魔法は色んな属性があり、人それぞれ得手不得手が存在する。それはその人の考え方が関係していることが多い。例えば火を浮かばせるイメージができないやつには火属性は向かないし、風が襲いかかるイメージができないやつは風属性に向かない。これがよく言う魔法適正ってやつだな。他にも色々要素はあるんだがな。そこら辺は俺より雪先生の方が詳しいから後で聞いてくれ。それじゃあ何故________」
そんな感じで授業は進み、そして終わりました。私は終わった瞬間にすぐに雪さんのところに来ていました。
「雪さん!」
「君はあの時の少女かな?」
「そうです!あれから何度か探したんですが、見つけられなくて…ここで働いていたんですね」
「まあ、そういうことになるかな。それでなんの様かな?」
「あ、その…私に魔法を教えて欲しいんです!」
「…あのー君はもうすでに言ったと思うけど、僕は魔法が使えないんだよ?」
「それでも構いません!」
「えー…」
これは本心です。魔法が使えなくても、あのレベルの魔術を扱える雪さんのことです。魔法の知識も膨大なはず。それこそ私が想像もつかないほどの知識量だと思います。そんな人を前に教えを乞わないのはバカのすることです。
「はぁ…で、何が知りたいんですか」
雪さんは教室を出て自分の研究室に向かいながら話してくれました。
「私は魔法の深淵が気になります!」
深淵…全ての魔法使いが目指している最終地点です。ここに至ったものは賢者や魔女と称されます。過去深淵に至ったものはいないとされています。私がそれを聞いた瞬間、雪さんの足が止まりました。
「深淵…僕の友人が昔、深淵をほんの少しだけ覗いたことがあってね」
「え!?本当ですか!?」
「本当だよ。名前は彰人くん、魔法の腕は世界一と言えるほど凄いものだった。でも彰人くんは深淵の一端を見た日から魔法を使わなくなったんだよ。」
「え…なんでですか?もっと頑張れば深淵の全てを知れたかもしれないのに…」
「それが問題だったんだよ。深淵とは魔法使いにとっての最終地点。そこから先は足場の見えない、本当に合っているのか、成長すら感じとるのが難しい世界になるんだよ。彰人くんはそれを知ったから諦めた。彼は魔法が好きだったからね。深淵を見る時、それは魔法の全てを知り尽くし、これ以上、魔法使いとしての成長ができないという証、彰人くんにとって、絶望以外の何者でもなかったんだよ。」
そこまで言うと雪さんは私の目を見てこう言った。
「君には、それが受け入れられるかな?」
その間には光はなく、目の奥は光すらも吸収してしまうかのような深淵が広がっていました。恐怖に震えていると雪さんはいつもの笑顔を取り戻し再び歩き始めました。
「深淵というものは自分で見つけることに意味がある。僕が教えるべきことでないんだよ。ちなみに僕は魔法の深淵も知ってるよ。魔法の答えもね。だから知識だけでここの教師が務まる。でも僕は深淵を教えることはない。知りたいのなら自分で切り開くしかないよ」




