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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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父息子の再会

 オーリー様が陛下の影武者になると言い出して、私は驚くばかりだった。そもそも陛下がそんな案を受け入れられるだろうか。


「私は変装が得意だし、父上のことは子供の頃から側で見ていたから、父上の仕草などもある程度は真似出来る。だから、私が父上の身代わりになって、父上はアンジェと一緒にリファール家の馬車で王都を目指して貰おうかと思っているんだ」

「うちの馬車で?」


 確かにオーリー様なら陛下の影武者も出来るだろう。でも、うちのあの小さな馬車で陛下を王都までお送りするなんて……近いならともかく十日はかかる距離だ。さすがに無理があるだろう。


「今、父上に何かあっては困るんだ。ルシアンは王太子教育もまだ終わっていないだろう。それに後継はまだ乳飲み子の王子一人だ。グレース妃の実家の力も強くないし、今もベルクール公爵の力が強い。現時点で父上を失うのはとても危険なんだ」


 確かにルシアン様は王太子になって六年目だ。王太子として、次期国王としての教育が終わったとは言い難い。陛下に付いて公務に出られるようになって日も浅いし、確かに今陛下に何かあったら国内は非常に不安定になるだろう。ルシアン様のお優しい気性ではベルクール公爵に付け込まれる可能性も十分にある。


「ですが、それじゃオーリー様は……」

「私が父上の影武者になっても自分の身は守れるよ。結界もあるしね。むしろ私を父上だと思って襲ってくれた方が都合はいいかもしれない。私なら結界で防ぐことも出来るし、犯人を拘束する事も出来るからね」


 確かに結界魔術があれば、襲撃が成功する可能性は限りなく低いだろう。オーリー様の力なら隊列まとめて結界で包み込むのも問題ない。衆目がオーリー様扮する陛下に向かえば、その間に陛下は安全に王都に戻れるだろう。何なら襲撃犯を捕まえた後にオーリー様達と合流して戻ってきてもいいのだ。敵もさすがに二度目を想定してはいないだろうし。


「もし父上が私の案を受けて下さるのなら、アンジェは父上と共に王都に戻ってきてほしい。必要ならエストレ辺境伯に護衛と馬車を借りてもいいだろう。とにかく、父上には安全を最優先にして頂きたんだ」


 オーリー様の提案は確かに理に適っていた。この先には森が続くし、それでなくても襲撃されそうな場所はいくつもある。陛下の護衛が付いてはいるけれど、相手が周到に用意をしていて手練れの場合、こちらも無傷では済まないだろう。


「まぁ、これは最悪の事態に備えたものだけどね。実際には襲撃も簡単ではないだろう。アニエス殿も気づいておられるようだから、既に手を打っていると思うし」

「確かに、アニエス様なら既に手を打っていそうですわね」


 貴族にとって自領で王族が襲われたりしたら責任問題で、下手をすると首が飛ぶ。そのため王族が通過する際は最大限の警戒をするのが常だ。エストレ辺境伯家も今頃はピリピリしている筈。


「全ては明日、父上にお会いしてからだけどね。父上に一蹴されるかもしれないし」


 そう言ってオーリー様が苦笑を浮かべた。確かに王者たる者こそこそするなど言語道断!と言われて終わりになる可能性もある。だったらそれでいいだろう。ただ、オーリー様の毒のことは教えてほしいけれど。




 翌日、私たちは緊張の中で陛下の到着をお待ちした。私たちの滞在は伏せられているし、部屋も離れているから詳しい動きはわからなかった。

 そんな私たちが呼ばれたのは、既に夜も深まり始めた頃だった。


「オードリックか……」

「ご無沙汰しておりました、父上」


 約六年ぶりの父息子の対面は、殺風景な石造りの小部屋だった。私はオーリー様と一緒にアニエス様に案内されて部屋に入ったけれど、緊張し過ぎて意識が飛びそうだった。これまで遠くからお姿を拝見する事はあったけれど、こんなに近くでお会いするのは初めてなのだ。

 緊張して胃が痛くなりそうな私の前で、お二人の話し合いは淡々と進んでいった。にこりともしないお二人の間には痛いくらいの緊張感が漂い、呼吸の音すらも憚られる気がした。


「……なるほどな。確かにお前の言うことも一理あるな」

「では」

「そうだな。いいだろう。わしも馬車の旅は飽きてきたしな」

「父上……飽きたとか言う問題では……」

「そう言うな。ずっと座りっぱなしは年寄りには中々きついんだぞ」


 陛下は最後にそう言ってお笑いになり、オーリー様はそんな陛下に目を丸くしていた。まさかこんな朗らかな言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。


「いいだろう、わしの代わりを務めよ。そして無事に王宮に戻って来い。これは命令だ」

「御意」


 こうしてオーリー様の提案は採用されることになった。詳細はアニエス様も交えてこれから詰めるのだという。もう夜も遅いからと、私はその時点で部屋に戻るように促されてしまった。




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