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借金取りとパフェ

作者: 村崎羯諦

 お客様、大変お待たせしました。こちらがうちの名物『借金取りパフェ』です。


 え、どうしてこんな名前のパフェなのかって? ああ、理由は単純で、この店をやっている私自身が借金取りとして働いているからなんです。本業は借金取りで、週に三日ほど、夜はバーをやっているこの店を間借りして、パフェ専門店を開いています。本物の借金取りが作るパフェだから、借金取りパフェなんていう名前なんです。


 お客様には借金取りのお知り合いはいらっしゃいますか? ええ、そうですよね。お客様が多重債務者とかではない限りは、なかなか関わることはない職業ですものね。いえいえ、ドラマのイメージが強いかもしれないんですが、想像していらっしゃるよりも、ずっと地味で単調な仕事なんですよ。


 懇意にしている金融機関から毎日、支払い期限が過ぎている債務者の情報が送られてくるんですが、私はただ、彼らの自宅や勤め先を訪れて、借金を返してもらえるように頼み込むだけなんです。恫喝を使って取り立てをしていたこともあったそうですが、今は時代が時代ですから、そんなことはできません。


 できることといえば、法律的にも道義的にも借金を返さなければならないということを必死に訴えることくらいです。もし返済が難しいのであれば、ハローワークに付き添ってあげたり、依存症のケアを行なっているNPO団体を紹介してたりすることもありますね。でも、債務者の中には癖の強いからもいらっしゃって、暴言や暴力を受けることなんて日常茶飯事です。まあ、それが私の仕事でもあるんですけどね。


 でも、そんなある日。借金の取り立てに訪れた家に小さな子供が二人だけ残されていたんです。お父さんとお母さんはどこに行ったの? と聞いても、わかんないと答えるだけ。子供から借金を取り立てるわけにも行かないですからね。その日は諦めて帰ろうとしたんです。ただ、ちょうどその時、子供のお腹がぐーって鳴ったんです。


 気になった私がお腹空いているのかって聞いたらうんって答えて、最後にご飯を食べたのはいつだって聞いたら昨日の昼だって言うんです。私は親の借金を取り立てる人間ですが、情もあります。私は自腹でお腹を空かせた子供達を近くのファミレスまで連れて行ってあげたんです。


 好きなものを食べて、最後に子供たちはパフェを注文しました。私は甘いもの好きですが、あまりパフェというものは食べたことがなかったんですね。ですが、子供たちがパフェに目を輝かせ、嬉しそうに食べる姿を見て思ったんです。


 パフェには人を惹きつける何かがある。借金取りが言うのもなんなんですが、借金してでも食べたいという魅力があるってね。それから私はパフェの魅力に取り憑かれ、毎日のようにパフェを食べるようになったというわけです。


 きっかけはそんな感じなのですが、まあ平たく言えば好きが高じて、このパフェ専門店を開業したというわけなんです。


 でも、パフェと借金って似ていると思いませんか? 少しのつもりで借りた借金も、それが積み重なっていくことで、どんどん高く積み上がっていき、返済できないくらいに大きな金額になってしまう。パフェも一つ一つは小さな素材でも、それをしたから一つ一つ積み重ねていくことで、見栄えのする美味しいパフェが出来上がっていく。


 なので、パフェが借金だとしたら、それを食べるお客様が借金取りということになりますね。ははは、これはいつもお客様にお話ししている鉄板のジョークなんです。


 すみません。こんな話をしている間にもう食べ終わってしまいそうですね。ありがとうございます。美味しかったと言っていただけて私としても大変嬉しいです。ああ、お会計ですか。はい、少々お待ちくださいね……。えーと、パフェ代と、あとチャージ料金を含めて、合計501000円になります。


 え、高すぎるですって? いやいや、お客様。きちんとお渡ししたメニュー表にも記載していましたよ。ほら、パフェは1000円ですが、メニュー表の一番下にメニューとは別にチャージ料金をいただいていますと書いてあるじゃないですか? もしかしてですが、お金を払えないんですか?


 ああ、そんなに気にしないでください。この店ではよくあることですから。でも、安心してください。うちはなんたって借金取りパフェですから。


 いますぐに五十万を借りられる金融機関を紹介しますね。

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