1章 動き出す者 Part2
五 化ける町
遠回りして来た町はとても洋風でかなりおしゃれな町だった。
床は赤いレンガを敷き詰められてできている。
家が立ち並ぶ商店街はとてもにぎやかで、どこも赤白の旗がたっている。
赤白赤白赤白赤白赤白赤白赤白赤白赤白赤白赤白赤白。
目が回りそうだ。
クロワッサンを焼くバターのいい香り、スコーンの香ばしい香り、紅茶の香り、どれも全部おなかを刺激する香りだった。だからミルトが入っているバックは、もぞもぞ動いて落ち着きがない。どれにしてもレイ達には買うことができない。
お金が・・・・ないから・・・・だった。
レイのお腹がググググ・・・と静かに鳴った。
レイはおなかを押さえて言った。
「ねぇ、キバこのままじゃ私達持たない・・・。」とレイ
「うん、そうみたいだ。ティラに宿の予約は頼んどいた。ライトニングもそこにつないでおいた。」とキバ。キバが指さす方に、手を振っているティラがいた。おなかのすいている様子は見れず、元気そうだ。
「子供はいいなぁ。」とレイ。
「いや、あんたも子供だろ。」とキバはつっこんだ。
が、キバもおなかがすいているらしくツッコミの力がない。
「キバがこの町にいると変だね。」
「なぜだ。」
「服が和服だし、・・・変だから。」
「誉めているのか?」と、キバは左手に握りこぶしをつくった。
レイは横にぶんぶんと首を振った。レイは純粋に質問に答えただけだった。
「誉めてないよ。」
「俺は、これでいい。」と、最後にキバは開き直った。
レイは突然、足を止めた。
「キバ、賭けてみようか。」とレイ
レイが見るほうには、怪しく光るとにかく怪しい店があった。看板には( 賭ける店 )という適当な名前がつけてある。
そして無駄にピカピカと光っている。
レイはポケットに手を突っ込んで、コインを取り出した。
コインはキラリと光り、レイはにやりと笑う。
「子供はいけない。」とキバ。
「今はもう、毎日いけないこと、してるじゃないかぁ。」
たしかにレイの言う通り、龍を持ち歩いている。
「・・・・。」キバは何も言えなくなってしまった。ティラだったら言い返せたかもしれないが、キバは少々、頭が悪い。要するにキバは筋肉バカと言われても、文句が言えない。
少々反抗してみたが、レイに足蹴りをくらわせられ、
結局、怪しい店に行く事になった。
さっそく入ると、金髪で笑った目のキバくらいのお兄さんが、レイに話しかけてきた。
「こ・ん・に・ち・は~。お嬢さん、君の腕を見込んでの、お・い・しぃ~話があるんだけど・・・。」
「どんな話?」気持ち悪い奴と思いつつ、レイは言った。
「いいだろう。聞いてやる。」とキバ
「ちょっと外へ。」と怪しいお兄さんが言った。
分厚い扉が開くと眩しい光が入ってくる。レイはまぶしさに目を細めた。
「で、話なんだけど。俺、警察なんだなぁ~。ちなみに俺の名はレアン。」
レアンがポケットから警察の紋章を取り出した。
(ヤバイ感じ?)とレイはひっそりと思った。
「話はね、この町だと、と~っても有名な{ 怪盗カノン }ちゃんについてなんだ。ミッションクリアすると、一生暮らしていける金がもらえる。{ 役者 }として、協力してくれないかい。」
レアンは顔の前で両手を合わせて「お願いだ」と言った。
「面白そう・・。ねぇキバ、お金もらえるらしいし、やってみようよ。」とレイ
「あぁ。いいかもしれん。」とキバ
レアンは「よし」と言ってポケットからくちゃくちゃの紙を出した。
「じゃあ証明として、お名前を書いてもらいます。」とレアン
レイとキバは顔を見合わせ、決心したように うなずいた。
レイは左手に羽ペンを持つと { ソウ・エマナ }と書いた。
反対から読むと、名前ウソである。レイは「我ながらいいネーミングだ」と心の中でつぶやいた。
(おぉ。レイにしては考えたな。でもすぐ、ばれそうだぞ・・・。)とミルト
キバは右手に筆と墨汁を持つと、力強く、かっこよく、{ 魚太郎 }と書いた。
(・・・・・・・レイ・・・。)とミルト
レイはキバにテレパシーを送りたかった。実際には龍にしか送れないが・・・。
{魚太郎はないでしょ!どれだけ魚太郎好きなの!?でも、墨汁じゃ取り返しつかないし・・・。}
レイの心の叫びは虚空へと、消え去った。
ミルトもそれに同感したようだ。キバの { 名づけセンス }はレイよりレベルが低いようだ。
ところで、筆と墨汁はいつ仕入れたのだろうか。・・・気になる。
そして、その仕入れ値も・・・気になる。
気づかれたのだろうか、レアンは二人の名前を見て、ふっと怪しい微笑みを浮かべた。
「ありがと。君たちは俺に今日の深夜までついてきてくれればいい。あ、まぁ指示もするけどね。それだけで、儲かるんだから。よろしく。」とレアンはまた怪しく微笑んだ。
「聞きたいんだが、なぜあの店にいた?」とキバ
「あぁ。フフ・・・それはねぇ・・・。」とレアン
「それは?」とキバとレイが声を合わせていった。
「金の亡者があつまるからさ。」
そしてレアンはニヤリと笑った。
「このミッションのこと誰にも言うなよ。言ったら、お前等、殺されるぞ。」
レアンは口に指をあてて、コソコソと喋った。空気に冷たい殺気のようなものが横切った。
「!!」
{もしかしたら・・・コイツ、できる!!・・・だけど、警察だし、仲間になんてできない。}とレイは思った。
「魚太郎くん・・・これ、結構やばいかも。」とレイ。レイは魚太郎という名前を少々馬鹿にしつつ、言った。
「だ、だ、どぅ、だろう、ぉあが、な。」とキバ。キバは少しビビっているようだ。
(ほんとうにからかいがいのあるやつだ。だからレイの標的にされるのだ。)とミルトは心の中でつぶやいた。
「魚太郎くん、噛みすぎだよ。ビビッてる?まぁ、私にとっては面白いけどさ!」とレイははしゃいだ。
「・・・ビ、ビビってなんか。・・・ヴ・・・おぅぉ、俺も、そ、そう言いたい所だ。」とキバ
(なにか面白くて大変そうなことが起きる予感・・・フフ。)とミルトはつぶやいた。
龍のくせにのんきである。
六 楽しいカジノ
ミッションが始まる前に、やはり賭け事をして何か食べようとレイは企んだ。
「じゃあ、やってみますか!」
レイはスロットをすることにした。
このスロットはめずらしく、縦も斜めもなく、一列の横だけだ。
三つ同じ絵が出たら、コインが出てくる。
レイは椅子に座ると、コインをひとつ入れた。
キバはやり方を覚えようとして必死に見ている。
スロットがグルグルと回り始めた。
レイはレバーをガシャリと音を立てて、引いた。
一つ目の絵、さくらんぼ。
二つ目の絵、さくらんぼ。
三つ目の絵、さくらんぼ。
キバは「やったー」と叫んだ。
まわりの人に迷惑だ。
コイン取り出し口からチャリンと音を立てて、二枚のコインがでてきた。
キバはぴたりと叫ぶのを止めた。
「・・・・・・・・。」
・・・・果てしなく、しょぼい。
レイは無言でキバに一枚の(希望の)コインを渡した。
キバは無言でこっくりとうなずくと、隣のスロットへ座った。
キバはレバーを音も立てずに、ゆっくりと引いた。
一つ目の絵、みかん。
二つ目の絵、宝箱。
・・・この時点ですでに終わっている。
三つ目の絵、さくらんぼ。
キバは目を輝かせて言った。
「あ――、おしいっ!」
なにがおしいのか、まったくわからない。
こうしてひとつの(希望の)コインは失われたのだ。
しかしまだ、レイのひとつのコインがある。
(レイ、私にまかせて。)とミルトが不意に話しかけてきた。
{・・・わかった。}
ミルトはバックの穴から前足を出し、勢いよくレバーを引いた。
そして最後に手から光をだした。
完全なる魔法である。しかも、龍だけの魔法。
一つ目の絵、最高得点の宝石の絵。
二つ目の絵、宝石の絵!
三つ目の絵、宝・石・の・絵!
今度はレイがうれしそうに小声で「やった。」と言った。
コイン取り出し口からジャラジャラと出てくるのかと思ったら、ドサっと音を立てて、十枚のコインが出てきた。
「・・・・・」
イカサマしたのに、イカサマで返されたような気分だ。
ミルトもさすがにご立腹のようだ。
グルルルと唸っている。
最高得点が十枚だけ。
何回かやって、五十枚に増やした。
ちりも積もれば、山となる。である。
レイはそれをお金にするとポケットいっぱいになった。
歩くたびに金がジャリジャリと音を立てた。
「まことに良き音なり。」とキバはつぶやいた。
外に出ると、まだ空は明るい青色だった。
まだ暖かい昼なのだ。
まだまだ時間はたっぷりある。
宿で待機していたティラと合流すると、レイたちは商店街へと足を運んだ。
からっぽのお腹がやっと満たせるのだ。
これは、朝食なのだ。とレイは自分に言い聞かせた。
商店街はうるさいほど、にぎやかだった。
いろいろと物色して、結局お金は使い果たしてしまった。
キバが肉をおいしそうにほおばっている。
「もぐ・・・。だれだ!金を使い果たした奴!」
「いや!まぎれもなくお前のせいだよ!」
とティラとレイは同時に言った。
キバは肉をたくさん食べて最後の金を使い果たしてしまった。
レイとティラはクロワッサンとスコーンで我慢したのである。
キバは肉で膨れたおなかをでんっとたたくと、「食った。食ったー。」とつぶやいた。
非常に困る奴だ。
このままギャーピー騒いでいたら、もう、空はほんのりと赤く染まっていた。
七 楽しいミッション?
辺りは夕闇に包まれ、ミッションの時間が刻一刻と近づいてくる。
今、レイ達はティラと合流し、路地裏で作戦の話を聞いていた。
4人(正確にはもう一匹)がこう狭い路地裏でくっ付いていると窮屈である。
「場所は美術館だ。なぜかと言うと{ 怪盗カノン }が予告したからだ。深夜2時にあの有名な{ 微笑 }という絵画を盗む!ってな。だ・か・ら!」レアンが気持ち悪いしゃべり方をしたら、不意に無表情でティラがレアンの頬を殴った。
少しの間があいた。
レアンは少し驚いた様子だった。
そして二人と一匹も驚いた。・・・とっても。
ティラらしくない行動である。
「兄さんから聞いていたけど、僕はこの人ダメです。ほんと。」とティラは手をはたいた。
「そ・う・だ・け・ど、話は聞かなきゃダメだなぁ~。」とレアンはヒリヒリ痛む頬を撫でながらニッコリと言った。
ティラの目が、「コイツ、本当にむかつく!!」と語っていた。
レアンはニッコリ笑うのをやめると真剣な目つきに変わった。
会ってからずっと笑った目だったので、目の色がわからなかったけど、今、血のような赤色だと気づいた。
「真剣な話に戻るぞ。お前らは入り口で2時になったら言え。「あっ!怪盗カノンだ!」と美術館の向かい側の空を指して言え。邪魔な{ 観客 }がそっちに行くからな、{ 俺達 }にとって都合がいい。そうしたら美術館の裏にはしごを置いておくから、それに上って、屋上で待っていろ。」
一瞬、レイの真剣な目つきにレアンは戸惑ったように見えた。
「じゃあな。」とレアンはいつものからかったような声で去って言った。
そしてレアンの姿は人ごみの中にスッと消えた。
深夜2時前・・・美術館は警察に囲まれ、とってもまぶしいスポットライトがぐるぐるとまわっている。
スポットライトが真っ白な美術館にあたると美術館がより、白くなるように見えた。
レイにはその光景が、まもなくショーが始まるような感じに見えた。
ミルトはその光景をバックの穴からのぞいていた。
とても楽しそうな表情を、レイはしていた。
(私も人間の姿に化けられればいいのに。・・・いや、いつか化けて楽しく一緒に旅をするぞ。)
レイたちは、路地裏から出ると一斉に叫んだ。
お腹の底から声をありったけ、だした。
「怪盗カノンだあぁぁぁぁぁぁ!」
三人とも指す場所は少々違ったが(少々どころかまったく。)、この{ ショーの観客 }たちはここからきれいさっぱりと、いなくなった。
そして警察の人たちも美術館からわらわらと出て行く。
レイはその光景を不思議そうに眺めた。
{これもレアンの作戦の内・・・?}
「まぁいい。屋上に行こうではないか。」とキバが言い、誰もいなくなった広場から美術館の裏に回った。
角を曲がろうとしたとたんにレイの視界に黒い影が映った。
「何!?」といったとたんに後ろを見ると、ティラとキバがあとかたも無く消えていた。
レイはフッとあやしい笑みをうかべて、背中から剣を抜いた。
{ 久しぶりだな・・・。この感じ。ちょっとうれしいかも。 }とレイ。
(がんばれ。)とミルト。
もう深夜なのであたりは真っ暗である。
スポットライトが唯一の光だ。
目の前に黒い影が二つ落ちてきた。
{二人なのか。}
レイは正体不明の影に切りかかった!
そのひとつの影はさらりと避けると「あら!あなたのお友達って結構おバカさんなのね。」と言った。
一人は女のようだ。
レイは挑発に乗ってしまい、もう一つの影に切りかかった。
その影は「ほらよっと。」といい軽々と避けてしまう。
もう一人は男のようだ。
{ちっ。こいつら、速い。このときにキバとティラがいれば対抗できるのに・・・。}
レイは女の影の方に剣を突くそぶりを見せ、くるりと右回転をして二つの影に、みね打ちを食らわせた。
運よく二つの影は同時に仰向けになって倒れた。
レイはさらに二人につかみ掛かった。
「お前らは誰だ!」と、怖い風に一喝。
そのとき、スポットライトが二人に当たった。
「やぁ。」と見知らぬ女が一言。こいつは怪盗カノンなのかな・・・?
「こ、こんにちは~。ソウ・エマナくん。・・・あ。レイくん」と男。というより・・・
「ぎゃあ。レ、レアン!?何で!?」
二人とも怪盗らしい裏生地が真っ赤の黒マントを身にまとっている。
そのとき不意に空から何かが降ってきた!
「んぎゃ~」という叫び声をあげながら、猛烈ないきおいで落ちてくる!
レイは避けきれず、それの下敷きになった。
「ぐあ!」
レイの上に乗っかったものは、キバとティラであった。
二人とも目を回していて無防備である。
レイは二人の下から這い出ると、キバの頭を無表情で殴った。
「ぐはっ!」
キバが顔を歪めて頭をさすった。
レイはレアンたちの方を振り返って満面の笑みを浮かべた。
「もうこの美術館には用はない・・・。早くしないと警察が戻ってくる。悪いが三人には少々寝てもらうぞ。」とレアンは声を低くして言った。
レイの顔が驚きに変わる前にレアンは瞬時に動いた。
「ごめんよ。三人とも。」レアンは三人の腹を殴った。レイの目の前に火花が散った。
三人ともぐはっと言い、前のめりに倒れた。
レアンはキバとレイを肩に抱えて、カノンはティラを持ち上げた。
「行くぞ。」
二人は影になり、ランプの暖か味のある光に燈された、建物や人々を股に、夜景を駆けた。
レイの鞄の穴からミルトは夜景を眺めた。
その景色はとても美しく、建物から漏れる光は星のようで、ミルトはそれを見ていて星空を走っているような感覚にとらわれた。
レイとキバ達も目をうっすらと開けて、ぼんやりとレアンの肩から眺めていた。
レイはカノンとレアンの足元を見てみた。
黒いブーツが艶やかに光る。地面に足はついていなく、足は空を切っている。
{空を飛んでいる・・・!}
その景色の中、町を出て、草原に出た。夜風が髪をなびかせる。
空を見ると空いっぱいに大きな白い月が顔を出していた。
草原はざわざわと音をたてて、まるでレイたちを歓迎しているようだ。
さらに草原をでて、山の一角についた。暖かい光が漏れる、木で造った山小屋が一つ、深い森の中にぽつんと建っている。
レアンとカノンは地に降り立つとレイたちをそっと地面に置いた。
「はぁ~重かったぁ~。」とカノンは伸びをして、山小屋に入っていった。
扉からオレンジ色の暖かい光が漏れていた。
レイは立ち上がり、服に付いた土や埃をはらったあとキバとティラを無理やり立たせた。
レイは何も言わずに扉を乱暴にあけると言った。
「ミッションのお金はいらない。だから、仲間にならないか?」
レアンは鼻で笑い、言った。
「警察なんだぜ?竜を持ち歩いているお前らなんかと仲間にはなれないな。一応敵だからな。」ポケットの中に手を入れてお金をチャリチャリと言わせている。
{竜を持ち歩いていることが、ばれている!}
明るい所で二人の顔を見ると、まったく同じような顔をしていた。二人とも金色に輝く金髪で目は血の色。双子なのだろうか。
その血の色の目を輝かせて、カノンは猛烈な勢いでレイの手を取った。カノンの手はなぜか汗でびっしょりとぬれていた。
「私が行く!前からやりたいことがあって・・・。お宝とか・・・お宝とか・・・」
カノンはレアンの方を振り向いて「いいよね」と言いたげな顔をした。
しばしの沈黙が流れやがてその表情を見てレアンは笑った。
「・・・・だめだな。こいつらはそんなことを目的にして旅しているわけではないんだ。」とにやりと笑い、ポケットから銃を取り出して、「これで怪盗ごっこも終わりか。」と独り言をつぶやいた。
カノンはとても残念そうな顔をして、ぶすっと頬を膨らませそっぽをむいてしまった。
「もう行こうよレイ。もうすぐ明日が来るよ。」とティラがレイの青いターバンを引っ張った。
「天空城に送り出されるなんて、まっぴらごめんだね。」とキバが言い、外へ出て行った。
「そうだね。・・・あっ待って。レアン。」
レイは言いレアンの顔の前に手を差し出した。
「なんだ?握手か?」とレアン
「ぜんぜん違う。」とレイは首を振った。
「ほら、ミッション分のお金。」とレイは手でお金の形をつくって、言った。
「現金な野郎だ。」とレアンは言い、さっきからポケットで転がしていたお金をレイの手に渡した。
レイは自分の手の中できらきらと輝く金貨を見て、うれしそうににんまりと笑った。
外に出るとあたりは霧に包まれようとしていた。
体に当たる霧はとても冷たく、風邪をひいてしまいそうだ。レイは結構前を歩いているキバとティラに小走りで追いついた。レイの横をミルトが霧を楽しみながらちょこちょこと歩いている。
レイは不意に後ろを振り向いてみた。
山小屋があるはずのところに山小屋はなかった。
霧に包まれて見えなくなってしまったのだろうか。
それとも、 もともとないものだったのか。
レイは狐に化かされたかのように虚空を見つめていた。
二人には、また会いそうな気がする。
レイとミルトはそう思いました。
八 会談
レイ達は町にもどり、宿に泊まることになった。
玄関まで行くと、ライトニングがうれしそうに鳴いた。
宿の中は木の香りとポタージュスープの香りがいっしょになっていい香りだ。
「おなかすいたぁ~」とレイはいすに座った。
「そうですね。」とティラがうなずいた。
「で、俺らはどこを目的にしているんだ。天空城もどこにあるのかわからないのに。」とキバは唐突に言った。
「そうですね。」とティラ。
「うん。クリスタルタワーに行こうと思っている。」
「クリスタルタワーとは、平和を象徴して造られた建物である。その建物のすべてが水晶でつくられていて、水晶は雲を突き抜けている。美しい建物だが、裏には何かが隠されているという、うわさも流れる怪しい塔だ。クリスタルタワーの団体(宗教)を動かす人間は「姫」と呼ばれ、姿は見せるが、だれにも顔を見せないと言う。しかし天空城の味方ではない・・・。ということは、いまからでも私たちが架空の宗教をつくって、味方にしちゃえば遅くないってこと。味方にできなくても、天空城の場所は知っているはず、人質にして無理やり聞き出すっていうのもありだし・・・。さぁ、どっちが楽かな・・・私たちにとって。」
レイの説明中に二人は運ばれたスープをぺろりとたいらげていた。
「う~ん、僕、暴力的なのはきらいだけど、架空の宗教をつくるのは難しいかな・・・。そんなに僕たち頭よくないし・・・。」とティラ。
実際に頭が良い順だと、龍神、ミルト、大賢者、賢者、レイとティラ、ライトニング、大魔物、その他魑魅魍魎、・・・・・・・・・・・・・・キバ。という感じである。ミルトは最強に頭がいいのだ。
「俺は頭がいいから、どっちでもよいぞ。」とキバ
しばしの間があいた。
レイとティラはキバをにらみつけた。
キバは石化したくらいにかたまった。
(フン、おもしろい状況ではないか。)とミルトは鼻で笑った。
ミルトはこの状況を(蛇ににらまれた蛙)に似せて、(レイににらまれたキバ)と呼ぶことにした。
「じゃぁ暴力的に行こう。」とレイはうれしそうに言った。
(楽しくなりそうだ。)とミルト。
ミルトもやっと大暴れできる日がくるのだ。
うれしくないはずがない。