91 ちょっとしたトラブル
翌朝、フランとライラはトイレに籠っていた。お腹を摩りながらリビングに戻ってくる。
「大丈夫?」
「大丈夫。慣れてるから」
「私もですわ」
原因はポーションのガブ飲みだ。強敵と戦った時はよくなるらしい。シオリはスキルの性質上なんともないようだ。リビングの日の当たりの良い所で丸まってスヤスヤと寝ている。
「病院に電話するよ」
俺なら簡単に治せる。だが急に体調が良くなるとシオリが怪しむ可能性がある。そこで医者を挟むことにより、急に治っても彼等に注目がいく。完璧な計画であった。
「嫌。医者にはなるべく頼らないようにしてるから」
「なんでぇ!!」
「そんなに驚かなくても……」
「キョウ。確かに医者は必要ですわ。でも、ダンジョンに彼等はいません。だから私たちは自身で治す、いわば自然治癒を鍛えてますの」
「な、なるほど……」
(確かにそこまで考えてなかった。ここは二人の意思を尊重しよう)
手を貸せないのは残念だ。でも流石は探索者だと思った。その時、シオリが眠りから目覚めた。
「近所の病院のお医者さん。若い女の人になってた」
「「「え……」」」
「え、なに? 残念そうだけど、それが狙いなの?」
「ちょっとお話がありますわ……」
「あ、いや、知らなかったけどォ」
「ぅっ……」
その時、二人は慌てて走り去る。静かになった時、シオリは付け加えた。
「外科のお医者さん」
まだ寝ぼけているらしい。
「……それを先に言ってくれれば」
その後、誤解は解けた。数時間経過したが相変わらず治らない。ライラは慌てて自宅に繋がるドアを開けようと走る。
しかし、その寸前で大きくバランスを崩しドアに頭から突撃し、盛大に突き破る。体を鍛えているので怪我はない。
腹部がドアと同じ位置にあった。そこから急いで脱出を試みようとした瞬間、魔力壁により体が固定された。
「なんですの!! これは防犯の!! なんでこんな時に!!」
ドアを無理やり突き破った事で防犯機能が働いたようだ。鍵を開けている時、通常はこの機能は発動しないように設計する。
きっとそれを取り付けた犯人は素人なのだろう。ライラは腹痛に耐えて助けを求める。現場にかけつけると上半身を突っ込んだライラがそこから抜け出そうと、必死に動いていた。
「ちょっとライラ……あんたなにしてるのよ。スカートめくれてるわよ」
「フラン、良いところに。引っ張ってもらえると助かりますわ。それと直して頂ければ……」
両腕を後ろに伸ばしたまま固定されている。腰から拳分二つくらい離れているので体に触れる事が出来ない。
フランは服装を整えた後にライラの腰付近を掴み、力いっぱい引っ張る。しかし、まったく動かせない。
(また誤動作したか。これはバグみたいなもの。この前シオリがやってたな。一度鍵をかけてまた開けると直ってた。やってみるか)
俺は鍵を探しにリビングに戻った。その頃フランは必死に力を込める。
「駄目。大きくて無理!! いや、そもそも魔力壁が完璧にフィットしてて隙間がない」
「誰のお尻が大きすぎて無理ですの!! 失礼ですわね」
「そ、そうは言ってないけど……それに引っかかってるのはお尻じゃなくて」
「あっ……まあ確かにフランなら引っかからずに抜け出せますわねっ」
「はぁ? 折角助けてあげてるのになんて事を……ッ」
フランが怒ってパシンとお尻を叩いた。
「ッ……なにしますの!! 今刺激されるとまずいですわ」
「謝ったら許してあげる。ほらほら!! いつまで持つかな!!」
「おやめなさい!! 本当に不味いですわ!!」
何度もペチペチと叩くとライラが音を上げた。その頃、キョウは散らかった机で鍵を探していた。
「分かった分かりましたわ。私が悪かったですの。フランは魅力的ですわっ」
「よろしい……でもこれ。魔力壁を壊すしかない気が」
「私がやると……加減を間違えて家が大惨事になりますわね。フランに任せますわ」
「分かった。じゃあ……ぅ……ちょっと待ってて」
「え? ちょっとフラン? 私の方が先ですわ。なんとか耐え……フラァン!!?」
しかし、既に居なかった。フランは走り去った。ライラはその間にも腹痛に耐えていた。
「やばいですわ。このままじゃ限界が……」
ヤバめの油汗が止まらない。そこでフランが戻っていた。
「きゅ、救世主ですわ」
「ふふ。仲間を見捨てるはずないじゃない。じゃあ行くよ」
期待していたのだが、魔力壁は凄まじい硬度でビクともしない。かなりお金をかけたようだ。
「そんなッ……なんで無駄に頑丈に作ってるのよっ」
そんな時、ライラが弱々しく言った。
「フラン……もういいですの……もう……」
「ちょっと駄目だって!! それをやると失うモノが多すぎる!! 一人じゃないのよ!!」
「最後のお願いですわ。床が汚れないように工夫を……誰に話しても構いませんが、キョウだけは見ないように遠ざけてくださいな……」
「あ、あんた……」
簡単に見つかるだろうと思っていたが、中々見つからない。バレてしまう危険を承知で魔法を使ってそれを探そうとした時、シオリが騒ぎを聞きつけてリビングに入ってきた。魔法の使用を止める。
(タイミングが悪い……色々とまずいぞ)
切羽詰まった状況。奥でライラの状態をチラリと見た後、シオリが机に近づく。そして、散らかった机に腕を伸ばすと鍵を一発で引き当てた。
「そんな近くに!!」
「灯台下暗し」
シオリが鍵を閉めて開けると魔力壁が解除された。その瞬間、ドアを適度に破壊しながらライラは自分の家に入っていった。
「危機一髪だったね……」
「だな。助かったよシオリ」
「お腹空いたー」
「……すぐに作るよ」
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。




