68 正確な下調べ
暫く校長先生とホテルの割引券を出したまま沈黙していた。校長の顔を見ると笑顔を見せる。そんな時、ドアが開く音が聞こえた。ドタドタと入ってきたのはシオリだった。
校長は気にしていないようだが、俺は心臓が止まるかと思った。割引券と名刺を慌てて懐に隠した。シオリがリビングに入ってくるや否や訊ねる。
「……誰?」
「がっ、学校の先生だよ。家庭訪問に来ててっ」
「君が上代君か。身長の割に立派だね。これをあげよう」
(それはダンジョン探索や修行とかやってるからな)
何処から出したのか、少し高い猫用の缶詰を渡す。
「おー。良い人」
「はっはっは、大正解だ。目利きが鋭い女性は飛鳥君の好みのタイプだ」
シオリはこっちを見ると硬直していた。心なしか頬が赤い。そう言い残して校長は帰る。二人だけになった時、シオリが真剣な表情で言う。
「これは高価な缶詰。私には分かる」
そう言いながら珍しくしたり顔を見せた。
「凄いな」
遅れてフランが帰ってきた。
「ちょっと、校長先生に会ったけど。なんで来てたの?」
「家庭訪問……だって」
「校長が? 直接?」
「今担任が忙し過ぎるみたい……ははは。ところでなんか言ってた?」
「ふふんっ。立派な壁だって褒められた。そ、それにガーディアンが一番好きなら最初からそう言ってくれれば良かったのに……」
最後は照れくさそうに口ごもる。
(そんな事言った記憶が……なんで皆怪しげな校長を信じるんだろ……)
ライラも部屋に入ってきた。ニマニマと嬉しそうに顔がとろけていた。目が合うと口角を緩めてデレェっと微笑む。
「……もしかして。先生と会った?」
「ええ、とても善い教師のようですわね」
「……地味に否定できないところが悔しい」
「キョウのような素敵な人が育つのも納得ですわ」
何度もウンウンと納得した様子を見せた。
「!!?」
フランが驚いた様子でテーブルに近寄る。チケットを持ち上げた。
「ちょっとこれぇ!! 水族館の限定イベントチケットじゃない!!」
「えっ……?」
「これと引き換えに三つまで好きなグッズを買えるのっ。二枚あるってことは限定ペん吉ちゃんコンプリート出来るじゃない!! サイト見たけど漢字に苦戦して購入間に合わなかったのよ!!」
フランは興奮していた。ライラが感嘆の声と共に頷いていた。
「そんなに貴重なものですの。それでは私とキョウで行ってきますわ」
「なんでそうなるのよっ」
それを聞いてシオリも参戦してきた。
「私が行く」
「ダメダメ!! このイベントの良さッ。そもそもペンギンの良さは貴方たちには分からないでしょう!!」
「バシャバシャして溺れてるペンギン見る」
「ペンギンは上手に泳げるからッ」
「知性の高い巨大なペンギンが水槽を突き破るのが楽しみですわねっ」
(パニック映画でありそう)
「破らないからっ。ライラは動物園のゴリラと力比べでもして遊んでて」
「あっ。フランがライラをゴリラって言った」
「……心外ですわね」
「いや、私はそうは言ってな……」
「ノーマルゴリラのパワーなんて、小学校で既に超えてますわよ。ゴリラと同格の扱いは止めてほしいですわね」
普通のゴリラとは動物の方だ。魔物は別のジャンルに分類される。フランは呆れていた。
「本当に力比べしてる人、いるんだ……」
そこでフランが我に返る。一旦部屋に戻り、実物やぬいぐるみの写真を大量に持ってきて、テーブルに広げた。
「さあ問題よ。商品を買うならどれを買う?」
シオリが直感で選ぶ。小さなぬいぐるみの写真だ。
「はいだめー。それはいつでも買えます~」
ライラが裏をかいてリアルな写真を手に取る。
「それは生息地に行かないと会えませんー」
(なんかズルイ気が)
「最後はキョウ!! さあ選んで……」
イベント限定と文字が入ってあった写真を見やすい位置に素早く移動した。まるで手品師のようだった。
「……これ?」
「正解!! 凄い!! パーフェクトォ!!」
(テンション高いな。余程ペンギン好きなのか)
「これで決まったね。二人には悪いけど私たちが最適みたい」
不正を訴えるが耳を貸さない。二人とも腑に落ちない表情を見せる。そこでシオリが残りのチケットに目を奪われた。
「猫島……?」
「ああ、猫だらけの孤島があるらしいな」
「いきたいっ。いくーっ。絶対いく!!」
「分かったよ……」
(あれ? じゃあ残りのチケットは……)
ライラがチケットを見てわなわなと震える。
「ウサちゃんですわよっ。ウサちゃんっ。キョウ、私のために!?」
「兎の島……ぐ、偶然だね」
「いえ、きっとこれは無意識にキョウが選んだのですわッ。私のために!!」
(あの校長すげー。凄すぎて逆に怖い……)
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております!!




