63 空飛ぶ岩
【新百合・スカイロック】
このダンジョンは人気だが、死亡率が高い。原因の多くは落下死である。
ダンジョンを覆う天井が無く、底が見えない奈落に宙を舞う岩が無数にある。これがスカイロックと言われる所以だ。そのままダンジョン名にもなっている。このダンジョンには天井が無い。だから魔物が出られないように結界を張ってある。
ダンジョンの外。周辺に異常が無いかを見張る建物がある。ダンジョンは基本ギルドで管理している。交代で見張っていて、異常があると彼等が避難警告、及び討伐をする。別の機関がたまに現場視察に来ている。
ダンジョンに浮かぶ岩は基本孤立しているので来れる者が限られている。先人たちが橋などを架けてはいるが、魔物に壊される事もある。ここは飛べる魔物が多く生息している。
癖が強く、人を選ぶにもかかわらず人気なのは、ダンジョンとは思えぬその壮大な風景から多くの人々が訪れるためだ。
さらに特徴的なのは、部屋が存在しないので魔素濃度の変化。環境で階層を分けている。最新到達階は55階層。銃や弓矢、魔法など遠距離を得意とする使い手が多い。意外に多いのは鎖鎌の使い手だ。
あるパーティーが上手く連携し、怪鳥を仕留めた。その仲間が大きく叫んだ。
「おい馬鹿っ。そこで倒したらっ」
「アアアーー」「ファーー」
このダンジョンに慣れてない者が、焦って地面の無い位置で倒したので、怪鳥はそのまま暗い奈落へと落下していった。
それをただ眺める様子は何ともいえない。隠しきれない哀愁が漂っていた。その時、少し下のスカイロックに居た者が鎖鎌を使い、落下している怪鳥に巻き付けると勢いよく引き寄せた。
「へへへ、大量大量!!」
それに気が付いた狩った者達が叫んだ。
「汚ねぇぞっ。俺たちが狩ったのに!! 今からそこに行くから待ってろよ!!」
「ハハハっ、解体するまでに来れたらな!!」
「最速の解体について来れるかなぁ!!」
位置すら計算しているらしい。その場所はかなり回り道をしないと来れない。さらにスカイロックが周辺に沢山あり、逃げ道も豊富だった。彼等は狩り慣れていた。
ある所では魔物、金属鳥を追っている者たちがいた。その鳥は鉱石を食べる。それがさらに鳥の胃の中で変化し、珍しい高価な鉱石となり、羽毛や皮膚、体全体に現れる。
ただし飛ぶのがあまり得意ではない。成長するほど飛べなくなってしまう不思議な鳥だ。高値で取引される魔物である。あるパーティーが地面を素早く走るそれを追いかけていた。
「待てぇーー!!」
「逃がすもんか!!」
「金金金ぇ!!」
「嗚呼、駄目だ!! それ以上は落……っ!!」
最後尾の男が叫ぶ。夢中で追いかける余り、彼等は地面の無い所に出てしまった。その鳥は滑空程度なら出来るので、スィーっと別のスカイロックへ移動する。
「うわーー!!」
落下する男達。急いで縄を投げるが、軽いので速度が出ず間に合わない。
(本当に落下死多いんだ)
風の魔法で彼等を一瞬止める。すると彼等が放り投げた縄が間に合い、必死でそれを掴む。
「うおおおおぃい!! 生きてるぅぅ!! 何故か生きてるぅぅ」
「き、奇跡だ間に合った!!」
「離すなよ!! 絶対に離すなよ!!」
「……」
「おい?」
「わぁーってるって!!」
「ぜ、絶対だからな!!」
「はっはっはっ。は、は………………」
「……おい?」
(伝統芸みたいなモノか。さて、下の階層に転移するか)
その結末は本人たちしか知らない。15階層に到着した。影が多くなり日が当たりにくい。しかし、壁の鉱石に光が反射する。何度も反射を繰り返し降りてきた光は独特の幻想を演出した。何時間でも居られる空間。いや、ダンジョンである。




