84 神月は稀に風邪を引く
カヅキに助けられたナナセ。驚いた様子で呟いた。
「黒霧一刀流を使えるのか」
その疑問に近くにいた鴨が答える。
「当然だ。黒霧の血を引いている。だがその中でもあいつは少し変わっている。しがらみに囚われない。それを嫌う。故に型に囚われず、常に自由。その性質から刀以外でもあの流派をほぼ使いこなせる異端児だ」
鴨はジョブの恩恵だけであの流派を習得出来るはずがないと考えているので、その事は伝えなかった。
「それほどの男が……なんで当主争いに負けたんだ?」
「黒霧の伝統は知っていたか……あいつは上に立つだとか、そういうのは好きじゃない」
「……わざと負けたってのか?」
「半分正解だ。ていうかスキルがぷふっ」
鴨は笑いを堪え、すぐに真剣な表情に戻った。ナナセはそれに気が付かなかった。
「どういうことだ。それに奴のスキル。いったいどんな……」
「それ以上は本人に直接聞くと良い。答えるかは知らんがな」
伊西は汗をかいていた。巨大な魔物たちの中で一番小さな魔物を他よりも大人数で囲っているというのに、状況が芳しくない。
強力な攻撃にガーディアンが耐えきれずに吹き飛ばされた。
「ヒールを!!」
しかし、魔物は理解していた。吹き飛ばした男を無視し、藤原の方に突進する。
「しまった!!」
「ッ……<エアプレス>!!」
レナが風の塊を落とし止めようとする。走りながら鼻をスンスンと鳴らす。魔物は分かっているかのようにそれを避け、鋭い爪を素早く振った。
「うわああああ!!」
藤原は驚き。慌てて後ろに下がろうとすると、足元がもつれて尻もちをついた。ギリギリで当たらず、爪はただ虚空を切り裂く。
「おお!! ラッキー回避!!」
誰かが叫んだ。だが安心したのも束の間、魔物の猛攻はそれだけで終わらない。既に次の攻撃動作に入ろうとしていた。
「一か八か……<アイスストーム>……っ」
レナは氷魔法を使用した。氷を含んだ嵐が創り出された。皆はその魔法に驚いた。見た事がない魔法を二つ持っている事に。それが有名人なら分かる。しかし、名も無い彼女は学生のはずだと。
氷に強い魔物であるが手足のみならず体が半分程度凍結していく。束縛する氷は氷が体に絡みつき、足枷と手錠の要領で拘束するのに対し、この魔法は範囲内の温度を急激に下げ、対象を凍り漬けにし、行動を封じる魔法のようだ。
回避が困難で、さらに魔物にもダメージを与える。これはシデン直伝の魔法である。未だ成功率は低い。しかもミスをすると味方にも被害が及ぶので注意が必要である。
「なんとっ……!!」
「ぅぐっ……駄目、ここが限界っ」
「今だ藤原、早くこっちに!!」
彼が必死でその場から動こうとする。同時に纏わりついた氷が砕け、再び魔物が動き出す。その時、魔物に雷が落ちる。




