第4話 異世界で初戦闘
ひゅるるるるるるるるぅぅぅ……バッシャーーーーーーン!!
女神によって雲海から落されたオレは、結構な時間をかけて地表に向かって落下し、そのまま滝ツボに突っ込んだ。
間欠泉の噴出並みに高い水しぶきが立つ。
ガボガボガボガボーー!!
オレは両手を必死に掻いて水面を目指した。
意外と深い。
だが、幸い空気は持ちそうだ。
体感でしかないが、オレは飛行機が飛んでいそうなレベルの高さから落ちた。
普通あれだけの高さから落ちたら、水面なんかコンクリートブロック並みに硬くなって、人なんか問答無用でミンチと化すだろう。
それでもオレが生きているのは、女神の加護か、あるいは魂の状態で落下して、水に突っ込んでから受肉したからなのか、どっちかなんだろうな。
「ぶはぁぁぁぁぁあ!! ……あ?」
浮かび上がってみると、すっぽんぽんの女の子がオレの目の前――滝の前の岩に座って、水浴びしていた。
キラキラ光る金色のストレートロングの髪。可愛らしく整った顔立ち。水を弾く、若々しく張りのある真っ白な身体。
出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んで、ケチのつけようがないほど美しい、スーパーセクシーボディだ。
おぉ! この子、五番目のモニターに映っていた子だ。
間近で見た感じ、十七、八歳って感じだが、つい見惚れてまうほど素でめちゃくちゃ可愛い。
女の子と、しばし目が合う。
女の子の口がゆっくり開き……叫んだ!
「後ろ!!」
「後ろ?」
けたたましい悲鳴を浴びせられるかと思いきや、注意喚起と来やがった。
何のこっちゃと振り返ると、全長五メートルはありそうな巨大な怪魚がオレを丸飲みにすべく、空中に舞っているところだった。
「だわぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
慌てて両手でガードするも、怪魚は猛烈なタックルと共に、サメを思わす鋭い歯でオレの両腕の肘から先を綺麗に食い千切って泳ぎ去った。
「がぁぁぁぁぁあ!!!!」
怪魚の体当たりのせいで水深深く追いやられたものの、命が惜しいオレは激痛を堪え、無い腕で水を掻き分けて岸を目指した。
水中にオレの血が大量に流れ、辺り一面真っ赤になる。
命がかかっているからか、両腕を失って動きずらい中、オレは必死に足を動かし陸を目指した。
徐々に足が水底につくと、それを励みに更に懸命に、陸に向かって身体を動かす。
だが同時に、後ろから先ほどの怪魚が高速で迫ってくる気配がする。
どう見てもオレを仕留めようとしている。
武器は? 何か武器は無いか? 反撃しないと一方的に食われるだけだぞ?
半分パニックになりながら、血眼になって岸の辺りを見回すオレの左手が、偶然自分の左腰に当たる。
銀髪ロリ女神に与えられた初期装備なのか、なんとオレは左腰に立派な大剣を佩いていた。
「何だこれ……」
だが、迷っている時間はない。
オレは左手で鞘を押さえ、右手で柄を掴むと、一気に剣を引き抜き、振り返りざまに怪魚に斬りつけた。
斬撃は見事に顔面にヒットし、斬られた怪魚も血を流しつつ一旦オレから離れる。
だが、ホっとするより困惑が先に立った。
千切り食われたはずの両腕が復活しているだって?
まだ筋肉や骨がむき出しだったが、見る間に骨が肉に覆われ、皮膚や爪まで綺麗に再生されていく。
なんと手相のシワや指紋まで端から綺麗に刻まれていきやがる。
その再現度に呆れ返るばかりだ。
この調子なら完全復活まであとほんの数分といったところだろう。
オレは銀髪ロリ女神のことを思いだした。
そうか。ひょっとしてこれが銀髪ロリ女神に授けられた超回復ってやつか。でも欠損部分が生えてくるって、凄い越えて気持ち悪ぅぅ!
「まだ来る! 油断しちゃ駄目!」
声と同時に真後ろから飛んできた燃え盛る炎弾が、怪魚の鱗に当たって跳ね返った。
牽制にはなったようだが、ダメージを与えられた様子はない。
声に振り返ると、慌てて最低限身につけたようで、さっきまですっぽんぽんだった子が下着姿になっている。
上下テラテラ光る、ピンク色のサテンのランジェリーだ。
ぶはっ! それ、大好物!!!!
さすがに敵の前でそれ以上着る余裕はなかったのだろうが、金髪洋物美少女が超絶セクシーなサテンの下着を着ているって、何のご褒美ですか!!
思わず噴いてしまった鼻血を右腕で拭いながら見ると、少女の構えている曲がりくねった木製の杖の先が発光している。
これが魔法なのか! 凄ぇ、初めて見たぜ。異世界きたって実感するな。
関心するオレを他所に、少女が新たにブツブツと呪文を唱え始めた。
先ほどの初歩的魔法では怪魚の硬い鱗には歯が立たないと悟ったのだろう。
魔法なんてものを初めて見るオレにさえ分かるほど、空気がビリビリ震え始めるのが分かる。
「三分持たせて! ソイツを倒してあげるから!」
「三分? ……そーりゃ厳しい注文だな!!」
オレはまたも近寄ってきた怪魚を渾身の力で斬りつけた。
食われた腕はもう指紋までしっかり復活しているが、結果は先ほどまでとほぼ同じ、今のオレの力では表面に傷を与えられる程度だ。
水はすでに腰の位置。
ある程度力のこもった斬撃を与えられるものの、怪魚の鱗が硬すぎてダメージと呼べるほどの傷にならないのだ。
散々格闘して、腕や脚をすれ違いざま食い千切られてボロ負け状態だが、超回復のお陰で動けている。
と、次の瞬間、ジャンプした怪魚がオレの頭の横を通りすぎた。
同時に首から噴水のように勢いよく血が噴きだす。
水面が物凄い勢いで真っ赤に染まっていく。
あ、やべ! 頸動脈食い千切られた!
さすがに血を一定以上失ったら、しばらく動けなくなりそうな気がする。
動けない状態でガツガツ食われるのはちょっと嫌だなぁ……。
結構深く抉られたようで、オレは首がぷらんぷらんするのを左手で押さえつつ、右手だけで大剣を構えた。
勝利を確信した怪魚が満身創痍のオレを一齧りにするべく一直線に突っ込んでくる。
「集まり来たりて爆散せよ! 地獄の業火!!」
どうやら約束の三分が経ったらしい。
オレを食らうべく再度ジャンプした怪魚は、横から飛んできた超高熱を発する炎の塊に飲まれ、大爆発を引き起こした。
それでオレはどうなったか。
炎の大爆発はオレの目の前、あまりにも近くで発動したため、見事にオレを巻き込んでくれた。
首の修復が間に合ったおかげで首と胴が泣き別れになることだけは避けられたものの、オレの両腕は再び吹っ飛ばされ、爆発の影響で左右両方の鼓膜を一瞬で破った。
身体の前面、特に顔なんて火傷だらけさ。
十分で完全復活したけどな。
ま、ピンク色のサテンのセクシーランジェリー姿でガッツポーズを取る金髪美少女の姿が見れただけでヨシとしよう。
「藤ヶ谷徹平」
「フィオナ=フロスト」
オレと金髪美少女はガッチリ握手をして、互いの健闘を称え合った。
こうしてオレの、異世界における初戦闘は無事、終了したのであった……。