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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

江戸田一少年の事件簿

色々な事件に探偵がしゃしゃり出てきた。

作者: J坊

これにて江戸田一少年の事件簿は完結です!

彼の最後の事件はいかに!?

 ――今こそ復讐の時だ。


 男――熊岡猟二くまおか りょうじは憎悪に満ちた表情で、山奥にある古びたペンションを見据えていた。


 十年前、猟師だった彼の父親は、ある過激派環境保護団体のリーダーとトラブルの末、殺害された。

 以来、彼は父の仇をとるために生きてきた。

 そして、今日、復讐を実行する。


(この日の為に考え抜いたトリックを使い、奴を地獄に叩き落す)


 そう硬く決意した猟二は、変装して『山神』という偽名を使いチェックイン。

 復讐劇の幕が開けた。




 ……はずだったのだが。





「あれ、山神様? 今日は一日部屋でお仕事をしているはずでは?」

「……は?」


 チェックインした途端、オーナーが怪訝そうな顔で尋ねてきた。


「な、なにを言っているんだ? 俺は今日初めて、ここに来たんだぞ?」

「え? でも昨日、チェックインをされてますよ? ほら、ここにサインを」

「ふぁっ!?」


 これはいったい、どういうことか?

 自身の偽名を語る何者かが、既に自分が止まる予定の部屋に宿泊してるという。

 その証拠に酷似した筆跡のサインもあった。

 訳も分からず混乱していると、そこに一人の男が降りてきた。


「ふっ、待ってたぜ! 熊岡猟二! いや、怪人『山神』!」

「!?」


 そこには、猟二と同じ格好・同じ体格の大男がいた。


「だ、だれだ!? お前は!?」

「俺か? 俺は探偵さ!」


 名乗ると同時に、男は変装を解き、ボキバキと骨格を変形させ、元の体格――高校生くらいの少年に戻った。


「いや、こわっ!」


 夢にでも出てきそうな光景である。

 突然の光景に困惑する猟二。それと対照的にオーナーが驚愕する。


「キミは江戸田一君! どうしてここに!?」

「いや、オーナーの知り合い!?」

「えぇ、彼は江戸田一耕五郎。かの有名な名探貞太郎の孫で、数々の難事件を未然に防いできた名探偵です!」

「いや、だから誰だよ、名探貞太郎。苗字変わってるし!

「彼は昨年から12回ほど、このペンションで起こりかけた事件を防いでくれた、私にとっても恩人なんです」

「いや、事件起こり過ぎ!」


 一ヶ月に一回は発生しかけている計算である。


「そんな彼が、先回りし待ち構えていたということは……さては、あなた、なにか訳アリで!?」

「いや、そ、それは……!」


 思わず、口ごもってしまう猟二。

 まだ、なにもしていないので、しらばっくれれば済む話なのだが、そうは問屋が卸さないと、少年・江戸田一は既に証拠を掴んでいたのだ!


「アンタは過去に事故を装って殺害された父親の仇を討つために、過激派環境保護団体のリーダーを呼び出している。そして、奴がこのペンションに到着次第、奴が以前、スズメバチに刺されていることを利用し、アナフェラキシーショックに見せかけて殺害するつもりだったんだろう? その証拠に、荷物の中にスズメバチの毒と同じ成分の薬品が入っているはずだ。それを塗った針を部屋のドアに細工して取り付け、殺害。その後、復讐を果たした後は自殺するつもりなんだろう?」

「――!」


 最早、誤魔化しすらできなかった。

 まるでストーキングでもしていたのではないかと言わんばかりの、推理力に猟二は膝をつくしかなかった。


「そんな……なんで、ここまで入念に計画してきたのに……」

「探偵の勘ってやつさ」

「いや、勘どころの騒ぎじゃないだろ」


 最早未来予知レベルである。

 これから成そうとすることを暴かれ、復讐も出来ずに、終わってしまった猟二。

 だが、江戸田一はそんな彼を放ってはおかなかった。


「親父さんは、アンタに復讐者になってほしい訳じゃない。ただ、幸せになってほしい。そう思ってるはずだぜ」

「だが、俺は父さんを殺したあいつを許せない……!」

「それなら大丈夫だ。あいつは既に相応の報いを受けている」


 そう言って、江戸田一は「そろそろだな」とテレビを点ける。丁度ニュースの時間だったのだろう。アナウンサーが、いつも通りニュースを伝え始めると……


『本日の正午、某環境保護団体の各支部に警察が、一斉捜査が入りました』

「!? こ、これはいったい……!?」

「どうやら奴ら、環境保護を謳いながら、裏では不法投棄や希少動物の密輸入もやっていたらしい。そして、それらの証拠が警察に匿名で届いたらしいが……まぁ、天罰だろうな」


 見れば、警察の捜査を妨害しようとする者、或いは逃げようとする団員たちが「日本警察を舐めるな!」とばかりにベアハッグ・サソリ固め・コブラツイストなどの技をかけられ、次々と逮捕されていく。

 そんな映像を見終えて、江戸田一はペンションから出ると、自転車に跨り、その場を走り去っていく。

 江戸田一の後姿を見届け、猟二は涙を堪え、深々と頭を下げるのであった。



「さぁ、事件が俺を呼んでるぜ」


 江戸田一は呟き、自転車を加速させたのだった。




 とある廃工場にて。

 黒づくめの男たちが取引を行っていた。


「こ、これで我が社のスキャンダルはもみ消してくれるのだろうね?」

「あぁ、任せておきな。組織の手にかかれば不祥事の一つや二つ、簡単にもみ消せる」


 そう言って、現金の入ったトランクを受け渡そうとしたその時であった。


「ぐあっ!?」

『!?』


 背後で悲鳴が聞こえた。何事かと振り向けば、一人の少年がうつ伏せに倒れていた。

 そして、鉄パイプを持ったもう一人の黒づくめの男が、つまらなそうに吐き捨てる。


「……こんなガキに尾行されやがって」

「あ、兄貴!」


 不機嫌そうに吐き捨てる兄貴分に、弟分はバツが悪そうな表情を浮かべる。


「ガキの探偵ごっこか。まったく、なにも知らないガキが正義感で行動しやがって……どんな、顔してやがるんだ?」


 この後、行わなければならない後始末のことを考え、余計不機嫌になる兄貴分は、八つ当たりの様に少年を蹴飛ばした。

 蹴り飛ばされた少年はゴロンと仰向けになり、その姿を現した。


「……」

「あ、兄貴、これ、丸太なんだけど……」


 ……いったい、どうなってるのだろう?

 先ほどまで少年だと思っていたそれは、いつのまにか丸太に代わっていた。


「忍者?」


 思わず、そう呟いてしまった。それほどまでに、鮮やかな変わり身の術であった。

 瞬間、取引相手の足元から手が飛び出し、足首を掴むや否や、そのまま凄まじい勢いで引きづりこまれた。哀れ、取引相手は首だけ地面から出た所謂、生き埋めの状態にされてしまった。


「うわぁぁぁぁぁ!?」

「な、なんだ⁉」


 突然の出来事に弟分が懐から拳銃を取り出そうとするも、時既に遅し。

 すさまじい勢いで、地面に引きづりこまれ、取引相手と同じく生き埋め状態に。


「な、なにごとだ!?」

「ふっ、地底人が犯人だった事件の時に習得した、地中潜行術からは逃れられないぜ!」

「うわぁぁぁぁぁ‼」


 さらに、兄貴分までもが同じように地中に引きづりこまれてしまう。

 同時に地中から一人の少年が姿を現した。


「ふっ、最近噂の黒すぎる組織。今日こそ尻尾を掴んだぜ!」

「だ、だれだテメェ!?」

「江戸田一耕五郎、探偵さ」


 兄貴分の質問に、少年・江戸田一耕五郎は名乗りを上げた。


「な!? 江戸田一だって!?」

「知ってるのか!?」

「あの有名な名探貞・名探貞太郎の孫だよ!? アニキ、知らないの!?」

「知らないけど!?」

「くっ、あの数々の犯罪シンジゲートを潰しまわる名探偵が、我々にも目をつけていたとは……」

「だから、知らねぇよ!? え? なにこれ? 知らない俺がおかしいの?」

「もうダメだ……お終いだ……」

「ここまでか……」


 そう言って項垂れる二人。しかし、兄貴分は往生際悪く、江戸田一を睨みつ、罵声を浴びせる。


「おい、クソガキ! この程度で勝ったと思うなよ? 俺たちに手を出した以上、組織が黙ってねぇ。今からお前だけじゃなく、お前の身近な人間も狙われることになるぞ!」


 だが、そんな兄貴分の負け惜しみを、江戸田一は一笑に伏した。


「お前の方こそ、俺を甘く見るな。-―頼んだぜ! 銭持のおっさん‼」

『おう! 任せろ! 日本警察の力を見せてやる‼』


 江戸田一は通信機越しに指示を送ると同時に、銭持は手元のスイッチを作動。

 直後、天から光が降り注ぎ、組織のフロント企業や支部、果ては本部が爆破される。


「「「えええええ!?」」」

『日本警察を舐めるな! 江戸田一の推理を下に、貴様らの組織の関連施設は、俺の作った衛星兵器が照準を合わせていた! あとは決定的な証拠を押さえれば、そこから一網打尽に出来る‼』

「いや、日本警察より、お前がヤバいわ!」


 最早、一人で衛星兵器を作成できる銭持に戦慄せざる負えない。

 そんな兄貴分のツッコミを他所に、江戸田一は次の事件現場に向かう!


「事件が俺を呼んでるぜ!」


 そう言って走り去っていく江戸田一を見送り、生き埋めにされた三人はこう思った。


「「「もう、悪事から足洗おう」」」


 その後、警察が来るまでずっとこのままだった。




「では、今より、この学校を制圧する‼ これも我が国の未来の為だ‼」

『はっ!』

「今こそ、革命の刻だっ‼」

『うぉぉぉぉぉ‼』


 某名門校。そこは今、テロリストたちに占拠されようとしていた。

 彼らは、日本の未来を憂い、現在の政治体制に怒り、暴力を持ってしても日本を変えようとしていた。


「この学園には総理大臣のご息女も通学している! 彼女を人質に取り、交渉を行うぞ!」

『うおおおおお‼』


 リーダーの演説に、メンバーは雄叫びを上げ歓喜。

 学園に向かって突入する。

 かくして、学園はテロリストに制圧――


『待ってたぜ! テロリスト共‼』

『ぎゃあああああ!?』


 ……されることはなかった。

 銃を構え、教室に突入した瞬間、待ち構えていたかのように教員や生徒たちがテロリストたちに襲い掛かり、瞬く間に返り討ちにあってしまったのだ。


「ど、どういうことだ!? あの動き、素人じゃないぞ⁉」


 教師も生徒も天井や壁をシュバババババッと縦横無尽に駆け巡り、銃の照準を合わせることを許さぬまま、屈強な兵士たちを屈服させる。


「ぎゃあああああ!?」「な、なぜだ!? ここにいるのは、ただのガキどもじゃないぞ⁉」「た、助けてくれぇぇぇぇぇ‼」


 一人、また一人と討ち取られていく兵士たち。

 そしてリーダーもまた複数の生徒たちに取り押さえられてしまう。


「ふふふ、いかがですかな? 自称革命家のテロリストさん?」

「くっ!? どうなっている!? お前たちは何者だ!?」


 計画は完璧だった。兵士たちの士気も高く、一学校の制圧など容易に達成できたはずだ。

 しかし、現実は在学中の生徒たちに制圧される始末。

 混乱するリーダーに、校長が現れ、その正体を現した。


「この学校の教師や生徒は全員避難させた。ここにいるのは、俺だけだ‼」

「! お前は江戸田一耕五郎!?」


 そう、校長は事前に変装していた江戸田一だったのだ。

 否! 変装していたのは校長だけではない!

 教員や生徒たちも変装を解くと、中から現れたのは江戸田一、江戸田一、江戸田一……

 全員、江戸田一であった!


『いや、気持ち悪!』


 この瞬間、テロリストたちの心は一つになった。


「くっ! 予め俺たちの計画を掴んだお前は、教員や生徒を事前に避難させ、その後、分身の術と変装を駆使し、俺たちを待ち構えていたのか……‼」

『なんでリーダー、そんなん分かるの!?』


 変装はともかく、分身の術って、最早探偵の域を大幅に超えてたりする。


「流石は武装組織のリーダー。そこまで、分かっていたか……」

「くっ……お前が海外に行ったと言う情報を信じ、計画を早めたが……すべて、貴様の推理通りだったと言うことか……‼」

「ふっ、悪いな。犯人との化かし合いには慣れているんだ」


 そう言って江戸田一は分身を解除。あとのことを警察に任せ、自転車に乗ってその場を走り去った。


「さぁ! 事件が俺を呼んでるぜ‼」





 某国、夕暮れの湖畔のキャンプ場。


『綺麗だ……ジェニファー』

『駄目よ、マイケル。こんなところで。だれか来ちゃうわ……』


 イチャイチャしてるカップルに、頭陀袋を被った大男が斧を片手に忍び寄っていた。

 彼はこのキャンプ場に潜む、殺人鬼だった。

 幸せそうにキャンプを楽しむ人間を片っ端から殺害する。それが彼の存在意義であった。

 彼らに気づかれないように、息を潜め、気配を消し、着実に近づく大男。

 そして、二人の背後まで近づき、巨大な斧を振りかぶり――


「バリツ奥義・自転車インフェルノ‼」

『What!? NOOOOO!?』


 いきなり自転車で突っ込んできた江戸田一に跳ね飛ばされた。

 そのまま、カップルを飛び越え、湖にボチャン。

 盛大に腹ぶちをかましてしまう。


『危ない所だったな! 後は俺に任せろ‼』

『誰!?』

『お前はまさか、コウゴロー・エドダイチ!?』

『誰!?』

『知らないのか!? 世界で一番クールでクレイジーな探偵さ‼』


 突然の闖入者に混乱するジェニファーに、解説するマイケル。

 そんな二人を他所に、江戸田一は頭陀袋を追撃。


 バリツを駆使し、湖をモーゼの如く叩き割り態勢を崩すや否や、またしてもバリツを駆使し、空中へと放り投げ、さらにバリツを駆使し、空中戦へと持ち込む。

 慣れない空中戦に対応できず、頭陀袋は反撃もままならずKO。

 そのまま、地面に叩きつけられた。


『あれがかのシャーロック・ホームズが会得したとされるバリツ。始めてみたよ‼』

『バリツってあんなんなの!?』


 名探偵の活躍を目の当たりにし、エキサイトするマイケルに「なんかおかしくない!?」とツッコミを入れるジェニファー。

 そんな二人に江戸田一は「邪魔したな。続きをどうぞ」と軽く挨拶をし、ボロ雑巾になった頭陀袋の首根っこを掴み……


「奥義・犯人・インフェルノ‼」

『NOOOOO!?』

「事件が俺を呼んでるぜ‼」


 そのまま、空中へ放り投げると同時に、すばやく頭陀袋の背に着地。

 サーフィンの要領で滑空しながら、空へと飛んでいった。

 取り残された二人は、しばし空を見つめ、江戸田一を見送った。


『星が綺麗だね』

『この状況でよく言えるわね!?』


 ムードをぶち壊されても動じないマイケルに、ジェニファーがツッコミを入れた。




 某海上研究所。

 そこで、彼らは違法な海洋生物の研究を行っていた。


「ついに出来たぞ‼ 彼らこそ、海を制する新たな覇者――」

「探偵の呼吸一の型・バラバラ殺人事件・解決‼」

『!?』


 ついにお披露目されるはずだった、品種改良を施したサメが、頭陀袋の大男に乗った江戸田一の手により、すれ違いざまに一閃。

 頭陀袋が地面に叩きつけられ、ずざぁぁぁぁぁと滑りながら壁に激突する寸前に飛び降りた江戸田一が着地。

 同時にサメは解体されそのまま、刺身にされてしまった。


「あぁぁぁぁぁ‼ せっかく作った新種のサメがぁぁぁぁぁ‼」

「命を弄ぶもんじゃねぇぜ。じゃあな!」


 頭を掻きむしり、絶望する研究者を他所に江戸田一は背に担いだ自転車に跨ると、そのまま海上を走行し「事件が俺を呼んでるぜ!」と走り去っていった。


『……もう、悪いことやめよう』


 頭陀袋の大男をその場に放置して。




「おい。そこのお前、止まれ」


 某地方都市。そこで、一人の警察官が不審な男に声を掛けた。


「さっきから、挙動が怪しいな。なにをしてる?」


 酔っぱらいか、薬物中毒者か。

 夜遅くにフラフラと、彷徨う男に違和感を感じ、声を掛けたのだが、返事がない。

 そんな男の態度に、警察官は腹を立て、グイッと肩を掴んで振り向かせると……


「GAAAAAA‼」

「うわぁぁぁぁぁ!?」


 ――男はゾンビであった。

 くぼんだ目に生気のない青白い肌。体のいたるところから血を流し、涎をまき散らしながら警察官に襲い掛かる。

 そして、その牙が警察官に突き立てられようとした瞬間――


「そうはいかねぇ!」

「GYAAAAA!?」

「ええええええええええ!?」


 背後から江戸田一強襲。

 手にした注射器をゾンビに突き刺し、中の薬品を注入すると、ゾンビはもがき苦しみだす。

 そして――!


「? 俺は、いったいなにをしてたんだ?」

「えええええ!?」


 なんとゾンビは普通の人間に戻っていた。さらに――


「耕ちゃん! 銭持警部が発明した、ゾンビ化の特効薬を持って来たわ! 今、杉畑警視が政府の許可を得て、ヘリコプターで都市全域に散布中よ!」

「でかした! 理子! これで、ゾンビウィルスの蔓延を阻止できたぜ!」


 ヘリコプターから江戸田一に、状況を伝える幼馴染の推理子。

 どうやら、既に特効薬を開発していたようだ。

 日本の警察、ハンパねぇなと警官は思った。


「さぁ! 次の事件が呼んでるぜ!」


 そう言って、江戸田一はヘリコプターに乗り込み、次の事件現場に。

 取り残された警官は、ゾンビだった男と顔を見合わせ言った。


「世界は広いな」

「そうっすね……帰っていいですか?」

「あぁ、気をつけてな」




 夢の世界のとある街。

 そこには、迷い込んだ子供を殺害する殺人鬼の霊がいた。


「さぁ~て、今日もみんなと遊ぶぞぉ~!」


 そう言って、ナイフを舐めなら、迷い込んだ子供を見つけ、忍び寄る。


「はぁ~い! ボーイ! 一緒に遊ぼう♪」


 そう言って、殺人鬼はナイフを子供目掛けて振り下ろした。


「ふっ! 待ってたぜ! 姿を現したな!?」

「What!?」


 子供は殺人鬼の腕を掴むと、一本背負いの要領で地面に叩きつける。


「おぎゃあ!?」


 そしてそのまま、腕ひしぎ十字固めをキメるッ!


「NOOOOO!?」


 たまらず、殺人鬼はギブアップ宣告。必死にタップする。

 しかし、子供はそのまま力を込め、圧し折ろうとする。

 たまらず、殺人鬼は瞬間移動で逃げ出すも……


「逃げられないぜ?」

「What!?」


 なんと回り込まれてしまった。夢の中は自身のテリトリー。ここで子供を狩るは自分であり、自分が子供に狩られるはずがない。

 しかし、今、自分は子供に狩られようとしている。


「お、お前、いったい何者だ!? ただの子供じゃねぇな!?」

「俺か? ふっ、俺は江戸田一耕五郎。探偵さ!」


 瞬間、顔に施した特殊メイクをはぎ取り、さらに骨格をゴキゴキと変形させながら、元の姿に戻る。

 その光景、絶妙に気持ちが悪く、殺人鬼も思わず「キモッ!」と戦慄した。


「夢の中で子供たちの命を奪う殺人鬼、お前を野放しにするわけにはいかねぇ。子供たちが夜トイレにいけなくならないように、ここでお灸を据えてやるぜ」

「う、うるさいな! お前こそ、ここが夢の中であることを忘れるな‼ ここは俺様のテリトリーだ‼」

「ふっ。『俺様のテリトリー』か……いつまで勘違いしてやがる。ここは既に俺のテリトリーだ!」

「な、なにぃ!?」


 その瞬間、夢の世界が震えだし、周囲の建物が崩れ出す。

 そして、地面も崩れ出し、下から巨大な手が現れ、殺人鬼をぎゅぅぅぅぅぅっと握りしめる。


「ぎゃあああああ!?」


 絶叫をする殺人鬼。その手の持ち主――超巨大江戸田一は得意げに言い放った。


「これもまた、バリツの力だ」


 バリツの本質は「場を律する力」

 故に夢の中と言う不安定な空間も、バリツを極めれば、簡単に掌握できるのである。


「いや、バリツってそんなんじゃねぇから‼」


 シャーロック・ホームズに謝ってほしいレベルである。


「とにかく、これでお前は無力化した。夢の世界の平和を返してもらうぞ」

「え! ちょっと待って! これ主人公が、探偵がやっていい攻撃じゃなry」


 ぐちゃ!

 哀れ、殺人鬼は懇願の甲斐なく握りつぶされてしまった。

 江戸田一は手をパンパンと叩き、拭うとそのまま、夢の世界を後にする。


「さて、そろそろ、起きるとするか。現実の世界で事件が俺を待ってるからな」




 某国の宇宙ステーション。

 そこでは未知の生物の研究をしていた。

 とある惑星で見つけた、奇妙な生物――所謂『エイリアン』

 一見するとミイラの様に干からびているが、なんと驚いたことに、生命反応は途絶えていない。どうやら休眠状態のようである。

 しかし、その眠りはやぶられようとして――


「おい! なんだ、あの宇宙船の大群は!?」

(ふえ!?)


 突如、モニターに映し出された無数の宇宙艦隊。

 百隻以上はあるであろう部隊に、ステーション内の乗組員はおろか、襲い掛かろうとしていたエイリアンにも緊張が走る。

 もし彼らが攻撃を開始すれば、ここにいる全員、宇宙のチリになってしまうだろう。


 ――しかし、それは杞憂だった。


「艦長!通信が入ってます!」

「なんだと!?」

『宇宙ステーションの皆さん、初めまして。私は江戸田一耕五郎。日本の探偵です』

『なんて!?』


 なんで宇宙からやってきた艦隊に、日本の探偵が乗り込んでいる!?

 衝撃の事態に、全員の開いた口が塞がらない。


『この艦隊は、地球侵略を企む悪の宇宙人の艦隊でした。しかし、事前に察した私は、日本警察の協力の下、秘密裏に潜入。侵略に反対していた穏健派と共にクーデターを起こし、無事、侵略活動を未然に防ぐことができました!』

「それ日本警察の管轄外じゃないよね?」


 むしろNASA案件じゃないか?

 そんな細かい疑問を他所に江戸田一は話を続ける。


『穏健派はいずれ地球と友好的な関係を結びたいと考えておりますが、地球側の受け入れ態勢が整っていないことを伝えた結果、このままUターンして帰るそうです』

「あぁ、そうなんだ……気をつけてな」

『あとついでに、地球に衝突しそうな超巨大隕石も壊しておきました』

「あ、そうなんだ。ありがとう……」

『私もこのまま、日本に直帰します。みなさんは何も気にせず、普段通り、職務を全うしてください』

「言いたいこといっぱいあるけど……とりあえず、そうさせてもらおう」


 それだけ言って、通信は切断。そのまま、艦隊はUターンして帰っていった。

 そんな彼らを見送り、ようやく落ち着きを取り戻した乗組員たちがふと、振り向くと、自分たちに襲い掛かろうとしたものの、突然の事態に呆然としていたエイリアンと目が合った。

 しばし、見つめ合い、エイリアンはたどたどしい言葉づかいでこう言った。


「ボク、悪イエイリアンジャナイヨ?」


 ……あんなんがいたら、自分など真っ先に排除されてしまうだろう。

 エイリアンは本能よりも我が身を優先できる程度には賢かった。

 こうして人類はこの日、地球外生命体と初めてコンタクトをとることに成功したのであった。




 再び、日本。

 そこで人生に疲れたブラック企業務めの一人の社畜目掛けて、トラックが突っ込もうとしていた。


『い、いかん! ミスったぁぁぁぁぁ‼』


 そんなトラックを止めようと、死神が慌てる。

 実は、このトラック、死神のミスで暴走しているのだ。

 寿命に従い、トラックの運転手を心臓麻痺で死亡させたのはいいが、アクセルを踏んだまま倒れてしまい、そのまま暴走してしまっているのである。

 このままでは、なんの罪もない社畜がまた一人、異世界に転生してしまう。

 そうなれば、上司から叱責されての懲戒免職処分はもちろんのこと、また外交関連で地球が不利になってしまうのだ。


 異世界転生なんて簡単にできると思われているが、実際は、結構な責任問題なのだ。


『いかん! もうダメだぁぁぁぁぁ!』


 このままでは閻魔大王を始めとする、様々な神様に怒られてしまう。

 死神と社畜の表情が絶望に染まったその時であった。


「そいや!」


 トラックと社畜の間に飛び出した少年――ご存じ江戸田一耕五郎の手によって、事故は未然に防がれたのだ。

 彼はバリツを駆使し、合気道の要領で、トラックをぶん投げる。

 トラックはそのまま停止。

 こうして、異世界転生は阻止された。


「あ、あ……」

「大丈夫だったか? もう安心だ」

「あぁ……」

「疲れてるみたいだな。仕事が辛いなら、少し休んだ方が良い。もし職場に問題があるなら、然るべき所に相談すると言い。良い弁護士を紹介するよ」

「あぁ……」


 そう言って、爽やかに去っていった江戸田一耕五郎。

 そんな彼を社畜は憑き物が落ちた表情で見送り、死神は敬意を評して敬礼して見送ったのだった。




 そして、翌日。

 とある霊園に江戸田一耕五郎の姿はあった。


「じっちゃん、久しぶりだな。探偵って思ったより大変だよ……」


 そう言って、手を合わせる江戸田一。

 そう。ここまで様々な事件を未然に防いでいたのは、敬愛すべき祖父の命日に、墓参りを行うためであった。


「じっちゃんを越えると口では言っても、どれだけ、事件を解決しても取りこぼしちまうこともある……けど、俺は少しでも悲劇を防ぐため、こらからも探偵を続けるよ」


 そう言って、墓を綺麗に掃除し、線香を上げた江戸田一。

 祖父を越える探偵になると言う、目標を胸に江戸田一はこれからも戦い続けるだろう。




「じゃあな、じっちゃん。今度来るときは理子の奴も連れてくるよ」


 そう言って江戸田一は去っていく。

 この世に蔓延る悪意と悲しみの涙を消し去るその日まで、彼の戦いは続くのであった。










 とある遊園地。

 そこでは、AIの暴走したマスコットロボットたちが殺戮マシーンとなって、夜な夜な子供たちを……


「おっと、おいたはこの辺で止めてもらおうか」

「ダ、ダレダ!?」


 瞬時にプログラムを修復し、AIを初期化されていくマスコットロボットたち。

 ハッキングを行っている何者かにマザーAIが尋ねると、その人物はニヒルに笑って名乗った。


「俺は江戸田一耕五郎。ただの探偵さ!」




◆CAST◆

・みんなのヒーロー 江戸田一耕五郎

・久々の登場のヒロイン 推理子

・日本警察最大戦力 銭持警部

・お久しぶりです 杉畑警視


・その後、立派なマタギになった 熊岡猟二

・実はドジっ子 兄貴分

・元ネタは声優しか印象に残ってないなぁ…… 弟分

・扱いが雑 テロリストの皆さん

・末永く爆発しろ マイケル&ジェニファー(99・64・98)

・全治三ヶ月 頭陀袋の怪人

・研究成果は秒で刺身盛り合わせに…… 海洋学者

・アメリカの意地を見せてやる 警察官

・ゾンビから奇跡の生還 感染した男の人

・そのうち復活→即始末 殺人鬼の霊

・身の程を弁えてる エイリアン

・お疲れ様です 社畜の人

・お疲れ様です! 死神




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 むしろ、両方やってください!



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― 新着の感想 ―
懐かしい事件がごっちゃ混ぜ…
断言したよ此の人・・・。(死んだ目) ゲラゲラW
探偵・・・。(目が死んでる)
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