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廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました  作者: 灰銀猫


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突撃後、自爆?

 雨が中々止まないため、父たちの出発も延び延びになっていた。鬼の峠はその名の通り道が悪く、雨が降るとぬかるんで馬車が転倒する危険がある。そうなれば騎士たちが救助に向かわなければならないけど、それだって危険なのだ。お祖父様は父たちのために騎士を危険な目に遭わせるのを良しとせず、無理やり追い出すこともしなかった。


「屋敷は落ち着きませんし、街の図書館に行ってみませんか?」


 父たちが同じ屋敷にいるストレスを感じた私は、オーリー様を街の図書館に誘った。ここは数代前の当主が領民のために建てた図書館で、歴代の当主が定期的に本を寄贈している。屋敷にない本もたくさんあるので、私もよく訪れていた。


「街の図書館ですか。いいですね」


 オーリー様も庭に出られない閉塞感を持っていたのか、あっさり了承した。意外にもエドガール様も賛成で、あっという間に出かける準備が整っていた。


「ほぉ……これは素晴らしいですね」


 図書館の蔵書を見上げながらオーリー様が呟いた。書物は高価だから王都でも図書館は大人気だった。こんな辺境では似つかわしくないかもしれないけれど、歴代の当主は領民の教育を重視していてここを解放していた。盗難などの問題もあるので貸出しはしていないけれど、ここで読むのは自由で読書スペースが広くとられている。

 私たちはそれぞれに気になる本を選び、同じテーブルで読書を楽しんだ。エドガール様は座学が苦手らしく、ジョエルと一緒に護衛業に徹していた。聞けば二人とも本を読むと眠くなってしまうらしい。二人は変なところで話が合い、意気投合していた。




 その後、街で人気のカフェでお茶をしてから屋敷に帰ると、父と連れ子が待ち構えていた。どこからか私たちが出かけた話を耳にしたらしい。


「オードリック様、この家の後継者のジェイドと申します。お会いしとうございました!」

「初めまして、ミレイユ=リファールでございます」


 部屋に向かう階段の踊り場で引き留められるとは思わなかった。いくら何でも王族相手に不敬ではないだろうか。オーリー様に視線を向けると、表情には出ていないけれど眉を顰めているのが目に入った。やはりこんなところで話しかけてくるなんてオーリー様に失礼だ。


「このような場所でお引止めするなど、非常識ではありませんか?」

「何だと?! 元はと言えばお前がオードリック様との顔合わせの場を作らないからではないか!」

「オードリック様がお望みではないのに?」

「え? い、いや、だが……」

「お義姉様、そんな意地悪を仰らないで!」


 甲高い声が響いた。連れ子の声を聞いたのは初めてかもしれない。今の会話のどこに意地悪な要素があったのだろう。理解不能だ。


「意地悪? オードリック様のご意向に沿うことが?」

「そ、それは……」

「それに、あなたに姉と呼ばれる謂われはありませんが?」

「そんな……ひ、酷い……!」

「アンジェ!」


 こんな時だけ名前を呼ばないで欲しいし、わざとらしく泣かれるのも鬱陶しかった。


「も、申し訳ございません、オードリック様。情のない娘で……」


 オーリー様に対して父がさらに意味不明なことを言い出した。この流れでどうして謝っているのかも理解し難い。謝るというなら自身の非常識な振る舞いが先だろうに。


「オードリック様、このような可愛げのない娘よりも、ミレイユはいかがでしょうか? 連れ子ではありますが、ずっと愛嬌があってお側に置けば癒されると思います。如何でしょう? 婚約者をミレイユに変更されては?」

「わ、私、一生懸命心を込めてお仕え致します!」


 階段の踊り場で実の娘を差し置いて連れ子を売り込む父親と、姉と呼ぶ相手の婚約者に自分を売り込む連れ子に、本当に頭が痛くなってきた気がした。しかも場所が場所だから無駄に響いているのだけど……客人がいない事を祈りたい。


「ジェイド卿といったか?」

「は、はい! 次期当主のジェイドでございます。王宮では文官としてお務めさせて頂いております」


 オーリー様が父の名を呼ぶと、パッと顔を輝かせて胸を張った。この状況でそんな態度がとれる感覚がわからない。


「そうか。では伺うが、私はいつ、貴殿に名を呼ぶ許可を与えたのだろう?」

「……は?」


 そう尋ねオーリー様に怒りなどの感情はなく、不思議そうな表情だった。父が目を見開いてオーリー様を見つめ、連れ子がそんな父を不安そうな表情で見上げていた。


「貴殿と会うのは、今日が初めてだったと思うのだが?」

「そ、それは……」

「それに、貴殿が再婚したという話もだ。辺境伯家の伴侶は王家が選ぶと記憶していたが……私が寝込んでいる間に変わったのだろうか?」


 真面目な表情でオーリー様が父にそう問うと、父が蒼白になって立ち尽くした。その様子に私は笑いをこらえるのに必死だった。だってこれ、オーリー様なりの意趣返しなのだから。父たちの思惑をわかった上で、真面目な表情でやっているのだ。あまりにも役者なその姿に、思いがけず好感度が上がってしまった。





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