76 誇らしげな顔
その頃、二手に分かれたサポートパーティーが、もう一つの塊も同時に襲撃し、討伐を終えていた。魔物の鳴き声で警戒態勢に入られる前に奇襲で数を減らしたかったからだ。
かなり後方で待機しているシオリが呟いた。
「あ、エアプレスだ」
それを聞いてライラが笑みを浮かべた。
「やりましたわね、レナ。ついに実戦で使えるように……」
エアプレスはライラの使うエアクラッシャーの規模を小さくし、レナ用に簡略化してアレンジした魔法である。彼女の使う魔法は強力だが、範囲も威力もけた違いなので扱いが難しい。そもそも魔法自体、並みの鍛錬では習得できない、ユニークな魔法として扱われている。
技や魔法は作り出す事が可能。だがこれで創造魔法の意味がないという事にはならない。分かりやすい違いを一つ挙げるとするなら、一瞬でそれを作れる事だ。
その気になれば戦闘中でも、必要な魔法を自由に生み出せる。生み出す魔法はその使い手のセンスとなる。
これは他のスキルやジョブにも言える事で、例えば力が上がるスキルがあるとする。スキルを持ってない者の握力が5とした場合、それを持つ事によって+5される。
しかしそれは握力10である結果しか分からないので、一見するとあってもなくても意味がないように感じるが、実際に内部ではその恩恵を受けているのだ。さらに、感覚的な部分も強化されている事もある。
それは長年使い込むほど差が出始める。それを持つだけで、その分野がある程度得意だと分かるのも利点である。稀にスキルと関係ない技術が秀でる事もあるので注意は必要ではあるが……。
ライラは自分が育てたと言わんばかりに、したり顔でフランを見つめる。
「うるさい」
「あら、なにも言ってませんわよ」
「くぅ……鏡持ってくれば良かった」
「きっと優秀な師の顔が映りますわね」
遠くでその様子を見ていたヒーラーの師走は興味深そうにシオリを見ていた。
(恐らく探知系の魔法。でも……動きまで特定出来る者とは滅多に出会えない。ダンジョン。いえ、あらゆる場面で重宝される力。頼もしい)
残りの二つを狩るためにギリギリまで隠れて接近し、準備を整える。離れていたとはいえ、二つの群れを倒したので危険を察知して警戒態勢に入っていた。
リーダーの指示で手前の群れと奥の群れが一列に並ぶよう回り込む。そう位置取る事で奥の群れに気が付かれても容易に攻撃を受けないようにする。
そして、手前の群れに襲い掛かる。今度は魔法から入った。今回は逃げられても奥の群れとぶつかるため混乱を与える事も出来るからだ。
だが、魔物は警戒していた事もあり、魔法の発生場所を特定して迎え撃つ。
「<アイスウォール>」
レナが群れの中心に魔法を放ち魔物を分断する。接近する者たちが心の中でナイスと称賛を送る。半分倒し終える。すると奥の群れがこちらを排除するために突っ込んできた。
同じく<アイスウォール>を使用するが、距離が思ったより遠かった事もあり上手くかわしながら襲い来る。しかし、時間稼ぎにはなった。伊西が指示を出す。
「前衛一時後退。魔法での集中砲火だ」
前衛が適度に後退すると同時に魔法の攻撃が飛び交う。少しでも弱らせ、数を減らす。頃合いを見計らい指示を出す。
「よし!! 前衛前に!!」
再び前衛が突撃する。待機中に多少休めた事もあり、力強い攻撃で魔物を殲滅していく。最後の一匹を倒すとソースが長々とポーズを決めていた。
後方にいるシオリが呟いた。
「あ、フランアイスウォール。壁を敵の分断に利用してる。上手い」
「ふふんっ。流石レナね……って。なんで私の名前を入れた?」
「……先生だから」
「……まあいいや。それにしても、緊張せずに使いこなしてるようで安心した」
フランも先ほどのお返しにと、したり顔でライラを見つめる。
「やかましいですわ」
「えー。まだなにも言ってないけど?」
「鏡の迷宮に放り込みたいですわ」
「落ち着きのある空間になりそうね」
ライラとフランは無言で見つめ合っていた。実に楽しそうであった。




