オーリー様の安否は?
結局まんじりともせず朝を迎えた。こんな時、ベッドの中にいるとどうして悪いことばかりが浮かんでしまうのだろう。悪い想像が浮かび、それを打ち消して……を何度繰り返したことか。それでも心が晴れないのはその渦中にオーリー様がいたからだ。
(杞憂に終わってくれるといいんだけど……)
祈るような気持ちでお祖父様の部下が集めてきた情報が知りたくて、私は出発せずに宿に留まることにした。急ぐ理由もないし既に距離も開いているようだから、ここに留まっても問題はないだろう。雨などで足止めを食うことは珍しくないし。
お祖父様の部下が情報を手に現れたのは、翌日の昼前だった。それだけ情報が掴めず、またオーリー様との距離が出来た証拠なのだろう。
「陛下の隊列が……襲撃?!」
「断定は出来ません。ですが、情況からしてその可能性が高いかと」
最悪の予想が当たったことに、昼間だというのに周囲が暗くなったような気がした。心臓が嫌な音を立てているのも気のせいじゃないだろう。
「オ、オーリー様はご無事なの?!」
直ぐにでも駆け出しそうになった私を止めたのは、ジョエルとエリーだった。
「アン、落ち着いて!」
「でも!」
「俺らが行ったって止められるだけだって!」
ジョエルのあまりにも大きな声にびっくりしたせいか、ちょっと落ち着いた、かもしれない。
「とにかく続きを聞こう」
ジョエルにそう言われて、私は目の前のお祖父様の部下が困惑した表情でいるのに気づいた。取り乱してしまった自分が急に恥ずかしくなった……
部下の話では一昨日、陛下たちの隊列が賊に襲われたという。詳細はわからないけれど、騎士が数人怪我をしたようだが要人に被害はなかったとも。箝口令が敷かれているので実際のところはわからないが、騎士たちの様子から賊の一部は捕らえられたらしく厳重に警備されているという。
「そう……へ、陛下たちは、ご無事なのね?」
「断定は出来ませんが、恐らくは」
「……」
部下が断定してくれないことがもどかしかった。オーリー様は無事だと信じたい。本当はこの目で確かめたいけれど……こうなっては近づくこともままならないだろう。下手に近づけば仲間だと疑われるとジョエルに言われれば、どうしようもない。こっそり忍んでいこうかと思ったけれど、それをすればかえってオーリー様の迷惑になると言われると釘を刺されてしまった。
結局、私に出来る事は何もなく、だったら先に王都に着いてオーリー様達を待った方がいいと言われると反論も出来ず、早々に王都に向かった。道中は何を見ても何を聞いても心が動かず、感情が枯れてしまったような気がした。
王都に着いたのは三日後だった。少しでも近くにいたいと思ったので、お祖父様の部下からオーリー様たちの居場所を聞いて、その後は一定の距離を保つようにしたからだ。
「アンジェ、無事でよかったわ!」
「アデル様、ご心配をおかけして申し訳ありません」
「いいのよ。無事に帰ってきてくれただけで十分だわ。でないとジゼルに叱られちゃうもの」
出迎えてくれたアデル様はホッとした表情を浮かべたあと、屈託のない笑顔を浮かべた。随分心配をかけてしまったらしい。
「よかったわ。陛下の一行が襲われたと知らせがあったから……」
「やっぱりそうだったのですね!」
「ええ。フェリシテから連絡があったわ」
「どんな内容だったのですか? 陛下は? オーリー様は?」
「ああ、落ち着いて、アンジェ。順を追って話すから」
そう言うとアデル様は、まずは湯あみをしてからね、と言って侍女を呼んでしまったので、私は自室に戻って湯あみをした。ようやく人心地ついたところでアデル様のサロンに呼ばれた。そこでアデル様は王妃様から聞いた話を教えてくれた。勿論他言無用との約束で。
王妃様からの連絡によると、陛下たちは出発して五日目、森沿いの街道で襲撃を受けたという。幸いにも騎士たちの活躍や結界で事なきを得て、襲撃犯も一人を除いて捕縛できたという。ただ、騎士にも数名の負傷者が出たらしい。
「それでも陛下やオードリックに怪我はなかったそうよ」
「そう、ですか……」
それを聞いて一気に身体から力が抜けるような気がした。その一言をどれほど望んでいただろう。アデル様が言うには、一団は明日には王都に着くという。
(ご無事、だったんだ……それに、明日には王都に……)
それがわかっただけで、空っぽだった心に何かが満ちていくような気がした。明日到着するということは、王都のすぐそばまでいらっしゃっているのだろう。そこからなら街道も広く整備されているし、襲撃されるような森もない。一日千秋の思いでオーリー様のお戻りを待った。




