7 浄化
【渋谷ダンジョン・渋谷階段】
ここには死霊系の魔物が沢山いた。骸骨やゾンビ系、人間から魔物と様々な種類がいた。
(普通の攻撃じゃ何度も起き上がる。倒したかどうかが分かりにくい。敵の数も多いし、思ったより初心者向きじゃないな……)
最大階層到達地点は34階。難易度が高いようだ。悪霊系の魔物が吐く瘴気が漂う。探索者の精神面にも作用し、耐性がない者は発狂する。
両方の手の平を横向きにし、対になるように額に当てる。偉大なる太陽の御業。もとい<セイクリッドスパーク>を使用する。光と炎の混合魔法だ。強い光と共に辺り一帯を火の粉が舞う。それに触れると魔物が浄化されていく。手当たり次第スパーキングした。
「うわあああ!!」
叫び声が聞こえたので何事かと駆け付ける。男性の方へ魔物が近づいている。彼は何故か非常に苦しんでいて、それに気が付いていない。
「どうしましたか!!」
「目がぁ!! 目がぁぁああ!!」
まずいと思い、速攻で接近して魔物を倒した。
「もう大丈夫ですよ」
彼は目を閉じたまま会話する。
「あ、ありがとう。最高のショーをしていたら急にそっちから強い光が……それに目をやられて」
「申し訳ございません」
90度に腰を曲げて謝った後に事情を話す。彼の目に異常がない事を確認した。治癒魔法もかける。特に怒ってなかったので安心する。良い人に申し訳ない事をした。
そして、<セイクリッドスパーク>は封印した。この世界では使えなそうだ。光魔法。聖なる力を剣に付与して魔物を倒す事に切り替えた。
二十階層付近で五人のパーティーが苦戦していた。邪魔しないように遠くから見ていたが、ここでのメイン火力であろう僧侶が霊体系の魔物に捕まった。黒い霧が纏わりつくと僧侶は目が上を向き、焦点が合わなくなった。そして、涎が垂らして苦しそうに痙攣する。
(ここから立て直せる、か……?)
「ラナを離せぇ化け物が!!」
良さげな装備の剣士が、自慢の剣を必死に振る。しかし、攻撃はただ空を切るだけだった。
「馬鹿!! 聖水はまだあるッ。先にスケルトンを!!」
「ぐああああ!!」
案の定、背後からスケルトンが持つ剣で切られた。さらにゾンビが脚に噛みつく。そこから一気にパーティーが瓦解した。
(流石にまずい……)
小さな光の球を放ち、僧侶を足止めする魔物を撃破した。その後、精神と傷、体力を回復させる浄化の魔法、<セイクリッドヒール>を使用して、コソっと僧侶を治療して助ける。
意識を取り戻した僧侶が浄化系の魔法を全力で放つ。急いで剣士を回復させると何とか立て直し、魔物を全処理した。かなり疲れており、息を切らして暫く座り込む。
どうやら一旦帰るようだ。反省会でもやるのだろう。下の階層に進もうと歩きだした時、僧侶たちが近づいてきた。
「あの……助けてくれましたよね?」
「あ、ああ……余計な真似を。ごめん」
「ありがとうございます」
「一応挽回できる道具は買ってたんだが……これクソ高いんだよなぁ……ほんと助かった」
聖水と同じ、誰でも簡易で浄化の魔法を使えるスクロールだ。彼等は立派な探索者だった。生き残る術を持っていた。
「あんた。名前は?」
「えっ……ギ、ギルティ」
「ほう。一体どんな大罪を背負っているのやら。ありがとなー」
パーティーと別れ、そのまま下って34階層に到達した。巨大な骸骨が地面から這い上がる。鯨のようなゾンビが周辺を数体で飛んでいた。
(がしゃどくろ……いや、この感じは違う。それにあの取り巻きはこの世界固有だな)
ゾンビが襲い掛かってくるも。聖剣ゴブリンソードで切りつける。腐った肉片が飛び散るが、綺麗に浄化され消滅する。剣を振り下ろすもそれをしっかりと受け止める。魔物の巨大な剣が砕け散った。
「もう休め」
範囲を広げた<セイクリッドヒール>で巨大な骸骨ごと辺り一帯を浄化する。そのまま50階層まで進み、剣士のゾンビを浄化した。
まだ奥に行けるが、レナとの約束の日まで浅く色々なダンジョンの探索を続ける。結局最初のダンジョンが一番よさそうだった。
朝テレビを見ると英雄譚のニュースが話題になっていた。何でもダンジョン、竜の巣窟で新記録が更新。71階層に到達したとのことだ。インタビューを受けているパーティーが映る。
「ブラックドラゴンを倒すという快挙を成し遂げた訳ですが。何か一言を!!」
「ブラックドラゴン?」
「確かに多少強かったですが。俺たちなら余裕でしたね」
「だが、71階のボスはヤバイ。前代未聞の強さだッ」
「素晴らしいコメントをありがとうございます!!」
(ブラックドラゴンか。会ってみたいな)
ボスとは探索者たちの行き詰った原因が魔物である場合。それがボスとして認知され、攻略法が話し合われる。それを倒せばまるで英雄のように扱われる。
チャンネルを変えると、二日前の渋谷階段も話題になっていた。
「渋谷階段の34階層。ボスが倒されていたということですが……どう思われますか?」
専門家の人にインタビューをしていた。
「現状も探索班が調査してますが、ほぼ確実に倒されているでしょうね」
「あの恐怖の象徴をいったい誰が倒したのでしょうか?」
「一説によればギルティと名乗る強者が階層を下っていったとの情報がありますからね。恐らくですが、その方が何か知っているかもしれませんね」
お茶を吹いた。地面に落ちる前に魔法で回収して胃に収める。食べ物や飲み物を粗末にしてはいけない。長旅やダンジョンではそれは死活問題になる。
「一人だったと聞いてますが……」
「多分、非常に相性の良いスキルを持っているのでしょう」
「にわかには信じられませんが……仮にギルティが倒したとすれば何故倒したと名乗らないのでしょうか?」
「謙虚だったという噂もありますが……恐らくは相打ちになり、死んでいるのではないかと思われます」
「なるほどっ。それはよくあるお話ですね。もしギルティに心当たりがある方は是非ご連絡ください!!」
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