87 全力の連携
クロスはソウシたちの話を横で聞きながら、絶対に違うだろうなと確信していた。だが指摘はしない。そんな暇はないからだ。それになにかソウシの力が増した気がしたので都合が良かった。
「よしッ。このまま油断せずに攻め切るぞ!!」
クロスは前に出る。フランと一時的に交代する。その間にポーションを飲んだりと休憩を挟んだ。
フェンリルを見ると所々に傷があり、疲労している。反応が最初に比べて少し遅くなっている。ダメージが蓄積しているからだ。
だが、長期戦になるほどこちらのミスが多くなる。出来るならもう少し情報を集めようと思っていたが、それを止め、決着をつける決断をした。
回復を終えて再びフランと交代する。そして、取り巻きと戦うパーティーが安定した時を見計らい、クロスが畳み掛ける。
予備パーティーを集め、ボスに集中させた。シオリとライラが自己強化の魔法を使用する。さらに飯島がアタッカーの武具に術に寄る付与をして強化する。そして、一時的にヒートヒールを解除する。
ライラの全力を引き出すためだ。それが集中砲火の合図となる。
フェンリルが周辺の気温が下がることに疑問を感じたのも束の間、カヅキが脚を、シオリが顔に目掛けて攻撃をする。爪や魔法で反撃をするも、鴨が短い間だが動きを制限させる強力な術を使用。
氷魔法が発生するが途中で形を保てずに崩壊した。体も思うように動かず、二人に攻撃は届かなかった。
いつの間にかナナセが真下に潜り込んでおり、そのまま真上に向かって跳躍し、強力な拳を畳み込む。魔物は耐えきれずに吐血する。
さらに続けて小倉が戦斧を振り回す。氷によるガードが間に合わず、深く刃が食い込み出血する。
激痛で暴れるフェンリル。そして、皆が直ぐに距離を取った。最後に時間をしっかりとかけた<チャージ>。ソウシが全魔力を込めた魔法を放った。
「<エクスプロード>」
声を張る訳でもなく、透き通る声で魔法名を呟いた。同時に巨大な爆発が発生する。砂埃が舞った。
暫くすると視界が徐々に回復する。そこで共通していたのは誰もが警戒を解かなかった事。師走が断言する。
「まだMPは大量にありますね……」
砂煙が消える寸前、氷の柱が隙間なく放たれた。それを回避するのではなく破壊する。だたソウシだけはその場で棒立ちをしていた。すぐに動けないほどに消耗していたのだ。
「肆式・<風切>」
それを分かっていたかのように、カヅキが現れ氷の魔法を粉々に砕いた。
「下手に動かないのは正解だったな」
「おい、遅いぞカヅキ」
ナナセが苦い物を食べたような渋い顔をした。ソウシの声の質が違った。僅かに甘い声を出したからだ。それに気が付かないカヅキは呆れたように言った。
「怪我してないだろ……」
フェンリルがゆっくりと姿を現す。皆はそれを見て深刻な表情をしていた。
「……タフな奴だな」
「ほんとにな……」
全身ボロボロのフェンリルが凄まじい形相をしている。氷を使って止血しており、眼光は鋭い。まだ戦えると殺意を放っていた。
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