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58 溢れ出す魔力

 お爺さんの話が終わると、シオリが眠そうにウトウトとしている。布団に寝かせると絶対に腕を掴まれる。


「おやすみキョウ」


「おやすみ……シオリ」


 名前を呼ぶまでは離してくれない。そして、日課のように残りの二人も運んだ。続けてライラを寝室に運ぶ。部屋に違和感を覚えたが、それが何なのかは分からなかった。


 自分の部屋に戻るとそれに気が付いた。布団が無くなっていた。襖を開けてお爺さんが出てくる。


「布団なら一番小さいのが運んでいたぞい」


「え、シオリが? 何で?」


「違う、銀髪の子じゃ。理由など直接本人に聞けばよかろう」


(小さい? お爺さん。フランとシオリを間違えてる気がする)


 言われてみればさっき布団が多かったような。でも冷え込むって言ってたし、彼女には必要なんだろう。誰も見ていない所で転移を使い、家から布団を持ってくる。


 明日も早いので横になると、お爺さんが再び襖を開けて言う。


「お主。予想以上に酷いのぅ」


「え?」


「いや、何も言うまい」


 そう言って、暖かくしている自室に戻っていった。とりあえず眠りについた。早朝、顔を洗っているとシオリも来た。非常に眠そうだ。


「おはよう」


「おはよぅ」


「……あのさ」


「ん?」


「昨日なんで布団持っていったの?」


「布団? 何が?」


「え?」


「?」


「いや、違うなら良いんだ……」


(フランなのか?)


「疑われた?」


「一番小さい子が布団持っていってたって」


「それフラン」


「ごめん」


「傷ついた」


 シオリはまったく感情を込めずにそう言った。


「悪かったよ」


「じゃあ猫飼っていい?」


「?? 良いんじゃないか? それは個人の自由だ」


「分かった」


 表情は余り変わらなかったが、声色から喜んでいるように聞こえた。



 一週間後、再び祠に入る。あの容赦の無い幻影を思い出したのか、三人は身構える。そして、緊張しながらも中へと進んでいった。


 悲鳴は聞こえない。しかし、驚いた声が響いた。それもそのはずだ。目の前には不遜の態度でレッドクリムゾンが嫌な笑みを浮かべ、立っていたからだ。


「なんて試練なの……」


 幻のレッドクリムゾンが勝ち誇った表情で言う。


「怖じ気ついたかフラン。いつもみたいに許しを請えば助けてやる」


「前回みたいにはいかないっ」


「スキルや魔法が無いのにか? 今のお前はただの凡人だ。いや、スキルに頼っていた分、それ以下だ」


「それでも……もう二度とあんたには負けない」


「そうかよ……じゃあ惨めに震えてないでとっとと来いよ。思い出させてやる」


 いつの間にか剣と盾を持っていた。三人はスキルの無い状態で強敵に立ち向かう。



 先日、お爺さんに相談した。幻覚魔法でスキル等を封印した本人を出してはどうかと。その案は採用され、封印を解くカギにするらしい。術には俺も協力した。



 三人をじっと待つ。そして夕暮れ時、お爺さんが両目を閉じて、ゆっくりと口を開いた。


「勝てなかったのぅ」


「……でも、心は折れてませんよ」


「ふむ。ここからでも分かるのじゃな」


「ええ……」


 レッドクリムゾンの記憶を渡したが、実際に術を使っているのはお爺さんだけだ。高難易度、複数の術が使われている。その一つに結界がある。術者以外が彼女等を認識できる事に驚いたようだ。


「どちらにせよ。今日は終わりじゃて」


 気絶している三人を屋敷まで運ぶ。目が覚めると敗北を思い出し、悔しそうに拳を握る。魔法とスキルが封じられている中、よく戦ったと言葉を出そうとした時、お爺さんが口を開いた。


「答えは外には無いぞい。自身の中にある……」


「私たちの中に……」


「共にそれらと歩んできたんじゃろ? あの男と似たスキルを持った人物と戦った者はかつて言った。奪った魔法やスキルは本人が使うモノの足元にも及ばない、と。もっとも大切なのは自身を信じる事じゃよ」


 お爺さんに事情を話した時に、そんな事を言った記憶はある。その言葉通り、三人は自分の中のスキルと魔法と意識して向き合った。それからさらに一週間が過ぎた。


 祠で再びレッドクリムゾンと戦う。


「今日こそは……」


「無駄だ。何度やっても俺には遠く及ばない。雑魚共は絶対に勝てないんだよ」



 スキルと魔法が無い状態だ。今回も当然のように何度も殴られ、切られ、地面に転がる。


「はっ。天才少女が聞いて呆れる……」


「その肩書は要らない。泥にまみれようとももっと強くなる。私なら皆をきっと守れる」


 いつもならこの辺りでダウンしていた。しかし、彼女たちも強くなっている。心身ともに。


「……まだ立つか。面白ぇ、丁度良いサンドバッグが欲しかったところだ」



(今までどうやって魔法を使ってた?)



 男は必死で立ち上がるフランを蹴り飛ばす。


「弱ぇーなぁ!! そんなんじゃ誰も守れねぇぞぉ!!」



(小さい頃……そうだ。体内の魔力を感じ。力を集める……)



 さらに男は殴り飛ばす。


「おら、どうした!!」


 だが何度転んでも立ち上がる。


(そうだ。今回の修行は……精神を集中させて。一気に魔力を……)


「解き放つ……」



「ああ?」



 その時、異変が起きた。フランから冷気があふれ出す。レッドクリムゾンがそれを見て驚愕した。


「ッなんだと……()()()はずの魔法を何故ッ」


「あの勝負は……確かにあんたの勝ちよ」


「あの勝負は、だとぉ!! 今回もその次も!! 何度やっても俺の勝ちなんだよぉ!!」


「でも今は……魔法が使えるッ」


「っ…………」


 しかし、可笑しな事に。焦っていた男は急に笑い出した。


「ク、クク、おいおい分かってるのかフラン? 栓をされてるのに水を無理やり流すって事は別の部分に相当負荷がかかるって事だ。いつか必ず壊れる。体も一緒だ。想定外の負荷に耐えうる設計をされてない」


 男は挑発するような笑みと共にフランに問いかける。


「それを無理やり壊すって事はつまり、精神崩壊を起こす可能性がある。失敗すればどうなるか……分かってるんだろうなぁ?」


「……変わらないね、あんたは。私はキョウを信じる。もうあんたのスキルの思い通りにはさせない!!」


 その叫びとともに氷の魔法が辺り一帯を包み込む。


「ッ……ま、待てぇッ止めろっ」



 外で様子を見ているお爺さんが驚いて立ち上がる。炎、氷、雷の魔力が祠を破壊しようとしていた。


「嗚呼。そうだ……これが見たかったんだ。前よりもずっと綺麗だ」


「なんとッ。この歳でここまで力をっ……まずいっ」


「前よりも出力が相当上がってる。ここは俺が」


 祠にダメージを与えないよう、内側を障壁で覆う。すると先ほどの揺れが見事に無くなった。お爺さんは口を大きく開けて驚愕する。


「お、抑え込んだのか……あの荒ぶる魔力を……お、お主は……」


「俺はただの――」


「変態じゃな……」


「いいえ」


 驚愕しながらも濡れ衣を着せようとするお爺さん。俺はしっかりとそれを否定した。


誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。

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