85 記憶の欠片
魔物は倒れなかった。ここに来る前、何度か雷を放っている内に気が付いた。あの滑らかな毛と体に張った魔力による膜。それがまるでアースのように雷を逃がしているのだと感じる。
しかし、それは完全ではないようだ。魔物は嫌そうな唸り声をあげるとその方向を向いた。シオリが魔物と対峙する。
「似てる……レナの魔法……それに雷……」
彼女がそう呟く間に魔物は接近していた。爪による攻撃を繰り出す。
シオリはそれよりも素早く動き、魔物に一閃。急所は避けられたが、僅かに掠っていた。その拍子に高く跳んでいた彼女は離れて着地した。魔物は小さな強敵を睨み付ける。
「あ、そうだ。魔力の波長を。あれでもそんな事……あ、もしかして赤雷の本質は」
シオリはブツブツと呟き、なにかを考えていた。魔物が飛び込んできたのでそちらに集中する。攻撃の回避の応酬が続く。その間に彼等は<ヒール>を行い、立て直していた。
「……足りない。今の私じゃまだ。遥か上。高すぎる……」
攻防の応酬が終わり、地面に着いた彼女は巨大な魔物を見上げた。しかし、それは魔物というよりも別のなにかを見ているように感じられた。
そこで彼女の雰囲気が変わる。なにかに触発され、飛び込もうとしていた。それは明らかに時間を稼ぐ目的ではないだろう。
「上代感謝する!! ここは一旦大丈夫だ。別のパーティーも頼む!!」
それを聞いて我に返ったシオリ。彼女は雷の如く、凄まじい速度で去っていった。
シオリは回避重視とはいえ、魔物と十分にやり合えていた。このまま戦えば勝てていたのだろうか。答えは分からない、である。
ダメージはそこそこ与えていたが、体力やMPが最後まで持つかで言われると不明である。
それに弱った魔物は強くなることがある。これが一番の懸念点だ。まるでダンジョンで発生している力を吸い取っているかのように。
真相は不明。ただ本気を出しただけにも、最後の抵抗にも見えるからだ。
伊西はこちらの体力が減る状況でのそれを恐れている。やるなら万全の態勢を作ってから一気に畳みかけるのだと。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!!! 修正しております。




