56 克服したはずの闇
暫くしているとシオリの悲鳴が聞こえた。何が起こったのか心配するフラン。彼女自体も体の震えが止まらない。そこで目の前に誰かが見えた。
「だ、誰?」
それはフランだった。自分自身が目の前にいた。
「これは幻……?」
幻は冷めた表情であった。
「そんな事しても無駄なのに……」
「そんな、事?」
「だってそうでしょう。貴方は違う」
「ッ……何を言ってっ」
冷めた瞳が動いた。逃げているフランに対して哀れむように話し出した。
「私に才能は無い。だからそれを誤魔化すためにパーティーを組んだ」
突然の言葉に一瞬言いよどんだ。遥か昔に決別したはずの思いが再び襲い掛かる。
「……だからこそっ。だからこうして強くなれたっ」
それを聞いた幻は嘲笑する。
「強く? いざって時にシオリを助けられなかったのに?」
「っ……」
「勝てないと意味が無い。だって死んだら終わりだもの。力を合わせて切り抜ける? それは大人になったフリをしていただけ。出来ない事を誤魔化して他人に丸投げしてる卑怯者。私はそこから気が付かないフリをして逃げている臆病者。惨めだよね」
「丸投げなんてしてない!! わ、私自身も強くなった!!」
「ハハハ、でも何も救えないけどね。結局最後にパーティーを組むのは天才同士。後はいらないよね? そこに私の居場所は無いの。天才の踏み台がお似合いよ、ふふ」
幻のフランは急に膝を突く。
「でも安心して。こうやって媚びへつらったら解決出来る。強者に従えばいい。だからもう戦わなくても大丈夫よ。本当の困難は強い誰かが解決してくれるもの」
フランが忘れかけていた記憶が呼び起こされる。耳を塞いでうずくまった。シオリに興味がないのは嘘だった。本当は羨ましかった。ソロで強くなる者達が皆妬ましかった。それを思い出した。フランは狂ったような悲鳴をあげた。
祠の外にも悲鳴は聞こえていた。二人の男は綺麗な姿勢で彼女等を待つ。
「ちょっと早かったかのぅ……」
「早いなんてことはないと思います。彼女たちは強い。それに今回のような事件は探索者になったなら何度も遭遇すると思います。だから……」
「ふむ。その歳で……余程の困難をくぐり抜けてきたと見える」
「そんな事は……ただ運が良かっただけです」
「しかもそれを誇示しないか……強いのぅお主は。じゃが、お主にも未熟な点がある。この短い期間でも気がつけるくらいにな」
「未来を見据える力……ですかね。通り魔はすぐに捕まるだろうと。彼女達なら大丈夫だろうと考えてました……」
「いいや違うぞい? それに全てお主が解決しては後進が育たんじゃろうて。それはお主も分かっておるから後手に回ったのじゃろう」
「ち、違うのですか? ではなんだとッ!!?」
「そこに立ってみよ。力を抜くのじゃ」
「は、はぁ……」
言われた通りにすると思いっきり蹴られた。
「うぎゃあああああ!!」
闘志が感じられず、まるで風のようであった。起こりが分からなかった。LVを抑えているとはいえ、反応できなかった。このお爺さんは相当の達人だと感じた。自信があっただけに少しショックだ。しかもわりと痛かった。
「何するんですかッ?」
「気付けじゃよ」
「?」
「それと先ほどの質問の答え。自身で見つけよ」
「ぇぇー……」




