77 一難去ってまた一難
その頃、戦闘が終わったのでメインパーティーと合流しようとしていた。藤原が水を取り出し指に付け、風を読み取る。
「まだ近くに魔物がいるかもしれません」
「流石に警戒し過ぎじゃないか。少なくとも視認できる距離には居ない。一度休息を……」
スカウトの女性が連戦を避けようと提案しようとしたその時、突然植物の魔物が現れる。すでに囲まれていた。
「なんだと!!」
「恐らくは地を這って近づいたのでしょう」
伊西が叫んだ。
「各自近い魔物を掃討せよ!!」
植物の魔物は間髪を容れずに消化液のようなモノをぶちまける。突然の奇襲に後衛が反応出来ない。
「危ない!!」
後衛は思わず恐怖の叫びを上げる。そこで動けない者を藤原が突き飛ばす。後衛は少し離れた位置で尻もちをついた。しかし、咄嗟に助けた藤原がそれを避けきれない。
「藤原ぁぁああ!!」
離れた位置で待機している武道家のナナセが呆れた様子を見せる。
「おいおい。MPを節約しろって言われただろ……」
誰もなにもいない所にシオリが<飛雷・乱舞>を放っていた。
「問題ない」
「ああ? ポーションの数には限りがあんだよ」
ソウシがナナセの肩を掴む。
「なんだよ」
「恐らくスキル……」
その一言で全てを察したのか驚いた直後に目を細めた。
「ちっ……」
ナナセは怒りを抑え、それ以上はなにも追及せず元の位置に戻る。それはシオリが言わなかったというのもある。
その怒りはヒーラーの師走にも理解出来た。MPを補助出来るスキルなど誰もが喉から手が出る程のスキルだからだ。しかし、彼女は優し気な表情を崩さなかった。人によっては微かに悲しんでいるようにも見えたという。
レナは驚いていた。突如として見覚えのあるモノが、シオリの魔法が魔物を焼き払ったからだ。そのおかげで大惨事にはならず、魔物を素早く殲滅出来た。しかし、一人間に合わなかった者がいる。消化液に触れた際に出る煙でその場所の視界が悪くなっており、彼がどうなったのか分からない。
「ふ、藤原!!」
視界が良くなると皆は驚愕した。彼が無傷だったからだ。幸運にも液体は触れてなかったのだ。
「ぉお!! 無事だったか!!」
「な、なんとか……」
伊西もそれを見てホッとしていた。そこで誰かが言った。
「流石は未来視ヒーラー!! 敵のデータを分析して避けたんだな」
「……まあ……そう、ですね……」
「すげーな!!」
「でもあれって結構レアな魔物じゃないか? ダンジョン攻略の本で挿絵をチラっと見たくらいだし、それには詳しい事はあまり書かれてなかった。よく避けれたな」
それを聞いて皆は疑問の表情を浮かべた。攻めるという嫌な感じではなく、単純な好奇心だ。
「……実はボクのスキルに関連があります。あっ。勿論データ解析で戦闘を楽にするのはボクの信念ですよ」
「一体どんな……いや、そう簡単には言えないか……すまない」
「……いえ、言わせてください。これは早めに言っておかないとフェアじゃない気がするので。これは個人的なプライドです」
彼等はそれを蔑む事なく静かに聞いていた。
「ボクのスキルは『幸運』。多少の失敗をしても何故か良い結果が待っています。ただ、似たスキルを持った親友は……つまりこのスキルは万能ではないと考えてます」
「はは!! 十分に良いスキルだって!! 最高じゃないか!! そのおかげで奇跡的に……あ、悪い。多分こういうのが嫌でそういう道に進んだんだよな」
「いいですよ。気にしてません。さあ、皆無事だったのですから戻りましょう」
こうして協力することで33階層までたどり着いた。ここで野営をする。警戒区域は35、6階層。一度大きな休息を挟み、ダンジョンの空気に体を馴染ませる。そして、万全な態勢で戦いに望む。
以前から調査していたフェンリルが睡眠を取る時間を狙って、皆は精神を研ぎ澄ます。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。




