8 特訓の成果
レナとの待ち合わせの時間だ。テレビを消してダンジョンに入る。ここは竜の巣窟の一階層。入口付近。他の人の邪魔にならない場所で座禅を組んでいた。
「……早く来過ぎたか」
何度見ても時計が八時半を示していた。何人かに変な目で見られた。九時まで後三十分。魔物でも狩ろうかと立ち上がった時、挙動不審の女子が現れた。大きなリュックを担いでいた。長期戦をする気満々である。
「どうしよ、早く来過ぎちゃったかも……あっ。ごめん待った?」
「いやァあ。今来たところ」
少し照れくさかったが、改めて挨拶をかわした。
「ちょ、ちょっと早いけどいく?」
「うん。準備出来てるよ」
早速進もうと、彼女の前を歩く。
「ねぇギルティ」
「んー」
半分振り向いた時に気が付いた。振り向かず、そのまま大きく首を回して体をほぐす真似で完璧に誤魔化した。
「あー、良い朝だなぁー……」
「ねえねえ、ドラゴンスレイヤーってなに。67階層のドラゴンの事?」
「あれは蜥蜴ー……」
「あれは蜥蜴?」
「あ、いや!! ドラゴンスレイヤーは雰囲気だよっ。かっこいいでしょ!!」
ジーと見つめられたので根負けした。秘密にしてほしいこと、目立ちたくないことを伝えた。前世や憑依の事は言わずに事情を話す。
「良かったー。なんかスッキリしたよ」
「黙っててごめん」
「何で謝るの。凄い事だよ。気にしてないよ。それに私なんかのために……戦い方教えてくれるし? その、感謝してるっていうか……」
最後は少し口ごもって聞き取れなかった。
「あの、この事は……」
「大丈夫。絶対に秘密にする。二人だけの秘密だね」
約束を交わし、二十五階層へと進む。今日の大半はLV上げに使う。その後にソロでの戦い方を教える予定だ。戦闘の邪魔になるのでリュックは収納魔法に入れた。
お昼を軽く済ませると、もう一時間ほど狩り三階層に戻る。魔物を一体おびき寄せ、レナ一人で戦う。接近される前に風魔法を発動させる。
「<風刃>」
最初の頃に比べて早くなっている。何度も練習してきたのだろう。
「うん、いい感じ。次は逃げながら撃つ練習をしよう」
それを聞いて緊張していた。幾度も魔法を放った事により、体が覚えてきたはずだ。
意識しなくてもドアを開けたり、鍵を閉めたり。そういった習慣レベルまで落とし込むことで、発動が遅くても、多少体勢を崩しても魔法が使えるように訓練した。短期間で習得出来たのは、何度も復習をしたレナの努力も非常に大きい。
魔物と出会った瞬間に逃げ出す。追いかけるゴブリン。緊張した様子で振り返り、風の魔法を使う。風の刃を同時に二発撃つと一発を外した。もう一発は腹部に当たった。
「や、やった。出来た……やったよねッ。倒せたよっ」
「おめでとう!!」
「ありがとう。全部シデンのおかげだよ!!」
手を取ってブンブンと上下に大きく振る。とても嬉しそうだ。こっちまで嬉しくなる。手を握っている事にハッとして照れながら謝ってきた。
次はもっと強めの魔法を教えたりも良いかもしれない。成長が楽しみだ。
「あれ、もう夕方か」
「時間が経つの一瞬だったね。今日は帰ろうか」
「そうしよう」
また三日後に会う約束をして入口で解散した。それが当たり前になり、二週間が経過した。
探索者育成高等学校では学年別で定期的にLVを測る。今日は二年生の測定日。そして、F組の先生が口を開けていた。生徒もレナも口を開けていた。先生が計測器を何度も見直す。
「LVが……20?」
「あいつ前回はLV3だったよな?」
「え、どういうこと?」
「故障?」
どの計測器を使っても同じ結果。全員の調べたが全員前回と同じLV。故障ではないと結論付ける。
「既に探索者ランクC相当って事?」
「あいつが?」
「嘘だろ。あり得ねぇよ」
「3年生のA組でもLV13から18だろ?」
「次のクラス替え、A組確定かよ……」
その日からレナは人気者になった。どうやってLV上げたのか質問攻めだ。言いたくないので逃げる。次の時間は外で戦闘訓練。チャイムが鳴り、ギリギリの時間で出席する。
最初に戦闘の心得を説明すると自由時間になる。そこで急にLV上げたレナが気に喰わない女子連中が絡んできた。レナは無意識に怯えていた。日頃から嫌な目に合わされているのだろう。
「おい、ザコれなー。LV上げの狩場教えろよ」
「教えないって事はなんか不正してるんじゃないの?」
「えっ、そんな事は……」
「じゃあ早く教えろっての。またやられたいの?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「先生ェー!! れなと決闘させてくださーい」
「LVが本当か試したいでーす」
決闘という名の虐めだ。最初の一発で相手はダウンする。その後、決闘が長引くよう手加減し、一方的に攻撃を加える。やり慣れているためいつもの結果。無様に地面に転がるレナを想像をしながら、キャッキャッとはしゃいでいる。
授業中、窓から一年生がその様子を観察していた。キョウは魔法で会話を拾い聞いていた。レナの測定日が気になったので珍しく学校に居た。その気になれば魔法で覗けるが、出来るなら使いたくなかった。
(てかあの人なんで勝つ前提なんだろう?)
魔法使い同士の対決が始まった。先生が開始の合図をした瞬間、対戦相手の仲間が言う。
「ねぇれな。パンツ見えてるよ?」
「えっ」
思わず下を確認をしてしまった。しかしそれは嘘であった。対戦相手はニヤリと笑い、魔法を使う。
「相変わらず馬鹿ね!!」
(しまっ……やられるッ)
レナは驚いた。負けたと思ったが、勝負は終わっていなかったからだ。
「<ストーンクラッシュ>!!!」
地の魔法。小さな石がレナに向かってくる。しかし。
(えっ……手加減してくれた?)
「<アイスストーン>」
氷の礫が相手の魔法を相殺する。
「はぁ……なんで……何で間に合ってんだぁッ!!! ああッ!!?」
その反応で気が付いた。彼女が本気だった事に。強くなれた事を実感した。
(授業だからって油断してた。良かった。シデンに見られてたら恥ずかしかった……)
気持ちを切り替えて、攻撃をする。再び<アイスストーン>を使用する。相手が使う前に何度も放った。それは相手の顔の横を通り過ぎていく。
「はっ。下手くそが!! ぶっ殺してやる!!」
その時、先生から試合終了の合図があった。レナが勝利判定を貰った。
「はぁ? 先生何でですか!! 私はまだ一度も攻撃をッ」
「鈍いですね。後ろを見なさい」
急に何を言っているのだろうと思い振り向くと、氷の魔法が地面のほぼ一点に集まっていた。魔法を正確に操作をして、同じ位置に急降下させていた。
(まだまだね……シデンならもっと早く。もっと正確に狙ってた)
先生は事実を突きつける。
「風下君は本物だ。もしこれが実戦ならお前死んでたぞ。最初の不意打ちで勝てなかった時点で敗北宣言するべきだった。それが探索者の基本にして最大の極意だよ」
「っ……」
同時に歓声が上がる。男子が近づいてきてレナをパーティーに勧誘する。
「すげーよ!!」
「俺とパーティー組もうぜっ」
「馬鹿俺のところだ!!」
「ふざけんなよ。俺のジョブと相性が良いんだよ!!」
「いやー俺風下の事、前から良いと思ってたよっ。胸も尻も大きくて可愛いしっ、絶対に強くなるってねー」
レナにとってはどうでも良い賛美だった。散々酷い事をしておいて今更。都合の良い薄い言葉。セクハラにも内心イラっとした。
「ごめん無理。私はもうパーティーを組んでるので」
(く、組んでるでいいよね……どっちにしても彼等とは組みたくない)
「さ、三年生とか?」
「さあ、どうだろうね」
「さ、さあって……」
ふと校舎を見ると一年生が窓からこちらを見ていた。
(誰だろう。ずっとこっちを見てる?)
知らない人。しかし、悪い気はしなかった。軽く微笑むと慌てた様子で授業を聞き始めた。
(なんか既視感があるような反応……気のせい?)
誤字報告下さった方、ありがとうございます。親しい人かそうでないか、視点によって平仮名と片仮名を使い分けようとしていた名残です。修正してます。
4/24 誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。
5/07 誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。