目が覚めて…
散々泣いた後にやってきたのは、後悔の嵐だった。馬鹿みたいに人前で泣いたことが恥ずかしい。私の泣き声を聞きつけて、ジョエルやエドガール様、アルノーまで飛んできたのだ。それに気づいたけれどその時は感情が抑えられなくて泣くのを止められなかった。思い出すだけでも恥ずかし過ぎる。完全に黒歴史の出来上がりだ……
「あ、あの……すみません」
「いや、謝るのは私の方だ。まさかあれから三年も経っていたとは思わなかった……」
散々泣いた後で話を聞いて驚いた。私は魔力切れを起こして丸二日も眠っていたのだ。そう言えば魔力を流すと光のカーテンが出来て綺麗だからと面白半分に魔力を使い、その後でオーリー様を癒すのに残りの魔力を全て注ぎ込んだのだ。あの時はすっかり動揺して後先考えずに魔力を使ったから、限界に来ていたことも気づかなかった。治癒師としては大失敗だ。ここがもし前線だったら足手纏いになっていただろうし、最悪死んでいたかもしれないのだ。
一方のオーリー様も、まさか三年もあの魔石の中で眠っていたとは思わなかったらしい。目が覚めたところ、私たちの外見が微妙に変わっているのに驚いたという。確かに三年も経てば外見だって変わるだろう。一方でオーリー様はあの時のままだった。
「それで、何がどうなっていたんですか?」
泣いたことへの恥ずかしさから、声が固くなったし素っ気なかったかもしれない。そうは思うけれど、目覚めてからずっとオーリー様が側を離れず、ずっと私の手を握っているから気まずくてならない。素っ気なくなっても今は目を瞑って欲しい、と思う。
「う~ん、どこから説明すればいいのか……」
「そうなるまでの経緯はエドガール様から伺いました。どうして魔石の中に?」
「魔石の中に、か。私もあんなことになるとは思わなかったんだよ。ただ、敵兵が襲い掛かって来るのが視界に入って、でもまだ魔石に魔力が入りきらなかったから、咄嗟に時間が止まればいいのにと強く願ったんだ。そうしたら……」
「ああなっていた、と?」
「そういうことになるね」
何とも理解し難いけれど、オーリー様は敵兵に切り付けられた状態のままで時間が止まっていた。傷もそのままに。こんな事例は聞いたことがなかったけれど、現実に目の前で起こっているのだから否定のしようもない。
「私にも何が起きたのか、正直言って説明できない。でも、結果として私は魔石の中で三年間もその状態を保っていたから、あり得るのだろうね」
「信じがたいですが……確かに」
ちなみにオーリー様にはこの三年間は存在していないらしい。夢も見なかったし、身体も成長していない。何なら傷だって治っていないままだったのだ。
(もう、訳が分からないわ……)
正直、事象だけだとまだ夢でも見ているのかと思ってしまう。でも、身体に痛みはあるし、倦怠感もある。身体に力が入らないのも変わらない。リアリティがあり過ぎるだけに、夢ではないのだろう。あってほしくないし。
「エドにも散々叱られたよ。もっと早くに目を覚まして欲しかったってね」
「でも、そうなった理由もわからないままだったんですし……」
「うん。アンジェが魔石に魔力を流してくれたおかげで見つけて貰えたしね。しかも肩の傷まで。毒の件から数えるともう三、四回は命を助けて貰ったんだね」
「いえ、今回はたまたまというか、成り行きで……」
「それでも、アンジェは私の命の恩人だよ」
そう言って繋げた手に力を込められた。しかも蕩ける様な笑顔付きで眩しすぎる。でも、この笑顔が見たいとどれほど焦がれたことか……そう思ったらまた涙腺がじわりと緩み始めてしまった。
(ダメダメダメ! これ以上情けないところなんて見せられないんだから!)
この状況はマズい。そう思うのだけど、オーリー様の笑顔にまた泣いてしまった。どうやら三年前に封印した筈の涙腺は、オーリー様によって解かれてしまったらしい。
三番目の要にも行きたかったけれど、こうなってはそれどころではなくなって、私たちは屋敷へと戻ることになった。でも、身体に力が入らない私は馬に乗れないという大問題が発生していた。まだ腕すらも上げられないのだ。こんなに酷い魔力切れは初めてで戸惑うばかりだった。
「だったら私が支えていこう」
そう言って私を後ろから抱き込んで騎乗したのはオーリー様だった。如何せん体に力が入らないから乗るのも一苦労だ。エリーたちに手伝って貰って何とか馬には乗ったけれど、支えがなければそのまま突っ伏してしまうし、下手すればバランスを失って落ちてしまう。
「あ、あの、この近くに小屋がありますから、せめて力が入るようになるまではそこで……」
「ダーメ! アンジェを一人残すなんて。だったら私も残るよ」
「い、いえ! オーリー様は早く戻って無事な姿を……」
「別にそれなら誰かに報告して貰って、迎えに来て貰えばいいだろう」
「ですが……」
「戻って来るのにも最短で三日はかかるんだ。一緒に戻れば二日もすれば屋敷に着くだろう? 大丈夫、結界で落ちても怪我しないようにしておくから」
結局、オーリー様に押し切られて、また皆も早くオーリー様の無事を知らせたかったらしく、私はオーリー様と密着状態のまま帰路に着くことになった。幸いなのは途中で哨戒中の部隊に会って、そこからは荷物用だったけれど馬車に乗って移動できたことだ。さすがに異性とくっ付いて過ごすのは心臓にも精神にも悪い。乗り心地の悪い荷馬車が酷く快適に思えたのは人生で初めてだっただろう。




