75 チームワーク
一方その頃、レナたちは魔物を倒しながら進んでいく。一段落と思えば、巨大な昆虫型の魔物が現れた。それに狙いを定める。
「<風刃>」
スカウトの女性が小さく感嘆の声を出した。
「学生とは思えない反応速度。戦闘慣れしてるし。最近の子は凄いわね」
魔法使いは先頭のパーティーに三人いる。その中で一番迷いがない動きをしていると感じた。若いながらもよく鍛錬していると。
「ここのダンジョンにはよく来てますので。でも他のダンジョンで同じように動けるかというとそれはまだまだで……それに集中出来てるのは皆さんのフォローがあるからですよ」
「それが見えてるなら十分よ。自己分析も出来てる。きっと優秀な教師に育てられたのね」
背後。少し離れた位置に居るライラが得意気な表情をし、フランが頭をかきながら照れていた。そんな時、ヒーラーの藤原が眼鏡をクイッと上げた。
「皆さん……近頃この辺は魔素濃度が高くなってます。生物の成長が早く、個体も増加しやすいエリア。油断せぬように」
気を引き締めるような声に皆は同調する。スカウトの女性が感心したように言う。
「へぇー。そうなのか。覚えておくよ」
スカウトがパーティーから離れ、周辺の索敵に行く。その間リーダーの伊西は半信半疑だったが、最悪の事態に備え、指示を出す。
「皆、警戒態勢に入れ」
無事に戻ってきたスカウトが報告する。
「本当に魔物がうじゃうじゃいる。この前まで居なかったのに。各個撃破した方が良いね」
「全体、一旦停止だ……」
列からはみ出た者がジェスチャーで後続に停止を伝えた。シオリとライラが急に止まったフランにぶつかる。ぶつかられた本人は足腰が強くびくともしない。まるで大きく聳え立つ壁のようだった。
クロスがメインパーティーも警戒態勢に移行させた。
「二十匹前後の塊が4つ。左右のこことそのちょっと前のここだ。奥の二つは距離が近いから片方をやってる際に気が付かれる可能性が高い。先に離れてる左右を叩いて確実に減らした方が良い」
地面に簡単に図を描き、このまま計画した進路を進むと衝突するであろう位置の群れを指しながら素早く説明する。魔物は集団での狩りを得意とする二足歩行の肉食蜥蜴。鋭い爪と牙を持ち、獲物を容易に切り裂く。
素早く倒したいと感じたので伊西は二つに分けているパーティーを一度集めた。魔物が後方に居ない事を確認する。一時的にメインパーティーに自衛を促す。勿論彼等を戦わせるつもりはないので警戒程度である。
最小限の指示で皆が配置に着いた。作戦を開始する。一番槍はソースだ。彼は槍を投げると同時に自らも突撃する。
槍は魔物の首に突き刺さる。魔物が低い鳴き声と共に戦闘態勢に入る。混乱し、かつ頭に血が上った瞬間を狙い、魔法使いや支援魔導師が魔法を使用する。
氷魔法で体温を奪いながらの攻撃。そして、闇魔法でさらに弱体化させる。そこで重戦士や軽戦士も参戦し、魔物殲滅に動く。
ソースも負けじと参戦する。槍を操作し、手元に戻すと魔物に次々と止めを刺す。最速でポーズを決めると、無駄のない自然な動きに戻り、そのまま次の魔物を倒す。
しかし、数が多かったので倒し切れなかった魔物が彼に襲い掛かる。流石の彼も苦い顔をして防御態勢を取る。
「<エアプレス>!!」
レナが新しく覚えた魔法。風の塊が頭上から下に向かって落ち、地面を砕く。その魔物を見事に倒した。
ソースはその援護に笑みをこぼすと、再び攻撃態勢に入り、残りの魔物も掃討する。戦い終わった彼はレナに賛美を送る。
「完璧なタイミング。良い魔法だった」
伊西も学生とは思えない動きに遠くで軽く唸っていた。
「とんでもない。サクさんの方が凄い動きでした」(レクイエム……?)
「フフフ。隠し切れぬものだな……才能ってやつは」
元々は魔法使いの攻撃から入る予定だった。しかし、こちらの姿を見せず、敵を認識できない状態では魔物が逃げる可能性があった。そうなると他の魔物グル-プが気が付き、こちらに向かってくるかもしれない。そこでソースが名乗りを上げる。
一人で群れに突っ込む事で魔物を油断させ、戦闘が起こるように仕向ける。そして、速やかに討伐する流れを作ろうと提案したのであった。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!!!! 修正しております。




