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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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国境まであと一日

 国王陛下を国境で出迎えるために出発した私たちの旅は順調に進んだ。オーリー様が認識誤認の結界を張ってくれたので、周囲から認識すらされなかったのもある。オーリー様の体調を気遣いながら、同時に余裕をもって着くよう粛々と進んだ。

 私たちは交代で馬に乗って国境を目指した。護衛は馬車に乗るのを固辞したけど、少数精鋭なのだ。疲労でいざという時に彼らが力を発揮出来ないのは困るし、私たちも鍛錬の一環だと言えば、彼らはそれ以上固辞出来なかった。


「ルイ、大丈夫ですか?」


 馬車の中から馬に乗るオーリー様に小声で声をかけた。既に一刻以上経っているので、そろそろ馬車で休んだ方がいいだろうと思ったからだ。


「ああ、そうだね。でも、もう少しで宿だろう? そこまではこのまま行かせて欲しいな」

「そうですか。でも、無理はしないで下さいね」

「わかったよ。アンジェは心配性だなぁ」


 そう言ってオーリー様が苦笑したけれど、そう言いながら無理をするのだ、この人は。今回はエドガール様が同行しなかったから、オーリー様を注意深く見ている人がいない。こんなことになるなら同行して貰った方がよかったかとも思うけど今更だ。

 一応ジョエルにはその辺をお願いしているけれど、エドガール様ほど親身になってはくれない。まぁ、何だかんだ言ってジョエルも面倒見がいいから、何かあったらすぐに教えてくれるだろうけど。


 出発してから十日目、私たちは国境に最も近い村の宿屋にいた。明日には国境に着くだろう。昨日は野宿だったから湯あみが出来てベッドで眠れるのは有難かった。疲労の取れ具合は格段に違うから。

 部屋で簡単に湯あみを済ませると、オーリー様の様子を確かめるために部屋に向かった。


「ルイ、お疲れではありませんか?」

「ああ、大丈夫だよ。むしろ程よい疲労感でよく眠れそうだ」


 思ったよりも疲れを感じていない様子に見えた。油断は出来ないけど。それでもこの十日余りの様子を見ていると、毒の影響はないように感じた。体力がまだないから疲れやすいだけで、それも鍛錬を続ければ大丈夫に思える。


「明日は国境ですね。陛下は昨日にはリードホルムの王都を出られたでしょうか」

「ああ。明日国境に行けばそれもわかるだろう。国境を守る部隊には連絡が行く筈だから」


 陛下が予定通り出発されれば、早ければ明後日には国境を超える。一日早く国境に着けば確実にお会い出来るだろう。


「緊張、されていますか?」


 昨日あたりから時折表情を固くして考え込んでいる姿を見かけるようになった。最後にお会いしてから五年半以上は経っているだろうし、別れた経緯が経緯なだけにいざ会おうとなると思うところもあるだろう。


「緊張しない、とは……いや、緊張しているんだろうな。落ち着かないし、昨日もあまり眠れなかったから」

「そうですか」


 やっぱり不安があるのだろう。でも仕方がないのかもしれない。親子だけど普通の親子ではないのだから。親子の情よりも国政を優先しなければならない立場なのだから。その心情がどのようなものか、私にはよくわからない。私も普通の親子ではなかったから、普通がわからないのもある。


「毒のことも聞きたいし、陛下が私に何を求めているのか、その真意も知りたいと思っている」

「陛下の真意、ですか」

「ああ。私はこの通りやってはいけない事をした。そんな私を生かしたからには、陛下にも思惑がおありだろう。せめてもの償いとして、陛下が望まれることを成し遂げたいと今は思う。それがルシーのためになるなら尚更だ」


 オーリー様が心配していたのは、実弟のルシアン様とそのご家族のことだった。彼のせいで人生が狂った王太子ご家族。本来ならオーリー様のスペアとして、オーリー様に王子が二人生まれたら臣籍降下して公爵になる筈だった。それがあの一件でひっくり返ってしまったのだ。グレース様にとっても王子妃から王太子妃、いずれは王妃という地位は、万が一程度のものだったろう。野心も薄く穏やかで慎ましいお二人にとって、今の地位は重すぎるかもしれない。


「……起きたことは今更なかったことにはなりません。でも、ルイ様が出来る事はいくらでもありますわ」

「そう、だね。私もそう願っているよ。愚かな廃太子のまま人生を終わらせたくないと、最近はそう思うようになったしね」

「それはご立派なお心がけだと思います」

「アンジェのためにも、頑張らないとね」

「え?」


 そう言われて何故か胸が跳ねたような気がした。


「私を受け入れてくれたアンジェにも、リファール辺境伯家の皆にも、感謝しかないよ。その恩に報いるためにも、一日も早く汚名をそそぎたいな」


 そう続けられて、何故か落胆している自分がいた。ありがとうございます、と答えるとオーリー様がまだまだだけどねと言って眉を下げたけれど……私の心にはモヤっとしたものが残った。


 




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