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家出JK『お嬢様』を助けてお菓子をあげたら懐かれた  作者: しぐれのりゅうじ


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23/25

23話

 悲しみに浸る間もなく刀真は次へと向かう。忙しないが、おかげで考える暇がないためメンタル的なダメージは緩和していた。


 再び電車に乗り、今度は自分の家の方面へと一旦戻る事になる。そして最寄り駅についたら今度はそのままその先へ。目的はそこから五駅目。刀真はそこで降車して駅を出る。


「……おお」


 構内からだったがこの辺りは人が多く、それを表すように外も高いビルや色とりどりの店が立ち並ぶ都会の姿をしていた。ここに来ることはほとんど初めてで、少し駅が違うだけでこの変わりように、軽いショックを受ける。


「えーと家は」


 地図アプリでその場所へとおぼつかない足で向かう。都会の道は複雑で、スマホがなければ辿り着けなさそうだった。


 途中まで人波と同期して進みつつ、途中からそこから抜け出し、少し閑散とした道幅の狭い方へ。ここらは、刀真の住む場所と空気感が近く、どこか息がしやすかった。


「ここか」


 少々古めかしい五階建てのグレー色したマンションで、実物は写真よりも年季が入っているように見え、汚れや塗装剥げが目立っていた。


 一応オートロック式であるため、まずはエントランスに入る。内側は外側と同期した姿をしていて、全体的に薄暗い。部屋は三階の二号室であり、インターホンにその番号を押し呼び出す。


「……はい」


 あまり間を置かずに母親の声が聞こえてくる。


「えっと、刀真だけど」

「……待ってて今開けるから」


 そしてドアが開いて、刀真は中へと進み奥にあるエレベーターに乗り込み三階へ。


 少しホテルチックな廊下を歩き部屋の前に着く。インターホンを押すと返事の前にカギが開いて、扉が開き母親が顔を出した。


「……久しぶり、刀真」

「うん」

「じゃあ、上がって。少し狭いんだけど」


 入るとまずは外と内を分割するような生活の香りを感じる。全体的に作りはやはり少し古さはあった。部屋はある程度片付いていて、部屋の中に入る前にあるキッチンには洗い物が沢山積まれている。


「ここ、座って」


 背の低いテーブルがあり、向かい合わせに座布団が置かれている。刀真は奥側を選んで正座すると母はお茶を出してくれた。そして対面に同じ目線に。


「……結構良いとこだね」


 父の時の反省を活かし、気まずさに飲み込まれる前に軽い話題を放り込んだ。


「そうなの。それに家賃も割と控えめだから、かなり気に入っているわ」

「へぇ、良いじゃん」


 そのワンターンで一つの話題が消化される。刀真としてはもう少し広げたかったが、多少のアイスブレイクにはなった。刀真はお茶を一気に飲み干してから、本題へと切り出す。


「それで話なんだけどさ」

「えぇ、重要な話よね」

「俺にとっては、ね」


 そして決定的な一言を告げるため、助走するように大きく息を吸い込んで。


「俺の事、好きだった?」


 父に聞いた時と同じ言葉で、同じ声音で、同じ気持ちを込めてそう尋ねた。


「……それは、どういう意味かしら?」

「親として人として俺のことを心の底から好きでいたかって事」

「えぇと……」


 父と同じで変な質問を受けて困惑の表情を見せ言葉を詰まらせる。


「正直に話して欲しいんだ」

「どうしてそんな事を?」

「俺が一歩を踏み出すために必要だから」


 父の時と同じようなやり取りが行われて、くしくも家族の繋がりを思い起こさせる。


「……正直、私には刀真の考えはまだわからないけど、大事な事なら、わかったわ」


 母は意思を固めたように一度目を瞑り、大きく息を吸って、吐いて、目を見開き刀真を見つめた。


「私は……あなたの事を……どうしてもお姉ちゃんと同じように好きにはなれなかった」

「……だよね」


 父と同じような解答だった。何年も前から分かっていた事で、想像していた事で、つい最近言われたことだ。そう刀真は内心で言葉を紡いで傷を誤魔化そうとしても、確かに痛みは存在していた。


「ごめんなさい、母親失格よね。言い訳にはならないけど、好きになるべきだって思っていたんだけど、どうしても、お姉ちゃんのようには思えなくて……本当にごめんなさい」


 とても申し訳なさそうにして、そして深々と頭を下げた。


「か、顔を上げてよ。仕方ないよ、親である以前に人間なんだし」

「例えそうでも、本当ならすべきでないのにあなた達の扱いに差をつけてしまって、傷つけた。あの時はそんなつもりはなかったんだけど、今思い返すと全然出来ていなかった。後悔しているわ」

「……今、そういう風に考えてくれているだけで嬉しいよ」


 その言葉は半分は本当でありもう半分は気を遣っての事だった。今までの事を許せるわけもないが、今そういう風に考えてくれている事を知れたのは、ちょっとした慰めにはなる。


「それで最後に聞きたいんだけど、今も俺への気持は変わってないんだよな」

「……ええ、ごめんなさい」


 少し期待しそうになる気持ちを消すための答えを求めて質問した。そして、期待通りの返答が返ってくる。おかげで後ろ髪引かれそうだった心も綺麗にかき消されて。


「ありがとう、おかげで吹っ切れたよ」

「刀真……」


 刀真は証明のようにぎこちない笑顔を浮かべて、立ち上がった。


「じゃあ帰るよ。見送りはいいから、お元気で」

「刀真も、元気でね」

「ああ。さようなら」


 言った通り母親の見送りはなく、刀真は部屋の扉を閉めた。ガチャリという音ともに軋むような金属音が廊下に響く。エレベーターを降りマンションを出る。


 まだ日は高く、照らしてくる光は薄暗い場所にいた刀真にはあまりに眩しかった。後ろは振り返らず、影には入らず目が眩んでいるのも気にせず、日の当たる道を進む。その先に待ってくれている鏡花と茜を目指して。

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