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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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療養の真相

「アンジェ、無事でよかったよ」


 そう言いながらオーリー様は私の手を優しく撫でてきた。マッサージされるように優しく撫で、時には指を絡められて、私の羞恥心とか色んなものがガリガリ削られるのを感じた。


(オ、オーリー様……何を……)


 何でこんなことになっているのか、全くわからなかった。オーリー様の行動が謎過ぎる……


「アンジェ?」


 俯いたままの私の顔を、下から覗き込むようにして目を合わせてきたオーリー様に、益々心臓が跳ねた。そのうち弾け飛んでいきそうな勢いだ。


「あ、あの、よかった、です……」


 とにかく何か言わなきゃ! と焦って出てきたのはそれだけだった。


(私の語彙力、どこに行ったのよ……)


 今はただこの場から逃げ出したかったけど、オーリー様に手を取られているのでそれも叶わなかった。どうしてこんな状況になっているのだろう……

 何も言えず、オーリー様も何も言わない。沈黙が肌を刺すように感じた。静けさを痛く感じるなんて知らなかった。


「……父上に、毒のことを問い詰めて来たよ」

「……!」


 その言葉に、ハッと顔を上げるとオーリー様の金色の目と視線がバッチリ合ってしまった。それでも……羞恥心よりも毒の懸念が僅かに上回って、私の視線は辛うじて泳ぎ出さなかった。


「そ、それで……陛下は何と?」

「うん。それが……」


 それからオーリー様は、療養直後に起きた話をしてくれた。


 オーリー様は廃嫡される少し前から倦怠感を持っていたという。それは軽い疲労感レベルで、周りもオーリー様自身も一連の騒動の影響なのだと思っていた。周囲は魅了された後遺症、オーリー様は長かった初恋への喪失感と婚約破棄後のごたごたへの疲労感だと。


 その状態のままオーリー様は療養と称して、離宮に幽閉された。そこで到着直後に熱を出したのだけど……

 それは廃嫡される少し前から飲まされていた毒のせいだったのだ。その毒をオーリー様に渡していたのはミア様で、彼女はクッキーなどのお菓子に混ぜてオーリー様に提供していた。

 断罪後に二人が引き離されたことで毒の摂取は止まったけれど、その後にオーリー様が医者に処方された薬を飲んだところ、高熱を出した。

 実はミア様がオーリー様に飲ませていた毒にはある特徴があって、その毒を飲んでいる時にある成分を摂取すると更に強い毒になる性質を持っていたのだ。オーリー様が熱を出したのはそのせいで、二度目の毒はその毒に気付いた医師たちが飲ませた解毒剤によって出たものだった。


「そんな……ミア様がオーリー様を害しようと?」

「いや、彼女は私に毒を盛っていたことすら、気付いてなかったと私は思っている」

「そんな……って、まさか……」

「そう。彼だろうね」


 はっきり名前を出さなくてもわかった。ベルクール公爵だ。でも、どうして公爵はそんなことを企んでいたのだろう。彼はジョアンヌ様かミア様をオーリー様に縁付けて、その孫を王位に就けようと目論んでいたはず……


「公爵は彼女が私にまで手を出すとは想定していなかったんだ。あくまでも公爵が狙っていたのは私とジョアンヌとの婚姻で、ミアは魅了の効果を確かめるための駒だったからね」

「それは、そうでしょうね」


 身分からしてもジョアンヌ様の方が王太子妃や王妃に相応しく、婚約者なので何の問題もなかっただろう。なのにミア様が欲を出してオーリー様に手を出してしまい、そのことに公爵は憤っていたとマティアス様も言っていた。


「公爵は多分、私が許せなかったんだろうね。長年の婚約者のジョアンヌを蔑ろにして、自分のシナリオ通りに動かなかった私が」

「でも、それでオーリー様に何かあったら……」

「そう。だから微弱な毒でおいていたんだろう。私がジョアンヌの元に戻れば毒の摂取を止める。でも戻らなかったら、と」

「……」


 確かにそう言われれば辻褄は合うけれど。


「公爵は私が助かった後も私を消そうとしていた。ランドンを使ってね」


 確かに彼は療養中のオーリー様にずっと毒を処方していた。弱いものではあったけれど。


「そう言えば、どうして彼は……」

「彼の娘はベルクール公爵家の分家の分家に嫁いでいたんだ」


 娘家族を人質に取っていたのか。公爵ならやりそうだなと思った。利用出来るものは何でも利用し、誰に何を言われても気にも留めない公爵らしい。


「じゃ、どうして今になってエマ様を?」


 そう、毒を盛っていたのに、死を願っていたのに、どうして今になって近づいてきたのだろう。


「五年経ってもルシアンに瑕疵を作れず、王子が生まれたからだろうね。このままでは自分の計画が破綻すると踏んで、私も利用しようとしたんだろう」


 あくまでも私は保険の保険くらいの扱いだったろうけどね、とオーリー様が苦い笑みを浮かべた。


「父上は既に証拠を固めておられる。近々その時は来るだろうけど、先日の襲撃も公爵が絡んでいる可能性があるからね。そちらも慎重に調べているところだよ」

「そうですか」


 いよいよ公爵の罪が明らかになるのか。もっと時間がかかるかと思っていたけれど、その日が思ったよりも早く訪れることに不安と期待が広がっていった。





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