55 移り変わり
翌日。目覚めると三人が既に起きていた。顔色からも分かるが、体調が良いという訳ではなさそうだ。しかし、彼女等からは強い意思を感じた。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫」
「もう負けないから」
「早く行きますわよ」
「ほっほっほ。若いとはいいのぉー」
明らかに昨日までとは眼つきが違う。苦しくともそれを克服しようとしていた。
(まさか爺さんが? 凄い!! 最初の頃はちょっとあれだと思ったけど。流石だっ)
修行に来て一か月。まだぎこちないが、少しづつ笑顔が戻ってきた。食後、くつろいでいると、疲れているのか上代が寄りかかる。
「ここで寝ると風邪引くぞ」
反応が無いのでおんぶして、部屋に連れていく。部屋には魔力充電式のヒーターが置いてある。ライラ家からの差し入れだ。布団をかけ、部屋を出ようとすると腕を掴まれた。
「寝ぼけてるのか、上代……」
振り払おうとすると強めの力で握る。
「どうした? 体調が悪いのか?」
「むかむかする」
(吐き気か……)
「洗面所に運ぼうか?」
「私だけ苗字」
「……え?」
「気分が悪い」
「特に意識してなかったけど。苗字で呼ぶのは日本人の性質かも?」
「レナって呼んでる」
「……あー……」
加わる力が強くなる。どうやら体調が悪い訳じゃないので安心した。
「じゃあシオリさんで」
さらに力が強くなった。
「……シオリ」
満足したようで、力が緩くなった。少しすると眠りについた。先ほどの部屋に戻ると二人とも寝ていた。せっせと運ぶ。先にフランをおんぶする。
「お手洗い」
そう言われたので向かう。外で待つこと数分後、再びおんぶして部屋に運ぼうとした。
「喉かわいた」
温かいお茶を入れて飲ませる。もう一度おんぶする。
「お手洗い」
「無限ループしないよね?」
「……一応有限かも」
一応有限だったのでもう数回往復すると寝室で寝かせた。最後にライラ。ぐっすりと寝ているので転移で運ぼうという考えが頭を過った。
「大きくて重いから運べないとか思ってませんか?」
「いや? そんな事は無いよ」
(普通に起きとる!!)
寝室に運ぼうと彼女をおんぶする。今までで一番力強くしがみついた。耳元で囁いてきた。
「このままゆっくりでもいいんですのよ」
声に覇気がない。自暴自棄という印象も受けた。
「寒いし、そのせいでライラが風邪引くと困るからやめとく」
さらに力強く絞められた。しかし、痛くはない。緊張が解け体を預けた印象を受けた。寝室に入り、彼女をゆっくりと下ろす。そして、しっかりと布団をかける。
さらに一週間が経ち。修行に新たに追加される。祠のような場所に連れてこられた。その中は暗闇となっており、そこで闇に打ち勝つという修行らしい。そして、ここに来た理由。ここからが本番である。
三人が同時に入った。余りにも暗く。近くにいるはずなのに一人になった。静寂な空気。彼女達は何をしていいのか分からず不安を取り除くためか、習慣になっている座禅を組んだ。




