断罪の夜会
マティアス様と共にいる少女をミアと呼んだオーリー様だったけれど、あれはエマ様じゃないだろうか。二人は双子だったと聞いていたし、ミア様は既に亡くなっているのだから。
「マティアス、これはどういうことだ?」
マティアス様と一緒に現れた少女の姿に、ベルクール公爵が低く威嚇するように問いかけた。まるで射殺さんばかりの視線はとても息子に向けるものではなかった。一方で二人の表情は硬く、それは彼らの決意を現しているようにも見えた。
「マティアスよ、この魔道具は確かに公爵家にあったのだな?」
「はい。父の書斎の奥の隠し部屋に……」
「マティアス!」
マティアス様の言葉を遮る様に公爵が名を呼び、マティアス様は一瞬身体を震わせた。
「貴様、母の形見を勝手に持ち出したのか? わしの書斎に無断で入るなど、どういうことだ!?」
わなわなと震えるとはこういう情況を言うのかと思ってしまうほど、公爵は小刻みに体を震わせていた。あれは恐怖ではなく怒りだろう。
「実の息子に、このような場で怒鳴ることはなかろう。むしろ彼に感謝すべきではないか? なぁ、公爵よ?」
「なっ! 陛下、それはどういう……」
「なに、簡単なことよ。マティアスは公爵領の民のために、憂いを切り捨てる覚悟をしたのだよ。しかも我が身を顧みず、心を鬼にしてな」
「そ、それは、どういう……」
陛下の言葉は曖昧で、公爵が望んだ答えではなかったらしい。彼らしくなく動揺が顔に現れていた。
「ベルクール公爵を捕縛せよ!」
「はっ!」
「な……! 陛下、横暴ではありませんか? 何故王家に誠心誠意お仕えした私を……!」
腕をとろうとする騎士たちに抵抗しながら公爵が声を荒げた。それでも屈強な騎士たちに敵うはずもなく、二人の騎士にがっしりと両腕を取られた。
「横暴か……確かに魔道具のことだけだったら、そなたに罪は問えなかっただろうな」
「当り前です!」
「だがな、それを使ったのは? リードホルムの王子に、我が国の王太子。その二人を魅了した罪を見逃すわけにはいかぬのだ」
「そ、それこそ身に覚えがございません! 私が、どうしてこの私がその様なことをする必要があるのです! 私がその様なことをすれば王太子妃になる筈だった娘の足を引っ張ることになる! その様なことを親である私がするなど……!」
「そなたに親らしい気持ちがあれば、な」
「な……!」
陛下の指摘に公爵が言葉を失った。
「マティアスの身体にある数えきれないほどの傷は誰が付けた? 幼かったジョアンナに一日四時間しか睡眠を取らせなかった教育は? 外で生まれた娘を道具のように使い捨てたことは? それらは世間では虐待と呼ばれるものではないのか?」
陛下の言葉に会場内がまた騒めいた。苛烈で容赦しない性格だとは知られていたが、まさか実子にまでとは思わなかったのだろう。
「ああ、それからそなたにはオードリックへの毒物投与、更には先日のわしへの襲撃事件の疑いもかかっておる」
「なっ!?」
「襲撃はオードリックの助力で事なきを得た。その件も後で詳しく聞かせて貰おう」
「な、何のことだか……!」
「衛兵、公爵を貴族牢へ。厳重に見張る様に」
「はっ!」
「は、離せぇっ!」
暴れ出した公爵を騎士たちが押さえつけ、引き摺る様に外へと連れていった。あまりにも呆気なく公爵が捕まったことに、会場内の皆が信じられない面持ちで見つめていた。その中には顔色を明らかに悪くしている者たちも見える。彼らは公爵の傘下にいた者たちだろうか。連座でこれから自分たちに矛先が向くと思えば平常心ではいられないだろう。
「ああ、公爵に協力していた者どもも捕らえよ!」
「はっ! 始めよ!」
陛下の言葉を受けて近くにいた壮年の騎士がそう命じると、扉から騎士が流れ込んできた。次々に貴族を拘束し始める姿に、この場は最初から断罪のために設けられたのだと悟った。こんな時期に夜会をするなんて珍しいと思っていたら、まさかこんな事態になるなんて……
チラとオーリー様に視線を向けると、それに気づいたオーリー様が小さく笑った。その笑顔は少し困ったようにも見えて、その表情からこうなることをオーリー様は知っていたのだと理解した。きっとアデル様もご存じだったのだろう。
「皆の者、今宵はこのような騒ぎになってすまなかった。だが、ベルクール公爵の横暴と不正をいつまでも野放しにしては我が国の名折れ。既に被害に遭った者には取り返しがつかないが、彼に協力した者どもには厳しい罰を与えると誓おう」
陛下の言葉を会場内の者が神妙な表情で聞いていた。中にはすすり泣く者もいて、彼らは公爵の横暴に涙を呑んだ人たちなのだろうか。
「……へ、陛下」
「何だ?」
「だ、第一王子殿下の名誉は回復されました。では、王位継承は……」
貴族の一人が恐る恐るそう尋ねてきた。確かにオーリー様が魅了されたことは、今回の件で演技だったと公式には記録されることになる。でも……
「王太子はルシアンだ。オードリックは確かに魅了の捜査に協力はしたが、残念ながら毒によってその任を全う出来ず、また子が成せるかの確証がない」
「さ、左様でございますか……」
ほっとする者、落胆する者様々だったけれど、確かに表面上は陛下の仰る通りかもしれない。いや、これはそれで押し切ろうとする陛下のご意志だろうか。裏を知っている私には釈然としない結末に見えたけれど、それよりも公爵たちが捕らえられた事の安堵と喜びの方が勝った。




