64 悔いのないように食べよう
スカイロックの風景を堪能していると一瞬何かが見えた。どうやら女性が「冷蔵庫のプリン」みたいな事を呟きながら、ただただ自由落下していった。
転移魔法でスカイロックにその女性を優しく下ろす。こんな時、落下しているエネルギーは無意識に消している。いつの間にか自然とそうなった。
「ぐぇ$◎が△♪×¥う●&gyえぁあ”%#?!」
女性はスカイロックに背中を付け、まるで衰弱し地面に落ちたセミのように手足をじたばたしながら、苦しそうな断末魔の悲鳴をあげた。それが彼女の地面に落ちた際のイメージなのだろう。
(大丈夫かなこの人……)
暫くもがいているとスッと静止した。落ち着きを取り戻したようだ。そのままの体勢で悟った表情で言った。
「どうやら死んだら痛みを感じないようね……今話題の癒し系アイドル天宮花恋。スカイロックダイビングにて可憐に散る、ってところかしら。ふっ、笑えないわね」
彼女が力を入れて起き上がり立とうとする。しかし、腰が抜けて立てないようだ。
「くっ。何故立てない!! そんな!!」
動け、と鼓舞するように体を力強く叩く。
「痛み……死んだはずの私が? は!? まさか偶然助かったというの? 違う。死んでいるはず。
そうでなければこんなに体が冷たいはずが……」
何かを確認すると、一瞬で青ざめた表情になった。立てないのでほふく前進しながら崖の方へと向かう。その怪しげな行動を止めようと話しかける。
「何してるの?」
「私とあろう者が外でこんな粗相を。もう無かった事にするしか道がないのよ……って誰ッ?」
「風的な魔法で助けた的な」
「なるほど、最初からソコに居たということ……無様な私の姿を見て、ずっとほくそ笑んでたって訳ねっ!!」
「いや、なんか喋ってるなーっと。話しかけづらくて」
「あれを見られたからには死んでもらわないとっ。安心して。私もすぐにいくから」
フラフラしながらも気合で立ち上がると素手で構えた。凄く弱そうだった。
「あれとは? 俺は何も見てないが?」
「……見えすいた嘘を。そう言って」
「風と水の魔法を使ってクッションを作った。慌ててたから雑になった。もし服が濡れてたらごめん」
「!!? そういうことだったのね……危うく馬鹿な真似をするところだったわ。疑ってごめんなさい。貴方は純粋に助けてくれたってことね。ありがとう」
そう言って大きめの鞄から色紙を取り出してサインをくれた。さらにUVカットフィルムを使用しているケースを取り出して慣れない手つきで入れる。フィルムには彼女のディフォルメされた絵が描いてあり、限定品だそうだ。
「これを使用したのは貴方で二人目。嬉しいでしょうけど、安易にファンに見せびらかしては駄目よ。如何なる手段を用いても奪い取ってくる」
(ぇえー。冗談だよな、とは怖くて聞けない……)
その間に風の魔法で服など全体を乾かす。
(てか戦うための装備持ってないのに色紙はフル装備なんだ……)
「はいこれ、一年後には兆を超えるから持ってて損はないわ」
「は、はぁ……ありがとうございます?」
彼女は満足そうな表情を浮かべていた。
「ところでここ何層?」
「15階層だよ」
「十五。なるほど、私と同じってことかしら。はっ、それならこの邂逅には何か意味が……この階層になにか運命を感じるわ」
(普通は死を感じるんだけど)
「……ところで何でダンジョンに?」
芝居がかった様子で呆れたみたいなジェスチャーをした後、カッコイイポーズを決めた。
「ふっ……決まってるでしょ? 話題作りのためよぉ!! ダンジョンに入ったってだけでファンが増えるのっ。今やアイドルもダンジョンの時代!!」
「一人で?」
「フフ……私のLVはスリィーッ。一人で来るはずないじゃない。だから優秀な護衛を付けたわ……でも、まさかそのせいで怒り狂ったファンからダイレクトアタックルをもらうとは夢にも思わなかったけどッ」
「こわっ」
「嗚呼、ただ生きるだけで嫉妬を生み出す。なんて罪な女なのかしら……」
映画のワンシーンのようなポーズを決めていた。殺されかけたのに異様に明るい変わった人だと思った。
「そ、それでいいんだ……」
「この階層にソロボッチ。貴方……もしかして凄い人?」
「まあ、普通くらい」
(ボッチは付けなくて良い)
「それだと判断が難しいわね」
「判断?」
「うん、決めた。じゃあ私がもう一度上から落ちるから写真撮ってもらおうかしら」
凄い事を言い出したので思わず感嘆の声が漏れた。
「すげー精神力。でもこのカメラじゃ絶対にブレるよ」
「……私にいい考えがある。私は一階層から落下する。貴方はここで待機して少し高い所からタイミングよく飛び降りて頂戴。その時に私を綺麗に撮ってくれればそれでオーケーよ!!」
「難易度高……」
一度冷静になり、他の案を考えた。しかし、お互いカメラに詳しくないので高速で動く者をどう撮ればよいか、案が思い浮かばなかった。
「とりあえず試しましょう。あ……少々お待ちなさって。そこの茂みで精神統一するから。ただし絶対に近寄っては駄目よ。近寄れば私は鶴になってスカイロックから飛び立つわ」
「分かった。ここから動かない。でもここダンジョンだけど……あっ」
その言葉は既に耳に入っておらず、威風堂々と茂みの中へと消えていった。悲鳴が聞こえたのでその場から動かずに魔法で魔物を屠る。少しすると涙目で戻ってきた。
「じゃあ、始めようかしら。脚にはまったく自信がないけど奇跡的に一階層まで行ける気がする」
(ポジティブ過ぎんだろ)
「良い映像が撮れればいいんだよね。空中に氷でステージでも作ろうか? 落下は色々と面倒だし……」
(浅い階層だと人が沢山いるからな)
「!!? ……そんな事が可能なのかしら?」
「出来なくはない」
スカイロックが上手く映る位置。その階層が分かりそうな特徴的な岩を背後に、透明度の高い氷魔法で神秘的なステージを作成する。
テーマは王宮。床の摩擦をまるで地面のようにする。反射はするが、俺と特定の部位は映らないように魔法で上手く光を捻じ曲げる。
「素敵な王宮。まるで本物を見てきたみたい……計算された光の反射。なんて幻想的な……良い。凄く良いわっ」
「ど、どうも」
「貴方名前は?」
「……サンタクロース」
「ふふ、この季節に出てくるなんて。あわてんぼうさんなのねっ」
凄く良い表情で言われた。
「ハハハ……稀に言われる」
(手伝う気は無かったけど、この人面白いからのせられてしまった)
写真と踊っているシーンの動画を撮る。綺麗に黒髪がダンスに合わせて揺れる、相当動いていたが完璧な振り付けで、キレのある独特な世界観のダンスを踊り切った。それは凛としているようで情熱的。撮影している時、彼女はまさにアイドルであった。
とても素敵だと思った。ただ、絶対に癒し系ではないと思った。何度彼女の言動を思い出しても、そこに辿り着けなかった。
撮影が終わり、地上に送ると護衛の人が膝を崩して泣いていた。もの凄く謝っていた。深層に行くため、大勢の探索者やファンが集まっていた。もう少しで捜索に向かうところだったらしい。
安否を確認出来た事でプロデューサーは喜びに舞っていた。そして、突き落とした男の正体は瞬く間に拡散され、切れたファンから逃走しているようだ。
ダンジョン内で起こったので滅多な事では重い罪には問われない。しかし、罪に問われないからとそれを行うのは諸刃の剣でもある。倍返しも十分にあり得る事だ。それは理不尽に抗おうとする人の性なのかもしれない。
だが、天宮花恋はそれ等を全て許した。凛とした様子で何処か遠くを見ながら語る。
「気にする事は無いわ。そのおかげで私はさらに飛翔する事が出来た」
(危うく昇天しかけたけどな……さてと……ここらで邪魔者は消えるとしよう)
「それも全てこのサンタクロースのおか……っ」
「えっ、助けてくれた人がいるのかい。お礼をしたいと思ってたんだけど……ええっと、それで何処に……?」
「消えてる……今までずっと一緒にいたのに」
「消えてる、って? ここに来た時から。最初からカレンちゃん以外誰もいなかったけど?」
俺の姿は光の屈折を変更して見えないようにしておいた。悠々と建物の中に入り、誰も見ていない所に行くと転移でその場を離れた。不思議な現象にわなわなと震えながら彼女は呟く。
「ま、まさか……私が作り出した幻だとでもいうのかしら……これが白昼夢というやつかしらね」
動画を見直すとさっきの氷のステージは存在した。彼女は一人思いにふける。
「いえ、彼は確かに存在しているわ……そう、私の心の中で…………なむあみぃぃッ!!!」
彼女は自分が天然娘だという事に気が付いていない。
誤字報告下さった方、ありがとうございます。修正してます!!
5/1 誤字報告下さった方、ありがとうございます。困惑させてすみません。アタックとタックルを合わせた造語です。




