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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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発つ者と着く者

 翌朝、マティアス様は王都に向かって発つと言うので、昨夜は帰ってきたお祖父様も加わって遅くまで話し合いが続いた。深入りするとこちらも公爵に睨まれるのでは? とも思ったけれど、祖父母はオーリー様がここにいる時点で睨まれたも同然で、だったら迎え撃つくらいの心構えと準備が必要なのだと言った。相手はこちらを潰すことに躊躇しないのだから、こちらも遠慮する必要はない、と。


「アンジェリク様、お願いがあるのですが……」


 出立前にエマ様が非常に申し訳なさそうに話しかけてきた。何かと思ったらマティアス様の怪我を治して欲しいと言う。マティアス様は子供の頃からベルクール公爵に躾と称した虐待同然の体罰を受けていて、あちこちに怪我の後遺症を抱えているのだと言う。


「さすがに古い傷の完治は難しいですよ?」

「それでも構いません。厚かましいとは思いますが、兄を一人で戻すのは心配で……」


 エマ様は異母兄のマティアス様が心配で仕方ないらしい。でも自分が一緒に戻っても足手纏いにしかならないと、戻ることも出来ないジレンマもあって、だったらせめて……と思ったらしい。

 彼女の真剣に兄を案じる気持ちが伝わって来たので、出立前に治癒魔術を掛ける時間を取って貰った。確かに腕などに古い傷跡がたくさん残っていて、彼の境遇の一遍が見えた気がした。

 最初は固辞していたマティアス様だったけれど、これから単身王都で公爵の身辺を探ると言う難行に挑むのだ。少しでもいい状態で臨んだ方がいいだろう。それでも相手の尻尾を掴むのは容易ではないかもしれないけど。


「ありがとうございます……お陰様でかなり楽になりました」

「魔術が馴染むまで二、三日はかかります。その間は無理をしないで下さい」


 侯爵家にもお抱えの魔術師がいるだろうに、彼は治癒魔術を使ったことはなかったという。流した魔力の量から、かなりの傷があったのを感じた。あのままでは馬車での旅も厳しかっただろうから、出立前にエマ様が教えてくれてよかったと思った。

 王都までは馬車で十日ほどかかるけれど、無事の到着を願うしかない。私たちは共闘する間柄になったのだ。ベルクール公爵の暴走を止める有力なカードにもなり得る彼には頑張って欲しいと思う。


 マティアス様が去った後、エマ様は我が家の離れに移った。ここは客人の長期滞在用の建物だけど、それもあって警備がしやすい。一方で外との連絡は取りにくく出来ているから、仮にエマ様がスパイでも被害は抑えられるだろうとお祖父様が言った。実際、彼らの言葉をどこまで信じていいのかについては疑問が残る。それでも突っぱねたところで我が家にメリットがないので、様子を見ながら共闘の道を探ることになりそうだった。




 それから五日後、ブノワ殿が屋敷に到着した。孫のソフィアさんも一緒で、苦々しい表情の祖父と目をキラキラ輝かせた孫娘の対比が際立っていた。


「おお、ブノワ、よく来たな」

「師匠……」


 ルイス先生の出迎えに、ブノワ殿は苦みのある笑みを浮かべた。今日はブノワ殿の到着に合わせて、ルイス先生とドイル先生も我が家に来て下さっていたのだ。早速オーリー様の部屋に集まって、話し合いの場が持たれた。


「カフの葉とリギルの実ですか……」


 ルイス先生は万が一に備えて手紙には詳細を書かなかったから、また一からの説明になったけれど、王宮薬師をしていたブノワ殿は先生の説明を聞くと腕を組んで考え込んでしまった。私ははやる心を抑えながら彼の返事を待った。完全でなくてもいいけど、少しでも今よりもいい状態に戻れないかと思う。子どものこともあるし。


「そう、ですね」


 皆が息をひそめて彼の答えを待っている中、暫く思考に沈み込んだ彼が目を開けた。その表情には、先ほどまで常に纏っていたやる気のなさがすっかり消えていた。


「昔、他国の文献を読んだ時、カフの葉とリギルの実が使われている薬の記載がありました」

「なんと」

「実際にはそれにベイルの根を混ぜたものですが……」

「ベイルの根、じゃと?」

「はい。この三つを混ぜて飲むと、毒消しになるというものでした」

「毒けしじゃと? じゃが、ベイルの根は……」

「はい。ベイルの根は大量に摂ると心臓に負担をかけます。ですが、他の薬と一緒にすることで別の効果をもたらすそうです」

「それは、そうだが……」


 薬のことは全くわからないけれど、ルイス先生は何か思うところがおありらしい。しかし、三つの物を混ぜて別の効果が出来るなんて、薬は思った以上に奥が深いらしい。


「では、ベイルの根を加えて毒消しにすれば……」

「そうですね。これを処方しているのがランドンなら、何か意図を持っていたのでしょう。ルイス先生、この薬の処方箋などありますか?」

「正式ではないが、ランドンの手紙に書かれている数字にその可能性があるのではと考えている」

「では、その手紙を拝見しても?」

「うむ。これじゃ」


 そう言ってルイス先生が懐から手紙の束を取り出した。それを受け取ったブノワ殿が目を通すと、乾いた笑みを浮かべた。


「ルイス先生、これなら思ったよりも早く解決しそうです」


 そう告げるブノワ殿の目には強い光があって、さっきまでとは別人のようだった。






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