79 変な男
皆が集まっている場所から少し外れた所に、黒魔術師の鴨信重が座っていた。その雰囲気は暗く、大きなため息をついていた。
そこでどこからともなくやって来たカヅキが隣に座る。同時に欠伸をした。そして、何事もないようにくつろぐ。
「……」
お互いなにも言わずに時が流れる。
「黒霧のモノが……なんか用か、黒霧?」
「用って程じゃないよ。質の悪いソウシから逃げてきたんだよ。静かなとこがないかと思ってたら、な」
「暗くて悪かったな」
「身内にも似た雰囲気の奴がいるからさー。慣れというか、吸い寄せられたというか。別に悪意はないんだ。だからそう怒るなって。ていうかどうしたんだ、そんな他人行儀で?」
(それを自分で言うのか……)
「暗いのは否定はしないんだな。煽りのカヅキ」
「なんだそのあだ名? 初耳だぞ」
「相変わらず自覚が無しか。だがまあ、知らないのは当然だ。俺が個人的にそう呼んでるだけだからな」
「おいおいひでぇな。小さい頃はそんな性格じゃ……あっ。まっ、まあ、悪い奴ではなかったよな……ちょっと良い方向に改善した気がするし。ハハハ」
「そういうところだ。後、忘れているだろうが、俺の方が年上だ」
「いや、俺三男だしな」
「……? だからなんだ」
「お家とかそういうのには余り関わってない」
「年上への敬意を忘れるなと言っている」
「ハハハ。そんな大事なこと俺が忘れる訳ないだろう。相変わらず面白いなノブリンはァ」
「……ふん。ソウシそっくりだな」
「はぁ? どこがだよ。あんな阿保馬鹿女と一緒にすんじゃねぇッ!!」
そこで背後からスゥーっと現れたソウシが訊ねる。
「誰がなんだって?」
「誰って、馬鹿。決まってんだろ。あたかも明るくて積極的なお姉さん~、みたいな皮を被った暴力マッ……」
そこで鴨がボソリと言う。
「さらばだ」
「っ……ソウシって良い女だよなー!! なぁノブリン!!」
急に方向性を変えたがもう遅かった。
「いいね~。その話詳しく聞こうか? あっちの方で……」
「ちょっ。助けてノブリン!! あ、ノブシゲさーん!! たすっ!!」
カヅキはどこかに連れて行かれたのであった。
「やっと静かになったか」
それぞれ時間は流れゆく。個人が好きに動いていたのだが、不思議と壁を感じなかったという。
サポートパーティーの大きな支援は35階層の入り口までである。とはいえ、必要なら魔物を倒し、メインパーティーの後方の安全確保や逃げ道の確保はしている。クロスが伊西に言う。
「おかげで万全な状態で戦いに望むことが出来る。感謝する」
「成し遂げろよ」
「ああ……これより作戦を開始する!!」
クロスがサポートへ送ってくれたお礼を済ませると、彼等は計画していた配置へと進む。戦場は森の中を選んだ。
魔物は巨大さと俊敏さを併せ持つ。ヒーラーなど後方支援が狙われればひとたまりもない。視界を遮り、後衛を隠すのが大きな目的だ。
周辺の魔物を倒し、人の配置を整えたので、スカウトがフェンリルをおびき寄せるために36階層へと下りた。全員の緊張が高まる。




