57 きっと大丈夫
三人は苦しんでいた。自身の中に眠る暗く悲観的な声に抵抗できない。迷子になった子供のように泣きじゃくる。
そんな時、何処からともなく男の叫び声が聞こえた。その声に自然と耳を傾ける。不思議と安心する声。三人はその男の名前を小さく呟いた。
フランは思い出した。唇をかみしめる。腕に力を入れる。脚に力を入れる。そして、震えながらもゆっくりと立ち上がる。
「そうだ……私たちのために」
「? どうして立ち上がる? ここに居ればもう何も考えなくても良いの。もう傷つかなくてもいいの!! 私が居なくても事件は解決したじゃない!! 他の人に任せればッ」
「五月蠅い……私を必要としてくれたから。彼はここに連れてきてくれた」
「それは嘘。彼は嘘つきよ。彼は弱った心にっ。弱みに付け込んでいるだけでっ。きっと自分が有名になるために私達を利用しようとッ」
彼と会った最初の頃、もしくは別の人間に対してそう思った事もある。しかし、フランは一緒に過ごした日々を思い出す。その問いに答える必要はない。答えるまでも無いからだ。そして、目の前の自分に対し諭すように言った。
「私がここで止まってたら。彼は永遠に前に進めない……そうでしょう?」
幻のフランは一瞬目を見開いた。それを理解していた。その答えを知っている。しかし、自身に抵抗する。それを遠ざけようと分からないふりをした。
「永……遠に……?」
「だって……」
フランは最後まで答えずに言葉を止めた。ジッとそれを待っていた。幻が観念して、ついにその続きを口走る。
「私たちが前に進むのを待ってくれてるから?」
フランは自身に優しく微笑んだ。
「必ず強くなるから……今よりもずっと。だから貴方はそこで大人しく見てなさいッ」
幻に向かい、しっかりと宣言した。それに驚いた様子をみせる。幻は笑っていた。それは最初とは違い、嘲笑などではなかった。
「……フフ。今は止めても無駄みたいね……でも、次に来る時を楽しみにしてる」
「残念だけど、その期待には応えられそうにない」
日が落ちた頃、三人は祠から出てきた。疲労しているだろう。それでも彼女等は穏やかに微笑んだ。憑き物が取れた様子だった。フラフラな三人を支えに行く。寄りかかるフランが言う。
「待っててくれてありがとう」
「うん。おかえり」
「ただいま」
夕飯になり、こたつを囲む。ぐつぐつと煮込まれた鍋料理が出された。三人に食欲が戻っている。
「中はどんな感じだった?」
箸が止まる。するとソワソワしだした。
「乙女の秘密ですわ」
「私も教えない」
シオリは少し違う答えをした。
「目標達成したらキョウだけに教える」
「お~、楽しみだ」
「は? じゃ、じゃあ私も」
「私もそれですわっ」
(凄い眼を逸らされてる。余程言いづらい事なのか。シオリの目標がデッドを屠るとかだったらどうしよ……)
フランが自分の両手を見つめながら言う。
「スキルや魔法は使えないまま、か」
「それに関してはどういう状態なのかを少し教える。準備は着々と進んでおるわい」
それを聞いて三人は食いついてきた。
「また使えるようになるっ?」
「どうしたらいいんですの!!」
「今からでも大丈夫!!」
「落ち着きなさい。山での修行、祠で学んだじゃろ?」
「ぅぅ……」
「一時的に闇は祓ったが油断は禁物。常にお主等の傍にそれはある」
三人は静かにうなずいた。
「今の健康な状態で最低一週間。いつもより厳しめの修行をするぞい」
「分かりましたわ」
お爺さんは簡潔に教えてくれた。
封印には必ず封がある。一番早い方法が封をするための印を断ち切る事である。劣化により自然にはがれるモノもある。無理やり力で壊す方法もあるが精神が強くなければならない。
種類にもよるが、複雑にして印を隠しているモノ。条件付きで強固にしてあるものなど様々。今回のは精神を鍛え、無理やりこじ開ける事を選択した。これはお爺さんが俺の気持ちを汲んでくれたからだ。
誤字報告下さった方、ありがとうございます!! 修正しております。
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