73 各地の猛者たち
そこには黒霧神威に似た男がいた。よく観察すると若干幼く、歩き方がだらしない。得物は手には薙刀。さらに刀を帯びている。そんな彼の方へ女性が近寄ってきた。彼女は玩具を見つけたような表情をしていた。
「カズじゃん。久しぶり」
「うぇ。創士か……」
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創士風菜
LV:49
ジョブ:大魔導士
スキル:チャージ
黒霧神月
LV:46
ジョブ:武芸者
スキル:乳酸菌(知る人ぞ知る)
備考:黒霧家の三男
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「はぁーなにその反応。失礼ねー。ところで、カムーとかシンちゃん来てないの?」
「兄さ……シン兄が来るはずないだろ。そもそも家からでねぇよ」
「……それもそうね。じゃあカムーは?」
「なにか武者修行に行った」
ソウシは悪い笑みを浮かべていた。
「あ~アレ? レッドクリムゾンに負けたんだってェー?」
「負けてないって……あと一歩のとこで逃がしただけだ。後それ本人に言うなよ。キレるぞっ、てか切られるぞ」
「うわっ。マジのやつじゃん」
カヅキはなにかを思い出し、震えながらお尻を摩った。もしかしたら既に切られたのかもしれない。そこで、ある言葉に反応した女性が近づいてくる。
「もしかして、レッドクリムゾンの居場所知ってる?」
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七瀬希
LV:40
ジョブ:武道家
スキル:秘密
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ソウシが声をかけた女性に言う。
「知ってるはずないじゃん。知ってたら情報提供して金もらうわ」
「ちぇっ、見つけたらボコボコにしてやろうと思ったのにっ。どのダンジョン探しても駄目。全っ然っいないんだから。ほんっと何処にも」
「……なんか恨みでもあんの?」
「いや? 会った事もないよ。でも、悪いうえに強いんでしょう? 問答無用で殴れるじゃない」
「ドン引き……あ、見つけたら幾らまで払える?」
「ここだけの話。私かなり貯めてるよぉ……」
「マジぃー」
凄く嬉しそうな顔をしていた。その悪そうな表情にカヅキはうわーとドン引きしていた。呆れながらも彼はある事を言おうか迷っていた。意を決して終にそれを言葉にした。
「止めた方がいい」
「……あのカムイでも苦戦したんだから私だったら負ける、と?」
「……どうやら奴はスキルや魔法を奪うらしい。触れられたら最後。近距離……武器を使わない君とじゃ相性が悪すぎる」
「はぁ? 魔法も? ていうか、それデマでしょう? 奪われた人たち今日普通に参加してるし」
同時にフランたちの方向を見た。特に緊張している様子はない。
「本人たちはなにも言わないが恐らく……国が協力して助けたんじゃないか。詳細不明のスキルを受けて復帰できたのは幸運だった」
ナナセはそれを聞いて皮肉を込めて言う。
「はっ。流石は天才少女って訳ね。待遇が違う」
丁度タイミング良く、シオリが近くをフラフラと通りかかった。ナナセが雑に言葉を投げかけた。
「なぁ、上代。レッドクリムゾンのスキルってどんなのだ?」
振り向いたシオリは少し考えて言う。
「強いスキル。でも倒せた」
スキルをもっと具体的に聞こうと思ったが、その後の台詞が全てを忘れさせた。
「?? え、はぁっ。まさか捕まえたのか? そんな情報は……ッ」
「捕まってない。でも、倒した」
「??? カムイでも倒しきれなかった奴にLV31そこらで勝てるはずないだろっ。適当抜かすんなよ」
「38になってる」
「はぁ、38!!? 嘘つけって。こんな短期間に無理だろ!!!! LV1ならやり方によっちゃあ可能だが、30台が急激に上がるなんてあり得ねぇよ!!」
強い者が引率してLVを上げる行為はほとんどしない。急激に上がったステータスを使いこなす事が出来ないどころか、慢心から深い階層に潜り過ぎ、高確率で死ぬからだ。だからこそ学校が存在する。
学校は様々な魔物の生態や状況を知識として蓄え、実際に試す。それを少しずつ難易度を上げながら何度も繰り返し行う事で、自分の対処できる限界を知り、危機を察知する事が出来る。勿論最悪の事態にもなるが、格段に生存率が上がったというデータが残っている。
カヅキが横から口を挟んだ。
「いや、ボスを二体倒してるならそれには納得だ。ところで上代、悪魔も倒したのか? 恐らく奴の召喚は、その代償の強さに比例して強くなる。さらに力を付けた奴に勝てたのか……?」
「悪魔? 知らない」
意識して山での修行を思い出してもそんなモノは使われてないといった様子を見せる。悪魔という単語を疑問に思い、ソウシが訝し気に聞いた。
「なにそれ? そんな事誰も言ってなかったけど」
「げっ。しまっいや、なんでもない。今のは忘れてくれ」
「カズぅ。実は奴の居場所知ってるんじゃないでしょうね?」
「知らんっ。それはマジで知らんッ」
「それはぁ? 知ってる事大人しく吐きなって!!」
「うぎゃぁあ。ギブギブギブ!!」
薙刀が地面に落ちた。ソウシにプロレス技をかけられ悲鳴を上げるカヅキ。ナナセは呆れていた。
「カムイジュニア。その気になれば勝てるだろ。前衛なんだから」
痛みで返答できないカヅキの代わりにソウシが楽しみながら答える。
「ムリムリ。こいつ間抜けな顔と性格してっけど本質は黒霧だしー。邪悪判定もらわない限りはやりたい放題よォ」
「その思考。十分邪悪だろ……」
レッドクリムゾンを問答無用で殴る気満々の女性はそう言った。そうこうしている内にシオリはフラフラと何処かに去っていった。ナナセが呼び止めるが時すでに遅し。
「あ……まだ肝心な事を!!」
「マイペースね~」
「ん~変な奴。なんか弱そうだな」
「……ナナセだったっけ。貴方まだ会った事ないでしょう」
「当然初対面だ。ていうかお前もだろ。話しかけられてないし」
「そうじゃないって……独特な世界を持つ者。あれは……稀に見る天才ってやつよ。きっと魔物と対峙したら嫌でも分かる……」
「はっ。確かに戦闘の役割で得手不得手はある。でもな、強さってのはもっと単純だ。LVを上げれば強くなれる。世の中そんなもんさ」
「はは、その意気よ」
その一連のやり取りの中、カヅキは静かに何処か遠くを見つめていた。




