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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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王妃様との面会

 王都に着いた私たちは、陛下にお会いしようと考えたけれど、それは簡単ではなかった。というのも陛下は現在、隣国を訪問されているからだ。これは隣国の王が在位二十年を記念した式典に出席するためで、出ない選択肢はないという。


「陛下が戻るのは、早くても半月後だそうよ」


 陛下の予定をアデル様が王宮に問い合わせてくださったけれど、これでは帰国直後は公務も山積みだろう。そうなると会えるのは更に後になりそうだった。


「フェリシテなら……お茶に誘えば来ると思うわよ」


 アデル様が提案したのは王妃様との面会だった。王妃様は数年前に腰を痛め、長距離の馬車の移動が難しいので今回は同行されていない。そんな事情もあって公務も減らしているため、時間的な余裕もあるだろうと言った。


「母上ですか……」


 オーリー様が少し戸惑う様子を見せた。療養に入ってからはどなたともお会いしていないと聞いていたから、いざ会うとなると気が引けるのかもしれない。


「そう、ですね。母上なら……」


 それでも、事実が知りたい気持ちの方が勝ったようで、王妃様との面会を望まれた。早速打診してみるわとアデル様が侍女に指示をした。聞けば王妃様は時々ここを訪れてお茶をしているのだという。



 アデル様のお誘いに、王妃様は直ぐにお応えになり、二日後にはお茶会の運びとなった。早すぎる展開に、オーリー様が戸惑っていた。心の準備が……と言っていたので、かなり緊張されているのだろう。

 お茶会は応接室で行うことになった。普段は庭で花を眺めながらになるのだけど、今回は人に見られたり聞かれたりしてはマズいからだ。オーリー様の存在は極秘なので、アデル様が信用している使用人を特に厳選していた。


「お義母様、ごきげんよう」

「お久しぶりね、フェリシテ」


 現れたのは、嫋やかで百合の花のような美女だった。艶やかな栗色の髪が柔らかいウェーブを描き、瞳は深い緑色だった。色的にオーリー様は完全に父親似だった。それはルシアン様も同じで、王家の色をお二人は完全に引き継いでいるのだな、と思った。それでもオーリー様の顔立ちは王妃様似なのだろう。


 歓談は和やかに進み、私はお祖母様の孫として王妃様に紹介された。王妃様はお祖母様に憧れていたのだと言って、私に好意的に接してくれた。私の後ろには、オーリー様が護衛兼従者として立っていたけれど、王妃様はそれには気付かなかった、と思う。


「ふふ、フェリシテ。ちょっと内緒話をしたいのだけど……」

「まぁ、何かしら? わかりましたわ。皆、暫く席を外してね」


 にこやかに王妃様がそう言うと、侍女と護衛が静かに部屋を出ていった。


「ルイ、遮音の結界を」

「はい」


 アデル様の要請にオーリー様が応え、直ぐに結界を張った。


「さぁ、これで大丈夫ね」

「お義母様ったら、随分と念入りですのね」

「そうね。フェリシテに会わせたい子がいるのよ」

「私に?」

「ええ。ルイ」

「はい」


 アデル様の呼びかけを受けて、オーリー様が変装の術を解き、眼鏡をはずした。


「オ、オードリッ、ク……」


 目の前に現れた実の息子に、王妃様が両手を口元で合わせて声を震わせた。五年も会わずにいた息子との再会、しかも突然なのだ。驚いても仕方がないだろう。


「あなた……いつの間に……」

「ジゼルが私の元に寄こしたのよ。あなたに聞きたい事があるそうよ」

「ジゼル様が……そう……ああ、もっと顔をよく見せて」


 王妃様がそう言うと、オーリー様が王妃様の前まで歩み寄り、片膝をついて王妃様を見上げた。その途端……


 バッチーン!


 室内に乾いた音が響いた。王妃様が……オーリー様に平手打ちしたのだ。クリーンヒットした証拠に、オーリー様の頬にはしっかりと手の跡が赤く付いていた。


「は、母上……」

「こんの……馬鹿息子がぁ! どれだけ心配したと思っているのよ! この五年間、手紙も寄こさずに……!」


 王妃様の剣幕は想像以上だった。お優しそうな外見からは想像出来ない激しい一面に、すっかり呑まれてしまった。


「何とか言いなさいな! 全くこの腑抜けが! ああもう、腹が立つわ! もう一発殴らせなさい!」

「まぁまぁ、フェリシテ。落ち着いて。アンジェがびっくりしているわ」


 アデル様がにこにこしながら二人を眺めていた。何だか慣れているようにも見えるけど、もしかしてこれが普通だったのだろうか……そしてアデル様、こんな時に私の名を出すのは勘弁してください……


「あ、あら……ごめんなさい、私ったら……」


 そう言って王妃様が誤魔化すように笑ったけれど、私も大丈夫ですと言って笑い返すしか出来なかった。王家は華やかに見えて中身はスパルタだったらしい。


「はぁ……オードリックが来るとわかっていたら、ルシアンも連れて来たのに……」


 ソファに座り直して王妃様がそう言った。


「ルシアンは……元気ですか?」

「元気? そうねぇ。毎日毎日王太子教育と公務に明け暮れているわ。誰かさんが敵前逃亡したせいで、この五年間で随分老けたわね……」


 老けたって、ルシアン様はオーリー様と二つしか違わなかったはずだけど……それとも、それでも老けたと目に見えるほどに苦労なさっているのだろうか。チラとオーリー様を見ると。表情を強張らせていた。弁明のしようもないだけに、返す言葉が見つからなかったのかもしれない。






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