見た目詐欺?
「勿論よ。だって王命だもの」
ジョエルの苛つきを露わにした問いかけに、私はそう答えた。王命を撥ねつける力は私にはないし、お祖母様たちに無理はさせられない。
「けど、お、お前はいいのかよ。そんな男と……」
「よくなんかないけど、しょうがないわ。貴族なんだから政略は当然だし」
「そりゃ、そう、だけど……」
珍しくエリーよりもジョエルが私を心配する言葉をくれて何だか嬉しくなった。いつもは憎まれ口か皮肉ばっかりなのに。
「それに、オードリック様は結界魔術が得意なの。彼がいれば騎士たちの被害も抑えられるわ。それに王太子していたくらいなんだから、ここの財政難も何とかしてくれるんじゃないかしら」
そう、辺境は常に隣国と小競り合いがあるから軍備にお金がかかるし、これと言った特産物もないから税収が少ない。それでも街道の整備やら災害やらでお金はかかる。要は常に金欠なのだ。
「お祖母様もずっと軍費を増やせと王家に掛け合ってくれて、それで随分マシになったと聞くわ。でも、まだまだ十分とは言えないし、お祖母様がいなくなったらまた元に戻されるかもしれないでしょ?」
「じゃ、廃太子は……」
「幸いにも王籍からは抜かれていないから一応王子でしょ? だったら最大限利用させて貰おうかな、って」
「アン、い、一応王子なのよ?」
「わかってるわ。でも、何の実績もない王子なんてその辺の石ころより使えないじゃない。幸いお祖母様はこっち側なんだから、こき使ってあげようかなぁ、って。お祖母様がいれば文句は言えないでしょ?」
いつもお祖母様が「王家は当てにならない、使えない」と言っているのを聞いて育った私には、王家を敬う気持ちが育たなかった。オードリック様の件も大きく影響しただろう。あの時私は王都にいて、学園はその話でもちきりだったから。
「……お前、笑顔が黒いぞ」
「なによ。文句があるならあの父親に言ってよ」
「お前って、ほんと見た目詐欺だな」
「誉め言葉と受け取っておくわ」
そう、私は性格が悪い。きっと凄く。それは自覚しているし、否定する気もない。父にいない者とされて過ごした日々は、私の性格形成に大きく影響していた。お陰で猜疑心が強くて超現実主義で、口が悪い私が出来上がった。
一方で母譲りの曇りのない真っ直ぐなピンクの髪に金の瞳と白い肌、父譲りの楚々とした顔立ちのせいで、ぱっと見は嫋やかな美少女に見える、らしい。この外見にチヤホヤする人も少なくないけど、そういう人は信用しないし嫌いだ。見た目だけが好きだと言ってくる人の方がまだ信用出来る、と思っている。
ついでに言えば、恋だの愛だのなんて糞くらえだと思っている。愛のために~なんて言って信用を失うような行動をする人間は全く信用出来ないし、親しくなろうとも思わない。そういう理由で父やオードリック様は私からすると異世界の人間くらい理解し難い。多分、理解しようとしても無理なんじゃないかと思うし、そんなことに時間と労力をかけるのは無駄だと思っている。
何よりも大事なのはお金と知識、そして本当に信用出来る相手だ。お金はいくらあっても困らないし、得た知識は奪われることはない。人を信じるのは怖いけど、お祖父様やお祖母様、エリーやジョエル、あと屋敷の使用人や辺境騎士団で仲良くしている人たちは信じられる、と思う。
「……なんか、廃太子が気の毒になって来た……」
「どういう意味よ?」
「だってお前、絶対にこき使う気だろう?」
「当り前じゃない。王族なんて税金で暮らしているのよ? なのにろくな成果もあげずに色恋に現を抜かしたんだから、これまでの分もまとめて働いて貰うわよ」
「怖ぇ……それを知ったら王家も考え直すだろうに……」
「知らないわよ。あっちが一方的に送り付けてきたんだから」
「そりゃあ、そうだけど……」
「せっかくただでこき使えて結界魔術が使える貴重な人材、逃す気はないわ」
「でも廃太子って、ジゼル様にとっては身内だろうに」
「お祖母様はろくに会ったこともない又甥なんて他人も同然と仰っていたわ」
「……容赦ねぇなぁ……」
ジョエルがオードリック様に同情し始めたけど、学園卒業後は療養と称して働きもせず、いい暮らしを甘受していたオードリック様に同情しようなんて思えなかった。その間だって多くの民が戦争や魔獣、災害で亡くなっているのだ。彼が魅了なんかにかからずに王太子としての責務を果たしていたら、救える命だってあった筈。そう思うと同情する気にもなれなかった。