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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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もう一つの毒

「な、何だよ……どうして毒を二種類も……」


 暫くの沈黙の後、唸るように呟いたのはやっぱりジョエルだった。でも毒を二種類も盛るなんて、普通は考えられない。相乗効果でどんな結果になるかわからないからだ。死ぬ可能性も格段に高まるだろう。


「何を盛られたか、本当のところは私にもわからない。最初の毒もそうなんだろうなと思うだけで、はっきり言われたわけじゃないからね」

「そんな……」

「わかっているのは、最初に飲んだ毒で倒れた後、三日間高熱に魘された。それが銀の涙なんだろうなということ」

「……」

「熱が下がってから、今度は滋養の薬だと言われて飲まされた何かで、また寝込んでしまった。今度は熱だけでは済まなかった。半年ほどはベッドから起き上がれず、立ち上がれるようになったのは一年後だった」


 聞いていた話とは全く違う内容に、背筋がじっとりと冷えていくような感覚を覚えた。廃嫡された王子や令息が銀の涙で子が出来ない様にすることは聞いたことがある。それは無用な争いを避けるためで、これまでも当たり前のようにやられてきた事だ。ルシアン様を守るため、無用な政争を起こさないための処置だったのだろう。だけど、二種類の毒を飲ませるなんて普通はあり得なかった。


「二つの毒を飲んだことで、今後どれくらい生きられるのか、どんな後遺症が出るのか、全くわからないんだ。医師にも匙を投げられたしね。今は症状に対処する薬を飲んでいるけれど、正直言って効いているのかどうかもわからないんだ」


 穏やかにそう話すオーリー様の表情と、告げられた内容の乖離があまりにも過ぎて、夢物語を聞かされているような気分になった。ジョエルですら言葉が出てこないみたいだ。


「誰が何のために毒を盛ったのかはわからない。でも、ベルクール公爵家の関係者ではないと思う」


 確かに廃嫡直後に亡くなれば世間は処刑されたと思うだろうし、そうなればベルクール公爵とジョアンナ様のせいだと非難は彼らに向かっただろう。それくらいオーリー様は民に人気があったし、一方でベルクール公爵やジョアンナ様の評判はよくなかったからだ。


「王籍から抜くよう陛下に願い出たんだけど、それは却下されたんだ」

「でも、現状なら廃籍された方がいいのでは……」

「そう思うんだけどね。いっそ平民にして放逐してくれたらと何度も思ったけれど……多分、私にはまだ利用価値があると思われたんだろう」

「それは……結界魔術を?」

「そうだろうね。自分で言うのもなんだけど、結界魔術では負けない自負はあるからね。ここに来たのも結界の修復のためなんだ」


 国境には結界を張って他国からの進攻を防いでいるけれど、この地に結界を張った魔術師は五年前に亡くなっていた。今はまだ魔力を流すことで維持出来ているけれど、少しずつほころび始めていた。


「それじゃ……」

「正直、どれくらい生きられるのかわからないけれど、最後の務めとして私が死んだ後でも維持出来る結界を張れというのが陛下のご命令だ」

「そんな……」


 世間話をするようにそう話すオーリー様に、どんな言葉をかけていいのかわからなかった。死が確実に見えているのに、どうしてそんなに落ち着いていられるのだろう。私より年上だとは言っても、まだ二十三歳なのに……


「アンジェ、お願いだからそんな顔をしないで」

「……でも……」

「これは私がやったことの報いなんだ。私が自分の立場も責任も忘れて逃げた結果だ。それくらいのことを、私はやったんだよ」


 確かにその通りかもしれないけれど、やったことへの罰が重すぎる気がした。そりゃあ、多方面に影響が出たのは確かだし、人生が狂ってしまった人もいるだろう。国として恥をかいたのは間違いないし、例えばエドガール様だって殿下の側近として華々しい人生が待っていただろう。そう思えば重すぎるとは言えないのだろうけど、それにしても……


「申し訳ないけれど、私とは子が出来ないだろうから結婚は形だけになってしまう。あなたはここの跡取りで、後継者は必須だろう? もしアンジェが想う相手がいるなら、その人と子を成して欲しい」

「……え?」

「相手には申し訳ないけれど、私との子として育てて貰うことになるだろう。私に子が出来ないことは公表されていないけれど、陛下は後継者の重要性を理解されているから、アンジェが産んだ子であれば後継者として認めると仰せだ。陛下も私の死後はアンジェが誰を婿に迎えてもいいと仰っている」

「……子を……」

「結婚する前からこんなことを言うのは非常識だけど、その見返りとしてリファール辺境伯家への援助は今後十年は五割増しにして下さるそうだ」

「……十年間、五割増し……」


 破格な申し出だったけれど、それは口止め料ということだろうか。色んな事実が一気に噴き出して、何から考えればいいのか、見当もつかなかった。





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