86 奇跡の勘違い
ライラは合間合間にMP回復用のポーションをカブカブと飲んでいた。周囲を暖かくする分、大量のMPを消費する。いや、彼女に限った話ではない。隙を見ては皆、回復をしている。
魔物がソウシの魔法を受けて大きくバランスを崩す。カヅキがその隙に猛スピードでボスに突っ込む。
「伍式・<地……」
その時、クロスは魔物の表情に違和感を覚えた。非常に分かりにくい。しかし、よく見ると怯んだと思っていた魔物が、獰猛な顔つきでカヅキを目で追い、ジッととらえていた。
「なんだこれェ!!」
「待て黒霧!! 罠だ!!」
ボスからしてもカズキの動きは速かった。そのため優れた五感を使い、彼の視線や体の動きから、進行方向を予測し、攻撃をおこなっていた。
それは今までで一番巨大な一本の氷の柱。先端が杭のように尖っている。氷の杭は凄まじい速度で、彼に向かっていく。
しかし、幸いにも氷の柱はカヅキの真下を通り過ぎた。カヅキが偶然なにかに気をとられ、寸前で攻撃を止めて跳躍し、大きく進路を変更したためだ。
カウンターを狙ったボスは、彼の予想外の跳躍に攻撃をはずす。そのため彼は難を逃れた。
「あっぶねっ」
カヅキが奇妙な動きをした原因。彼は技を使う前、薙刀の柄の部分の不自然なモノに気が付いた。よく見るとシールが貼ってあった。ソウシのディフォルメのシールだ。
人気がある探索者はグッズが作られる事がある。そのシールを犯人のソウシは無断で貼り付けていた。
ナナセはその奇跡に戦慄を覚える。未来予知かと思わせる動き。昨日、鴨の不自然な動きと言葉を思い出した。
「あれが奴のスキル……恐ろしい一族だ」
奇跡的に命の恩人となったソウシ。それはそれとしてカヅキは彼女に対し苦言を呈す。
「っざけんな。勝手に変なシール貼んじゃねぇ!!」
声が聞こえないがソウシとナナセはそれに気が付いた。
「おい、なんか言ってるぞ?」
「吊り橋効果ね」
「あ? なんの事だ?」
「カヅキは死にかけた。そこで生存本能。不安や恐怖。あらゆる感情が同時に襲って最終的に素直になったって訳」
(あいつのスキルでもギリギリだったって事か)
「……その、つまり?」
「あれは私への愛の囁きね。探索者になってずっと面倒見てきたから懐いてたし。仕方ないっちゃ仕方ない。まあ、3年早いけど」
ソウシはまんざらでもない様子で気合を入れた。体から魔力が溢れてくる。
「ちっ。こんな状況でいちゃつくなよ」
「私じゃないって。文句はカヅキに言いなさいな」
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