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家出JK『お嬢様』を助けてお菓子をあげたら懐かれた  作者: しぐれのりゅうじ


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15話

「はっ……くしょん!」


 午後二時を回る中、刀真達はまだレジャーシートの上で過ごしていた。今はババ抜きをしており、刀真は五連続で最下位になっている。


「とうくん、風引いた?」

「いやいや、ちょっと鼻がむずむずしただけ」


 午前とうってかわって、空には雲の数が増えていて、陽光が遮られることが増えていた。


「あ、私あがり」

「ちょっ!」


 刀真のカードを引いた事で鏡花の手札はゼロとなり一抜けした。そして姉との一対一の状況となり。


「はい、あたしの勝ちー」

「……」


 勝つ可能性がある中でも呆気なく負けてしまい、力なくトランプを落として、ひらひらと落ちていくカード達に嘲笑われているような気すらしていた。


「ぷ……落ち込まないで……お兄さん」

「笑いながら言うの止めて」

「ごめん……でも流石に、ふふっ無理……」


 鏡花は慰めの言葉をかけてくるが、顔はにやけていて、煽りにしかなっていなかった。

「姉ちゃん……」


 無意識に助けを求めるように姉の方を見るも、そちらも口元が緩んでいて。


「ごめ……弱いの可愛くて……ふふ」

「……」


 この瞬間、刀真はカードゲームはもうやらないと心の中で誓い、カードを一つにまとめる。


「そろそろ帰る?」


 そして刀真がそう切り出す。カードゲームの結果は多少影響したが、切りも良いタイミングでもあった。


「そうね。人も増えてきそうだし」

「じゃ、片付けよう!」


 遊びに来た子供や犬の散歩をさせる人、家族連れなど人が増えてきていた。刀真達は手早くピクニック道具をしまう。


「けほっ、けほっ」

「お兄さん、大丈夫? 咽た?」

「いや……というかちょっと冷えてきた?」

「そんな事はないと思うけど……やっぱり風引いたんじゃ?」


 喉が痛みや風邪の前兆のような倦怠感はなかった。気のせいだろうと、その先を考える事はせず大丈夫とだけ返事する。二人共心配そうにしていた。


「お兄さん、茜さん、帰ったらゲームしない?」

「いいよー。あんまり上手くないけど大丈夫かなー?」

「ええ。少なくともお兄さんよりは手応えあるから」

「ぐぐ悔しいけど、否定出来ない。でも今度こそは一矢報いるから!」

 少し違和感が残るものの、心がリフレッシュ出来たピクニックが終了し、茜と鏡花に挟まれる形で帰り道を歩く。二人との距離は行きよりも近かった。

 


「げほっ、げほっ……!」

「とうくん、大丈夫? 熱は測った?」


 月曜日の朝、刀真は高熱を出し寝込んでいた。

「三十八度九分くらい、だった」

「凄い熱……急に上がったね」

「昨日はちょっと喉が痛かっただけだったのに……」


 土曜日のピクニック後には多少の違和感と咳、翌日の日曜は微かな喉の痛みがあり、今日の朝起きたら高熱が出ていた。


「お兄さん、ゆっくり休んでね。私は学校行ってくるから」


 学校のある鏡花は既に制服姿でいる。心配そうに声をかけてくれて、それだけでも刀真の気持ちが少し楽になる。


「いってらっしゃい」

「いってきます」


 鏡花が登校していき、家の中には姉だけになるが、病気の弱っている時に誰かがいるのはとても心強かった。


「ごはんは食べれそうかな」

「無理そう」

「了解。でも食べないと力が出ないから、食べれそうな時は言ってね。そうそう、水分補給は大事だからお水は飲んでね……はい」


 刀真は水の入ったコップを受け取り一気に飲み干す。


「後でポカリ買ってくるね。それと近くの病院の予約もしておくから、横になっててね。今日はずっとここにいるから安心して」

「……ありがとう」

「姉として当然だよ」


 甲斐甲斐しく世話をしてくれる。一人の時に風邪を引いた時よりも安心感が段違いで、刀真は姉に身を任せた。


 それからしばらくした後、病院に行き診てもらうと普通の風邪で、解熱剤等の薬を貰うことに。家に戻り軽くおかゆを食べて薬を飲んだ後、目を瞑るとすぐに夢の中へと落ちていった。


「う……ん……姉ちゃん」


 微睡みの中を泳いでいる中で映された映像は、小さな刀真が熱で苦しみ、小さな茜が頑張って看病してくれるものだった。それに覚えはないはずだが、どこか懐かしかった。


「とうくん……」


 夢の茜と外側から聞こえた茜の声が重なって聞こえると、すっと自然と目が覚めてしまう。倦怠感や熱っぽさは変わらず、意識が戻ってくると苦しさも戻ってくる。それと同時に右手に温かさも感じていて。


 刀真は水分を取ろうと上体を起こす。時間を見ると午後三時だった。


「あ、とうくんおはよう。体はどう?」


 ベッドの直ぐ側に茜はいて、よく見ると彼女の手はこちらへと伸びていて、それは刀真の手と繋がっていた。それは今見た夢にも同じ光景があった。


「手が……」

「寝てるとうくんが辛そうにしてたかさ、何かしてあげたいなって思って」


 姉の手は柔らかく少しひんやりしていた。そして、想像よりも小さかった。


「いつの間にかとうくんの手、大きくなってるね。昔はあたしよりもちっちゃかったのに」

「……」


 姉と手を繋ぐのはかなり昔の事で、大きく感じていたのはそのイメージが続いていたからだろう。


「って、ごめんね。嫌だったかな」

「……別に嫌じゃないよ」


 むしろ身体が弱っている今、その優しさは薬と同じくらい効いていた。目を覚ました時に家に人が、茜がいるというだけでも気が楽になる。


「とうくんにそんな事言ってもらえるなんて……」

「ね、姉ちゃん?」


 茜は嬉しそうでありながら少し泣きそうな表情になる。


「いつからかこんな風に触れることもなくなってたから。嫌がられると思って出来ないでいたけど、やっと出来て嫌がられなくて、つい嬉しくなっちゃった」

「……」


 改めてとても愛されていたんだなと思わされる。まだそれを完全には受け取れないが、風邪に弱った今の心には、それが強く沁みた。


「あ、そうだ。何かして欲しい事はある? 何なら、眠れないなら添い寝しようか?」

「そ、そこまでは……ポカリ欲しいかな」

「むぅ、いきなり過ぎたかな。了解、持ってくるよ」


 すっと繋いでいた手が離れ、茜は冷蔵庫の方へと歩いていく。


 刀真は自分の手のひらを見つめる。長い間手を重ねていたらしく、どこか心許なさとひんやりとした感覚が残っていた。


「そういえば昔も……」


 さっき見た夢から記憶が繋がる。ずっと小さな時、病気で苦しんでいた刀真を同じように不慣れながらも一生懸命に茜がお世話してくれた記憶が蘇った。そしてあの頃だけだが確かに存在していて、歳を重ねて記憶の引き出しの奥にしまわれた、姉の事を好きだった気持ちを思い出し、この瞬間だけは熱の苦しみから解放されていた。

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