67 突然の家庭訪問
【探索者ギルド】
校長とギルドマスターが二人で会話していた。表情がいつもより硬く感じられる。
「上代君、ライラ君、そしてフランチェシカ君も。この短期間でLVが2つも上がってるのか……」
「そうみたいねー。B国やA国もどうやってLVを上げたか気になっているみたいだね。近いうちに聞いてくるかもね」
「そんなの知るはずがないだろう……」
「んー。少なくともあの連中は知っててもおかしくはないと思うが……」
「奴もその辺は言えないということか」
「まあ……」
なにかを言いかけたが、二人は暫く無言になる。お互いに目で短く会話をしていた。少し待っていると遠くから僅かに足音が聞こえる。それは次第に大きくなる。コンコンとドアを叩く音が聞こえる。
「どうぞ」
「ギルドマスター。政府から要望が来てま……あら校長先生、来てたんですね。お久しぶりです」
「相変わらずの美人秘書だね~。笑顔も可愛いしー。ギルマス分かってるぅー」
「こらこら、誤解をされるような事を。彼女は外見でなく、しっかりと能力を見て採用している」
「まあ! では私は愛想がなくて可愛くないということですか」
「いや。もちろん人柄も良いし美人だとは思うが。そういう事では……」
「フフっ。冗談ですよ。これを」
校長がいちゃいちゃして羨ましい、と悔しそうだ。秘書は大きな封筒に書類を入れて渡す。挨拶をした後、追加でごゆっくりと言葉をかけて外へと出た。
それを読み始めるとギルドマスターはため息を吐いた。
「なんて?」
「はぁー。色々ごちゃごちゃと書いてあるが。要するにフェンリルの討伐に行けとさ……」
「かーっ。なんでこう分からんかね。人不足だって言ってるっしょ」
「上にそういうのは伝わらん。昔と変わらず、な」
「LV40前後を集めないとな……」
「今までの報告から。LVだけじゃ足りない。戦闘経験が豊富な者、かつ強力なスキル持ちがいる。しかもこれはどうもきな臭い」
「どうして?」
「あの三人をパーティーに加えろと」
「わざわざ指定するか……誰が絡んでいるのやら」
「それ以外に一人確定で入れるなら」
「デッドか。だが、彼は断ると思うぞ。政府が介入してる時点で」
「……そもそも、こちらからは連絡は取れんしな……普段何処にいるのやら」
校長は特に動揺も見せず、日頃の様子と変らない感じでさらっと答えた。
「まあ、貴重な人材を死なせないために、俺も裏で出来るだけの事はする」
「助かるよ……」
【休日】
フランたちはレナと一緒に早朝からダンジョンに潜っている。彼女等は仲の良い姉妹みたいな関係になっていた。俺もダンジョンに行こうと考えていたらインターフォンが鳴った。
「あ、飛鳥君おはよう」
「おはようございます……」
どうしようか、暫くボーっと考えていると校長が言う。
「今エントランスだけど、もしかしてロック解除したことがない?」
「なにかご用事ですか?」
「はっはっは。ありありのアリだよ。用が無いとここまで来ないって。まー家庭訪問ってやつ~」
「「普通休日に来ないですよね」」「とかは無しにしよー。じゅーよーな話だよ。じゅーよーなー」
「……」
言いたい事を見事に重ねられた。魔法を使っていないのに、校長には本当に驚かされる。
エントランスのドアロックを解除する。数分後に家のベルを使わずにドアが叩かれた。家に招くと上ってくるまでに作っておいたお茶を出す。
「お、気が利くねー。先生はココアの方が好みだけど」
「待っててください。今それに継ぎ足しますんで」
ココアパウダーをお茶に入れようとするとコップを遠ざけた。
「おいおいおい。冗談だって!!」
「俺もです。それで、どうされたんですか?」
「いやー、実はね。皆でフェンリルを狩る事になってねー。知ってる? 狂暴な狼~」
「確か古代の森の35、6階層にいるやつですか?」
「そうそう。で、政府からあの三人をパーティーに入れろと言われてね」
「……強制ですか? それにフランたちもって」
「そこは当然本国からの許可がある。表向きは任意。でも断れないように何かしらの力が働く。いや、それ以前に彼女たちは断らない。分かってるだろう?」
「そうですね……」
「そこで、デッドってやつが居れば全滅はしなさそうだ、と思ってね」
「……デッドは……きっと迷うのではないでしょうか?」
「何故だい? 政府が関わっているから?」
「それは置いておいて……絶対に三人を死なせたくはない。でも、パーティーには……切磋琢磨をしながら成長してほしい……と考えるのでは」
「なるほど。良いジレンマだね」
「良いんですかね……」
「悩むという事は人生においてとても大切な事だ。きっとデッドは努力を怠らない人間なのだろう」
「……」
「でも、重要なのは死なない事だよ……生きていれば次がある。それに。一度や二度折れた程度で腐るような子たちじゃないよ。彼が一番分かっているはずだ。だから好きにやるといい」
「……」
「おっと、そうだった。お土産がある」
「……旅行に行かれたのですか?」
「んやぁ。行きたいけど忙しくてね~。ただのプレゼントだよ」
「はぁー……」
「人はいつ死ぬか分からないからね……楽しむが勝ちってやつさ。これを持っていきな」
懐から出したのは大人のホテルの割引券だった。それとハートマークの入った名刺。
「い、要りませんけど」
「あ、間違えた。悪い悪い。わざわざ金払って行かなくてもここに部屋は沢山あるようだからね」
「何の事かさっぱりです……」
そして、よく分からないチケットを六枚ほど貰った。いかがわしいモノではないように見えた。最初の割引券もテーブルに放置し、校長は立ち上がる。
(それは持って帰ってくれないかな)
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