52 希望を求めて
ある朝、校長室のドアを叩いた。
「キョウ君じゃないか。何か用か?」
「暫くの間、休暇を取ろうと思いまして」
「ご両親の許可は?」
「あっ。ありません」
「ほう。一応理由を聞いておこうか?」
「自分に出来る事をしようかと」
校長は少し考えて言う。
「例えば天才少女の奪われた力を取り戻す事が出来るとか? あるお嬢様は資金を豊富に持っていてね。世界中で奪われたスキルと魔法を取り戻す方法。精神の治療を既にしてる。だが、どれも失敗に終わっていると聞いた」
「分かりません。それとは関係ないですが、闇を断ち切る術を探しに行くところです」
「ふむ。力は戻らなくても心を救う、といったところか。じゃあ良いよ。行ってきなー。どうせ単位の話でしょっ。ダンジョンに籠ってる事にしとくよ~」
「いいんですか、そんな簡単に?」
「誰かのために動く。いいじゃないか。人生は長いんだ。しっかりと学んできなさい。生徒が頑張ってるんだからこれくらいの力を貸すよ」
「ありがとうございます、校長先生」
学校から離れ、さっそく転移を開始する。南から順に各地を巡り、北上していく。お寺に入り、教えを乞う。そのレベルに力を貸せる者は見つからない。しかし、もしかしたらという場所を教えてくれる。手当たり次第に訪問する。
B国の機関では騒ぎになっていた。ライラとフランをここぞとばかりに利用する。天才少女が失われたと大騒ぎをする。
レッドクリムゾンを指名手配にした。さらに日本へ彼の引き渡しと説明を要求する。匿っているのではないかと、批難を浴びせる。A国も同じだった。
正統な理由を持ち。大袈裟に騒ぎ立てる事で、外交を少しでも有利に進める気だろう。他にも混乱に乗じ、様々な国の機関が、日本に人材を派遣していた。
キョウの家ではレナが二人のお世話をする。トイレやお風呂に運ぶのが大変らしい。お昼に休憩していると、玄関で猫の鳴き声がした。ドアを開けると黒猫が中に入り、シオリが居る場所に入っていく。それに気が付いた彼女は黒猫をギュッと抱きしめる。
それを見て少し安心した。リビングで一人呟く。
「こんな時、シデンが居てくれれば……」
半月ほど経った、キョウは北海道に来ていた。残すところも少なくなってきた。この辺も駄目なら世界に探しに行く気だ。何が何でも探し当てる。とある住職が言う。
「うーん。もしかしたら……あの人なら……」
「教えてください!!」
「才能も実績あるが変わっていてな。彼は人を嫌っている。今は東北地方の何処か山奥に隠れ住んでると聞いた事がある。でも、生きているかは不明だよ。探すだけ無駄かもしれない」
「いえ、どんな小さな望みでも可能性があるのなら。助かりました。ありがとうございます」
東北地方、範囲は広いが確信を得た事で集中力が増す。通常は反応が強いモノを探す事が多いが、今回はその逆。小さい反応を探す事にした。
ある山奥に小さな屋敷があった。お爺さんが迷惑そうに顔を見せる。
「なんじゃこんな山奥に」
「実はお聞きしたい事がありまして」
「……知らん。ワシは何も知らんぞ」
「僕の大切な人たちが今苦しんでいます。どうかお力を貸して頂けないでしょうか」
「はっ……分かるぞ。お主はかなりの力を持っているな。そんな輩が持ってくる呪いなど関わりたくないわい!!」
「その魔法……呪いを解くだけならば簡単です。しかし、重要なのは自分の力でそれを乗り越える方法。それがあるのかお聞きしたく……」
「……解くのは簡単じゃと……」
お爺さんが俺をジッと睨み付ける。暫くすると家の中へ案内してくれた。お札が貼ってあった木箱から刀を差し出す。
「この呪いを祓ってみよ。話を聞くかはそれで決める」
「祓っても問題がない代物ですよね?」
「当たり前じゃ。頓知ならお帰り願おう」
「それでは」
浄化の魔法を使用する。禍々しいオーラが消滅していく。
「なんと……お主、何処も異常はないのか?」
「ありません。術が還らぬように無かった事にしました」
「なんとそんな事が。いや、しかしあの感じは……ふむ」
先ほど起きた目の前の現象を信じられないといった様子で見ていた。時間が経つと、何が起きたのかを次第に自分の中に落とし込み、ついに納得した。
「お主が対処出来ぬモノ。力になれるかは分からん。じゃが話くらいは聞こう」
「ありがとうございます!!」
経緯を丁寧に話した。すると一緒になって考えてくれる。ここはかなり神聖な地らしい。ここで修行をすれば、もしかしたらと。可能性があるならと必死でお願いする。お爺さんは暫く目を閉じて悩んでいた。そして、ゆっくりと目を開いた。
「ワシの負けじゃ。その熱意。若い頃を思い出したわい……連れてきなさい。出来る限りの事はしよう」
誤字報告下さった方、ありがとうございます!!修正しました。




