59 人間はやっぱり凄い
三人が出てこないので中に入ると、幸せそうな顔で意識を失っていた。
「MPの使い過ぎか」
三人を運ぶと布団で寝かせる。お爺さんにお礼を言う。
「ありがとうございます。貴方がいなければどうなっていたか」
「ふむ。お主等の頑張りがあってこそじゃ」
「そうですね。三人とも血反吐を吐きながら必死に頑張ってましたから」
「……あえて言うが、お主もじゃよ……まったく。そうじゃ。滝行衣と水着はワシが丁重に保管しよう。また何かあったらいつでも来るが良い」
(闇は常に心に潜んでいる。後を考えての保管。ギ、ギリギリセーフか?)
「はい。その時はまたお願いします」
三人が目覚めると、屋敷の外に出た。夢ではないのかと恐る恐る魔法を使う。そして、発動することを確認すると、子供のような満面の笑みを浮かべる。何度もそれを確認していた。その様子を見てほっこりと笑みがこぼれた。
(夕飯まで好きにさせよう)
五人で最終日の食事を済ませる。ここに来て約二ヶ月。当たり前なのだが、一番元気が良かった。各々で感謝の言葉を何度もお爺さんに言っていた。
翌日、下山する。車で途中まで送ってもらう。その後、ライラは実家に戻る。彼女を見送りながら心で謝罪する。
(ライラ、ごめんな……)
俺は最後まで黙っていた。LVを上げてない事を。俺は途中で気が付いたのだ。目的は果たしたので俺のLV上げは必要ない、と。
(さてと、元の生活に戻るとするか!!)
五日後の早朝。学校長に挨拶に行く。
「おや、久しぶり~」
「お久しぶりです。僕が居ない間、何かありましたか?」
「いやー。レッドクリムゾンが見つからないから何かと大変だよー」
「ぁー……学校の方ですけどー……」
「ああ、レッドクリムゾンは二年の赤宮って子だから学校の事だよ」
「……多方面の軋轢になりそうな情報を俺に言われても……」
「おぉ、悪い悪い。それでっ、大切な人たちはどうなったかな?」
「精神も体調も回復して、今は安定してます。休暇の件、ありがとうございました」
「……そうか。ここは喜ぶべきなのだろうな」
「?」
「米、英のある人達がスキルと魔法を何とかしろ、戻せ、としつこくてな。ったく輸血じゃないってのっ」
「ぁ……」
「……あ??」
「聞いた話になるのですが、そっちも戻りました」
「おおそうかそうか!! それは安心。これで他国も強くは言えなー……って今なんて?」
「三人ともスキルと魔法が復活したって、誰かから聞きましたけど?」
「どうやってッ!!?」
「さあ? 又聞きなので、何とも」
「……ねぇ効率悪くなーい? もう普通にしたら?」
校長を含め、正体を隠している人物には認識阻害の仮面で、デッドとキョウは別人と思っている。正攻法で認識阻害を破ろうとするのはこの星では不可能な魔法技術を使っている。
しかし、勘が鋭い一部の人は何かを理由に、無理やり思い込む事でそれを突破しているようだ。AIならバグって頭がおかしくなってしまうかもしれない事を平然とやっている。もはや才能としか言いようがない。人の可能性を感じ、自然と気分がスッキリとした。
「な、何のことかさっぱりですね。俺は常に普通ですが」
「……そうかーー。まあ戻ったならいいか」
話しを終え校長室から出ようとする。
「あ。君、ドッペルゲンガーって知ってる?」
「まあ、多少は。同じ人、つまりそれを見たら死ぬとか何とか」
「あーそうそう。確か一か月くらい前かな。お寺や神社で大体同時刻に似た人が沢山いたらしーよー。沖縄から北海道まで半月間って聞けばあり得そうなんだけど、件数が件数でさぁ。一言で言うならば、怪奇現象だね」
「へ、へーー。面白い事件ですねー」
「まあ、出会わないように気を付けたまえ」
(必死になって気が回ってなかった。気を付けないと)
「はい……それでは失礼します……」
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。




