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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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婚約者の異変

 ベルクール公爵家の令嬢をミアと呼んだオーリー様は、ただならぬ様子でその場に佇んでいた。彼がミアと呼ぶのは、あのミア=ロッセル嬢のことだろうか。オーリー様を魅了で誘惑し、最期は自死を遂げたという……


「オーリー様?」


 驚きを通り越して信じられないと全身で表現しているオーリー様に声をかけると、オーリー様の身体がびくっと反応した。それでも、彼の視線はエリアーヌ様から離れることはなかった。それと同時に、どこかで嗅いだような甘ったるい香りが漂ってきた。


「これはこれはオードリック様。お元気そうで何よりです」


 尋常でない様子のオーリー様に声をかけたのは、マティアス様だった。にこやかな表情がオーリー様とは対照的で、彼の変化に無頓着な姿に違和感が湧いた。


「あ、ああ……マティアス殿か……」

「ご紹介しましょう。私の下の妹のエリアーヌにございます」

「……だ、第一王子殿下にご挨拶申し上げます。ベルクール公爵家が娘、エリアーヌにございます」


 マティアス様が紹介すると、続けてエリアーヌ様が挨拶をした。何だろう、公爵令嬢というにはぎこちない挨拶が一層不信感を募らせた。


「妹……」


 そんな彼らに対して、オーリー様もまだ衝撃から覚めない様子だった。エリアーヌ様をじっと見つめている。


「オードリック様も驚かれましたか」

「私もとは? 一体……」

「実は、エリアーヌはミアという少女に似ているらしくて……あちこちで同じような反応を受けているのですよ」

「……」


 やれやれといった風にマティアス様がそう言った。オーリー様は相変わらず衝撃の中にいるようで、似ているもんじゃない……と呟くのが聞こえた。私は面識がなかったからその違いが判らないけれど、似ているというのがオーリー様だけではないのなら、確かに似ているのだろう。もう一度エリアーヌ様に視線を向けたけれど、可憐で庇護欲をそそる姿はミレイユに似たタイプかもしれない。


 その後もオーリー様は心ここにあらずで、最期までエリアーヌ様に視線を向けていた。彼らしくないその姿は違和感が大きかったけれど、一方でそんなオーリー様に平然としているマティアス様も同じくらい異質に感じた。あれはオーリー様が動揺している様を楽しんでいる様にしか見えない。王族に対しての態度ではないだろう。そりゃあ、あの婚約破棄騒動で一番割を食ったのはベルクール公爵家だし、そんな彼らがオーリー様を疎ましく思うのは仕方がない。でも、だったら尚のこと、何をしに来たのかと不信感が募った。




 彼らが帰った後、私はお祖父様とお祖母様とサロンで話をしていた。オーリー様は彼らが帰るとすぐに部屋に引っ込んでしまわれた。よほどお疲れだったのだろう。顔色も悪かったし、ミアに似ているというエリアーヌ様に過去の記憶が再び呼び戻されてしまったのかもしれない。

 先日はミア様が使っていた香りと似た香油に反応して、急に倒れられてしまった。まだまだ後遺症に囚われたままなのだろう。


「オードリック様に全く好意的ではなかったな」

「そうね。まるであの子が苦しんでいるのを楽しんでいるようにも見えたわ」


 二人の見解は私のそれと同じだった。エリアーヌ様はともかく、マティアス様はあの後も気遣いなど欠片もない言動を繰り返し、オーリー様を甚振っている様にすら見えた。その態度の中には我が家を下に見るようなものも含まれていて、驕って見えるその姿は父のベルクール公爵によく似ていた。


「あの青二才が、随分と舐めた真似をしてくれたわね」

「オードリック様が反論しないのをいいことに、言いたい放題だったな」

「あの二人は何をしに来たのでしょう?」


 見舞いというにはあまりにも酷い態度だった。オーリー様の良心に針を刺すのを楽しんでいるようにも見えた。お祖母様を時々見ていたから、お祖母様の反応を確かめながらやり過ぎないように言葉を選んでいたのだろう。お祖母さまのことだから、最初は相手の出方を見るべく何も言わず好きにさせていたのだろうけど。

 一方のエリアーヌ様は始終オドオドとしながらも、オーリー様を熱心に見ていた。その様子は初対面のそれにしては恥じらいが感じられず、旧知の仲に見えた。


「今はまだ何とも言えないけれど、跡取りがオードリックを下に見ているのは間違いないわね。それに我が家も、ね」


 お祖母様の言うことに反論出来る要素はなかった。確かにマティアス様は柔らかい態度を保ちながらもどこか驕慢で、我が家に対しても格下に見ているのは間違いないだろう。


「爵位も継いでいないのに、私たちと対等なつもりだなんて。随分と躾がなっていないのは確かね」


 お祖母様がかなり怒りを溜め込んでいるのを感じた。何事もなければいいのだけど……まだ本調子ではないオーリー様のこともあって、そう願わずにはいられなかった。





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