従者を発見
急く心を必死に抑えながら私は魔力の反応を感じた方に馬を進めた。敵の可能性もあるから様子を窺いながら進む。魔力を感じた先にあったのは、うつぶせに倒れた騎士の姿だった。
「エドガール様?」
騎士服はリファールのもので、髪の色と体格からそれがエドガール様だと一目でわかった。ジョエルが私を追い越してエドガール様の側まで馬を進めると、あっという間に下りてその身体に駆けつけた。
「エドガール様!!」
様子を見ながらジョエルがエドガール様の身体を抱えて仰向けにした。顔が見えて、間違いなくエドガール様だとわかったけれど、その眼は固く閉じられていた。服のあちこちに刀傷らしき破れと微かな血の滲みが見られるけれど、酷く出血しているようには見えない。
「ジョエル、そのままで」
私はジョエルに抱きかかえられたエドガール様の側に膝をつくと、そっと治癒魔術をかけた。幸いにも怪我は少なかったらしく、力は直ぐに途切れた。髪に血がこびりついていたから頭を殴られたかしたのかもしれない。
「エドガール様!」
「……ぅ、ぅう……」
ジョエルが軽く揺すりながら名を呼ぶと、うめき声を上げながらもエドガール様の顔が微かに歪んだ。
「……ジョ……ル?」
「エドガール様! しっかり!」
微かに目を開こうとしたエドガール様にジョエルが一層大声で呼びかけると、はっと我に返ったようにエドガール様が目を見開いた。どうやら意識が戻ったし、記憶に問題もないらしい。私はホッと胸を撫で下ろした。
「ぁ、ああ! オ、オードリック様は!! ジョエル! オードリック様を見かけなかったか?」
「なっ!」
「エドガール様! オーリー様は?! 何があったの?!」
慌てて周囲を見渡し主を探そうとするエドガール様に、何か只ならぬことが起きたのだと直感した。彼が、何よりもオーリー様を優先する彼がオーリー様の側にいないことがおかしいのだ。
「ぁぁ……アンジェリック様! オードリック様はどちらに!!」
「オーリー様の姿はまだ見つけられていないわ。と、とにかく何があったのか話して!」
僅かに有った安堵感が一気に霧散して、形にならない恐怖感がそれに置き換わった。
(ああ、別行動をするのではなかった……)
今更言っても仕方がないけれど、そう思わずにはいられなかった。
「……そんな、ことが……」
エドガール様の話は、とてもではないけれど楽観視出来る内容ではなかった。
あの後、アルノーを追って敵兵の元を離れようとしたお二人は、運悪くアルノーを見失ってしまったという。というのも、追っている最中に残っていた犬に見つかってしまい、犬に驚いた馬があらぬ方向に向かって駆けてしまったからだ。しかも敵兵にも見つかってしまった。距離としてはわずかではあったけれど、そのせいで自分たちの位置どころか方角も見失ってしまった。暫くの間どうするかと悩んだが、オーリー様が魔術で周辺を探ると敵兵が移動しているのを感じたという。
「それならばとオードリック様は、魔石の交換に向かおうと仰ったのです」
「そんな……でもまだ敵兵が……」
「はい。私も危険だからとお止めしたのです。ですが、このままではアンジェリク様たちと合流も出来ないが、二番目の要の位置なら魔力でわかる。アンジェリク様の元にはアルノーが向かうだろう。魔石を交換すれば自分たちがここにいることはアンジェリク様にも伝わるから、いずれ合流出来るだろうと仰って……」
「……」
確かにこの山の地理はわかり難いし、地元の私たちでさえ木々のせいで自分たちの居場所を掴むのは難しい。だから合流する方法はそれが一番なのだけど……
「魔石のところまでは問題なく辿り着けました。ですが……」
魔石の要に着いたお二人だったけれど、オーリー様が交換を始めようと術を練り始めた時にそれは起きた。残っていた兵が一斉に二人に襲い掛かってきたのだ。既に術を展開し始めたオーリー様は動けないため、エドガール様が彼らの相手をして何とか退けた。同時に魔石の交換と結界の修復が終わったのだろう。オーリー様がほっと息をつくのが見えたという。彼の元に戻ろうとしたエドガール様は、近くの藪から兵二人がオーリー様めがけて突撃するのを見たという。
「そ、それで、オーリー様は……」
「それが……敵が殿下に剣を振り下ろすのが見えたのです。殿下は左肩に傷を追われて……」
「肩に傷を!?」
「はい。慌てて駆けつけようとしたところ、突然真っ白な光に覆われて……」
「真っ白な、光?」
「はい。それからの記憶がありません。気が付いたら、ジョエルに抱き起こされていました」
誰かが魔術を展開したのだろうか。でも、オーリー様は結界魔術の達人だ。そんな初期魔術でオーリー様を傷つけられるとは思わない。それよりも肩に傷を受けたことの方が問題だった。軽傷でも放置して化膿すれば命にもかかわるのだから。
その後二番目の要にエドガール様と共に戻ったけれど、オーリー様の姿は見当たらなかった。その後手分けしてその周辺を調べたけれど、夜になっても何の手掛かりもなかった。




