54 少しずつ
LVを30にして先に滝行に挑戦してみたが、見た目よりも断然辛かった。これを毎日行う。
「それではこれに着替えるのじゃ」
「なんで男物の下着?」
「お主の大切な人三人じゃろ? 三人なら普通男だと思うじゃろ……?」
「え、いや。滝行衣的な着る物は……」
「ワシはただの世捨て人じゃ。んなもんは無い」
「大丈夫ですわ。もう慣れてますので……」
フランと上代は怯えていた。それを見て俺は拒否する。
「駄目ですね」
「……お主はちと頭が固いのぅ。姿形ではない。煩悩を祓うのが修行の目的じゃて」
「柔らかくするのに今から一緒に滝で修行するんですよ。ちょっと待っててください」
「ぬぅ。中々やりおるわい」
五分ほど経つと水着と滝行衣を用意した。お爺さんは驚いていた。
「お、お主……こんな短時間であの子たちのサイズを。生粋の変態じゃな」
「いいえ」
俺は全力で否定した。そして、修行を開始する。流木が落ちてきても彼女等のLVで頑丈なので死ぬことはない。それに念のため排除してある。
滝を浴びると次は山道を歩く。高低差がある山道を50キロメートル、毎日歩く。近くのダンジョンから漂う魔素が精神に負荷を与える。より凶悪な修行へと昇格させた。
長い道のりを歩いているとフランが話しかける。
「キョウ……LV4でしょう。無理しなくても」
まだまだ怯えた瞳。しかし、嬉しかった。苦しいはずなのにいつものように気遣いをみせる。戻る兆しを感じた。
「大丈夫。皆と一緒にクリアしたいから」
「キョウ……」
次は座禅。その後に経行をした。断食は無い。目的は封印と心の闇を取り払う事だからだ。一日目が終わり、疲れ切った体を湯船で癒す。その後、山の幸を頂いた。
三日が経過した。思ったよりも苦戦を強いられる。体調を崩した上代が嘔吐した。急いで駆け付けて介抱する。近寄ると彼女は何かに怯えていた。
「ふむ、ここまで心を蝕むとは……凄まじい怨念じゃな。その術をかけた者は余程憎かったと見える」
「そんなにですか」
上代はあの男を思い出し、怯えて耳を塞いだ。落ち着くまで少し休み、再び再開する。
何とか日課の修行を終わらせ皆は一休みする。俺はその間にお風呂掃除やトイレ掃除。廊下の掃除をする。お爺さんはそれを見て感心していた。
「むー。凄い体力じゃのー」
フランが小さな声でお爺さんに話しかけた。
「貴方はキョウと長い付き合いなのですか?」
「いや。半月前に出会ったばかりじゃ。お主等とここに来た時が二回目じゃよ」
「半月。丁度キョウが帰ってきた日」
「なんじゃ、聞いてなかったのか。たった半月で日本中を巡り、お主等を治療できる術を探しておったんじゃ」
「キョ、キョウがそんな事を」
「私たちのために」
「ワシはこれでも界隈では有名じゃった。じゃがこの通り全てを捨ててここに住み着いた。数十年間、誰からも見つからずにひっそりと暮らしてきたのじゃが、奴には見つかってしまったわい。本当に凄まじい執念じゃよ」
「……」
「奴の事はまるで知らんが。お主等が余程大切なのじゃろうな」
「大切な……」
「そうじゃ。もし日本に対処出来る者が居なければ海外にでも探しに行ったじゃろうな」
フランとシオリはほっと胸をなでおろした。嫌われていた訳ではなかった。むしろ、そこまで大切に思われていたのかと。その時僅かだが、体の芯が熱を帯びるのを感じた。




