74 冗談と本気
ライラたちがフラフラと歩いているシオリを捕まえる。
「なにをしてますの?」
「エクスいない」
「……確かに、彼が居れば40人力ですわね」
「違う。107人力以上」
レナもバレぬようこっそりうなずいた。その空気が分からないフランが問う。
「なになに? なんの話?」
「そうですわね。一人で階層ボスを倒せる人間がいると言ったら信じますか?」
「無理に決まってんでしょ。なにそのファンタジー。頭打ったの?」
「まあ、当然の反応ですわね」
「……あ、あんた等まさか……ボスに一人で突っ込まないでよ……一度崩れたら立て直せるか分からないんだから……」
フランは恐る恐る二人を諭す。
「このパーティーじゃイメージ湧かないからやらない」
シオリは勘づいていた。植物や蛇の階層ボスは常に彼を警戒していた。だからこそ攻めやすくなっていた事に。
しかし、それはそれとして割り切っている。彼が居なくてもやる事は変わらない。彼女等は状況に応じて勝ち筋を探し続けるだろう。そして、強さを際限なく探求するのである。
レナが深呼吸をした後で言う。
「それじゃあ私はサポートの人達と合流するから」
「何度か私達と行ったから大丈夫だって。いつも通りにね」
「うん。ありがとう。頑張るから」
サポートパーティーが集まっている所に到着する。19人からなるパーティー。シュっとしたインテリの眼鏡をかけた男が話しかけてきた。
「ほう。噂では学生がいるとは聞いていましたが、君ですか」
「はい。校長先生から今回の件のお話を頂いて。一緒に戦う事になりました、風下っていいます」
クイっと眼鏡を上げた。
「ボクは藤原。ヒーラーをやってます。今日は役割を全うできるようにお互い頑張りましょう」
「よろしくお願いします」
そこにもう一人、別の男がスッと入ってきた。
「神代の風。古代の叡智。時空の狭間に眠りし黒き野獣に触れ、闇に魅入られし者……漆黒の佐久……以後お見知りおきを」
「え……あ、嗚呼……よろしく……」
動揺しつつも眼鏡の位置を正常に戻した。皆がそれに触れまいと、気を使いながら挨拶をかわす。
------------
ソース
LV:24
ジョブ:槍騎士
スキル:武器操作
備考:現代人。石宗助。
風下蓮奈
LV:22
ジョブ:魔法使い
スキル:不老の瞳
備考:有名人だらけで密かに気合が入る。フランたちに慣れてなければ緊張して全く動けなかっただろう。
藤原
LV:25
ジョブ:僧侶
スキル:不明
備考:魔物やメンバーのデータを集め、先を予測する凄腕のヒーラーとされている。
------------
・サポートパーティーの大まかな内訳
(色々なジョブがあるため呼び方も様々。ジャンルごとに分けて呼ぶ事が多い)
ガーディアン 2名
※魔物を引き付ける疑似的な壁の役割。タンクとも呼ばれたりする。
スカウト 2名
※先行して魔物を発見する。斥候。色々と器用な人が多く、武器は短剣や弓などを好む。
重戦士 2名
※パワータイプの戦士。斧など大きな武器を好む。
軽戦士 2名
※スピードタイプの剣士等。
魔法使い 4名
※妨害も使えるが、どちらかというと範囲や火力を上げる鍛錬を行い敵を殲滅する方面に進んだ者達。
ヒーラー 3名
※傷や体力を回復。毒などの治療を得意とする。動く屍、アンデッド等を浄化したりも出来る。人によっては他人のステータスを増幅させる魔法を使う。
支援魔導師 2名
※魔物を弱体化させたり妨害する魔法を得意とする魔法使いの総称。デバッファーと呼んだりする事もある。
補給(魔物使い) 2名
※食料や予備の武具等、必要な物資を運ぶ者達。ジョブは魔物使いである事が多い。
------------
あっという間に時間は過ぎ去る。準備が終わり、探索者が集まり出した。
メインパーティーの先頭と後方に、サポートパーティーを二つに分けて挟む形で配置し、行進する。人数と実力は偏っていて先頭が若干多く強いメンバーが集まっていた。
レナは先頭のメンバーに入っている。サポートパーティーのリーダー、伊西たちと共に道を切り開く。
古代の森に入ると、大勢の探索者たちでにぎわっていた。地上は混雑を避けるために討伐パーティーがダンジョンに入るまで付近の封鎖。入場制限が設けられている。しかし、フェンリル討伐のパーティーを一目見ようと、数日前から泊まり込みで集まっていたらしい。
「すげー、生クロスさんだっ」
「風菜ちゃんもいるぞ!!」
「俺たちの聖女様だぁ!!」
「小倉さんだっ。かっけぇー」
「渋いよなー」
「見ろよっ。天才少女の三人だ!! 可愛いー」
「千海さんと孤風だー!! ファンですー!!」
皆が適切な距離で応援してる中、一人の男が何食わぬ顔でパーティーの列に紛れ込んだ。もう一人の仲間がそれを見て盛り上がっていた。
付近にいたナナセがそれに気が付くとスッと近づき、そのまま流れるように腹部に拳を叩きこんで列から追い出した。
「ぐはっ!!」
男は吹き飛ばされ、地面に転がってピクピクしていた。やがて意識を失う。
「安心しろ。手加減は苦手だ」
気絶した彼に代わり仲間が抗議した。
「ひ、ひでぇっ。ただの冗談だろ!!」
「ああ? お前のせいでパーティー全体が危険な目に遭ったらどうすんだ? 本当に殺すぞ」
「ぅぐっ」
遠くで見ていたファンはそれに同意して頷いていた。そこで仲間が気が付いた。呼吸が浅いことに。必死で声をかける。
「ナナセさん。殴るのは構いませんが……流石に力を入れ過ぎですよ」
「いや、流石にスキルは使ってねぇよ」
「そこではありませんが……」
透き通った優しい声でそう諭したのは師走真尋。落ち着いた様子で歩き、徐々に近づく。その姿は何処か神々しい。
ヒール等の治癒に限らず、魔法は基本的に直接触れた方が効率が良く、威力などが高い。しかし、戦闘中では必ずしもそれは難しい。離れる程回復が遅くなり、MP消費が増加するなど無駄が生じる。
だからこそ近寄る彼女の行為は理解できる。だが、そんな冷静な師走を見ていたある男は急がなくて大丈夫かなとハラハラしていた。
それにメインの彼女にはなるべくMPを使わせたくはないが、誰も文句を言わない。この程度の消費は想定内であるようだ。
治療が遅ければ死ぬほどの重傷を負った男を治癒する。魂と意識が戻った男は目の前の女性に対して思わず口走った。
「せ、聖女様ぁ……」
「先ほどの行為は危険ですので止めましょうね」
「は、はい。すみませんでした……俺なんかのためにっ余計なMPを……」
「良いのですよ。困った時はお互いさまですから」
柔らかい笑顔を残して彼女は列に戻る。こうして彼女のファンが二人増えたのであった。誰かが小さなMP用の回復薬を渡した。事件は起こったが行進に影響はなかった。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!!! 修正しております!!
4/29 誤字報告下さった方、ありがとうございます!!! 修正しております!!
5/06 誤字報告下さった方、ありがとうございます!!! 修正しております!!




